脳神経外科医 奥村歩氏

 認知症の連載、早くも第5回になります。ここであらためて、認知症の定義を確認しましょう。
 年齢を重ねる過程で、脳や身体に変化が生じます。望ましくない病変により脳の働きも低下します。そして、今までのように"その人らしく"暮らしていくことに問題が出る-この状態を認知症と称しています。

 つまり認知症とは、生活に支障が出る状態のことです。単独の病気のことではありません。

 認知症の原因となる病気は、100種類以上あります。代表的なアルツハイマー病は、認知症の原因の50%を占めます。しかし、逆に言えば、残り半分の認知症ではアルツハイマー病以外が原因となっているのです。認知症を原因別に分類し、理解することは重要です。なぜならタイプによって、症状や薬物療法、そして周囲の適切な対応法が異なるからです。

 今回は、最近注目されているレビー小体病について説明します。

 もの忘れの程度がひどい時と、しっかりしている時の波が激しいMさん(72歳男性)。Mさんは、少し前から便秘がひどくなり、胃もたれがして、食欲が低下していました。目まいや耳鳴りなど、原因を特定できない「不定愁訴」も増加していました。不眠症も認められます。血液検査や胃カメラなど、病院の検査では身体に異常は見当たりません。精神的な問題として睡眠薬と胃薬を処方されました。ところが、それらの薬を飲むと、Mさんはかえって体調不良になってしまいました。動きが鈍く歩行は不安定になり認知症の症状も進んでしまいました。

 その後Mさんは、かかりつけ医から当院を紹介されました。今までの臨床経過と診察や、脳の精密検査で、正常な場合やアルツハイマー病の場合と比べてドーパミン神経の減少が認められたことから「レビー小体病」と診断しました。

 レビー小体病の症状は多様です。もの忘れやうっかりミスが心配であると同時に、次の症状が当てはまる場合は、レビー小体病の可能性が高まります。

 ①心身共に調子が悪い 元気が出ない、不眠・不安、どこかが痛い、消化器の症状など。病院に通ってもよくならない方。
 ②目の見え方が変 暗闇で赤い服を着た女の子が見えるなど、「リアルな幻視」があればレビー小体病の確率が高いです。幻視はなくとも「何となく目が見えにくい」という方も要注意。白内障とよく間違えられます。
 ③睡眠時の異常行動 寝言の声が大きい。寝相が悪過ぎる。
 ④パーキンソン症状 動作が鈍くなる。手足の震え。歩行が不安定。
 ⑤薬剤の副作用が出やすい 風邪薬、胃薬・睡眠薬など、薬を服用すると、かえって体調が悪くなる場合もご用心。
 ⑥自律神経症状 血圧の変動が大きい。便秘、目まい、立ちくらみ、排尿障害など。

 レビー小体病は、専門医のさじ加減で、不定愁訴が劇的に緩和します。さらに、認知症の進行を抑制することも可能です。早期診断・早期加療が重要です。

(羽島郡岐南町下印食、おくむらメモリークリニック院長)