乳腺外科医 長尾育子氏

 今回は、乳がんと診断されたらどのようなことを確認して治療へと向かえばよいかという話です。

 マンモグラフィーや超音波検査などの画像検査の結果、乳がんが疑われた場合、組織検査を行います。組織検査は「針生検」あるいは「マンモトーム生検」と呼ばれます。乳房に局所麻酔を注射してから、腫瘤(しゅりゅう)めがけて針を刺し、針先で切って採取した腫瘍組織を病理検索します。採取した組織はいろいろな方法で染色し、顕微鏡を用いて検査しますので、結果が判明するのは1週間から2週間後になります。病理検査でがん細胞が認められた場合は、本人に「病名は乳がんです」ということを伝え、乳がんの検査と治療へ向けての話し合いを始めます。

 乳がんの診療を進める上で念頭に置きたいことは、「乳がんにはいろいろな種類がある」ということと「乳がんは乳房から全身に広がる病気である」ということです。治療は手術、薬物、放射線などを組み合わせて行いますが、乳がんの種類と進行の程度によって、治療の順番、用いる薬物の種類が違ってきます。

 針生検で採取した小さな組織で、乳がんの組織型、悪性度、ホルモンレセプター、Her2(ヒト上皮細胞増殖因子2型)検索など、がんの種類を検索することができます。ホルモンレセプターにはエストロゲンレセプターとプロゲステロンレセプターがあり、ホルモンレセプター陽性の乳がんに対してはホルモン療法が有効です。また、Her2陽性乳がんに対してはHer2タンパクに対する分子標的薬が有効です。このように、たくさんの抗がん剤の中からどの薬を選択するのかを決定するために、病理検査は大きな役割を果たしています。

 乳がんの広がりがどのくらいなのかを表す方法として病期(ステージ)分類があります。ステージは0~4で、要点は表を見てください。治療方針を決める上でステージ分類は大切ですが、それだけで病気の予後を明確に見通すことはできません。治療の効果は薬がどのくらい効くか、放射線治療がどのくらい効くかなど、いろいろな因子が影響しますので、たとえステージが進んでいると診断されても、絶望的になることはありません。

 診断後は乳がんはどのような性質か、ステージはどれくらいかを基に、治療方針を選択していきます。実際に治療を開始するまでの期間は、ステージの不安、治療の不安、家族や仕事の心配が大きくなることは当然だと思います。ぜひとも担当医や看護師などのスタッフに相談してほしいです。

 治療に専念するため、仕事を辞めてしまう、という類いの決断は早々にしないでほしいです。乳がんの治療を行いながら、現在の生活や仕事もできるだけ継続していく、これが第一の目標です。自分の人生の価値観、取り巻く環境によってこれだけは譲れない、という希望があれば、それを打ち明けた上で治療方針を担当医と話し合い、納得した上で進めていくことが大切です。

(県総合医療センター乳腺外科部長)