アーモンドアイで秋華賞(京都)を制し牝馬クラシック3冠を達成したクリストフ・ルメール騎手。ヴィクトリアマイルも勝ち、最強コンビで7冠を達成した

 強かった、アーモンドアイ(牝5歳)。ヴィクトリアマイル(東京)でのしなやかでダイナミックな走りは、競走馬の美しさと強さを最高の形で表現。無観客レースではあったが、ゴールへとひたすら駆ける雄姿は、テレビなど画面越しに観戦したファンを元気づけた。
 
 初夏のスポーツシーズン。例年なら野球やサッカーなど、花盛りとなるアスリートたちの戦いだが、今年はひっそり。新型コロナウイルス対策で中止や延期が相次ぎ、17日の日曜日、国内での生ニュースは競馬・ヴィクトリアマイルのみ。翌日の朝刊スポーツ面では「最強牝馬がGⅠ最多タイの7勝目」などとトップ記事で扱う一般紙もあった。
 
 アーモンドアイは国枝栄調教師(美浦、岐阜県出身)が管理、育成した現役最強馬。ヴィクトリアマイルは5冠馬アパパネでも制しており2勝目。1990年の厩舎開業以来、GIは18勝目(国内17勝、海外1勝)となった。

ヴィクトリアマイル(東京)で優勝したアーモンドアイ(代表撮影)=5月18日・岐阜新聞

 昨夏は安田記念(東京)に出走したアーモンドアイの応援で現地観戦したが、スタート後の不利が響いて3着。最後はすごい脚で突っ込んできただけに、負けて強しの内容だった。今年は「ステイホーム」が提唱され、テレビ画面を通してのヴィクトリアマイル戦になった。単勝1.4倍で断トツ人気のアーモンドアイは、好スタートから4コーナーを4番手で回ると、あとはワンマンショー。クリストフ・ルメール騎手は残り200メートルで軽く気合を入れただけで、ほとんど手綱を持ったまま。サウンドキアラをかわすと勝負あった。最後は流して4馬身差のゴールイン。画面越しに「よし」などと歓声を上げ、拍手を送ったファンは多かったことだろう。
 
 牝馬同士では次元の違うパフォーマンス。成熟した女王の走りは感動的だった。強い馬が強い勝ち方をする瞬間を、競馬ファンは待ち望んでいた。コロナウイルス禍で重い空気が漂う社会に「強く、前向きに生きようよ」とメッセージを送ってくれたようにも感じられた。芝のGⅠレースでディープインパクトなど6頭と並ぶ、日本馬最多の通算7勝目(うち海外1勝)を飾った。

 ここで思い起こされたのが、オグリキャップ(河内洋騎手)が7馬身差で圧勝したニュージーランドトロフィー4歳S(GⅡ)である。「追っていない、河内は手綱を持ったままゴールイン」という実況。後続を引き離す一方で「日曜午後の府中で、馬なりの調教」とも表現された圧巻の重賞制覇。クラシック登録がなかったため、日本ダービー参戦は断念したが、関東の競馬ファンをもアッと驚かせ、「幻のダービー馬」と呼ばれた。GⅠは有馬記念2回、マイルCS、安田記念の計4勝だったが、「オグリなら、クラシック3冠も勝てたのでは」と管理した瀬戸口勉調教師も語っていたように、プラス3勝で「GⅠ・7勝」に届いていたのでは...。

 もう一つ思い出したのは、かつて、馬がしゃべる番組があったこと。「ミスター・エド」というアメリカのテレビドラマで、日本でも放送された。「馬がしゃべる そんなバカな」などとテーマソングが流れ、サラリーマンである飼い主と会話ができ、悩み事を聞いたり、電話に出たり。改めてネット動画で見てみると、コミカルな口の動きで、本当にしゃべっているように感じられ面白い。

昨年の安田記念でパドックを周回するアーモンドアイ。レースでは3着に終わった

 アーモンドアイの7冠目は桜花賞、オークス、秋華賞、ジャパンC、ドバイターフ、天皇賞・秋に続くGⅠ制覇。ディープインパクトをはじめ、牡馬ではシンボリルドルフ、テイエムオペラオー、キタサンブラック、牝馬のウオッカ、ジェンティルドンナといった歴代名馬にあっさりと並んだ。ルメール騎手は「めちゃくちゃ強い。いいポジションでマイペースの競馬ができ、楽勝でした。彼女に乗る時はいつも特別な日」と。国枝調教師も「暑さとゲートを心配したが、リラックスしていて大人になったなと感じた。リズム良く走ってくれて素晴らしい競馬ができた。歴代の名馬の記録に並べてうれしい」と。
 
 3月のドバイ・ターフではアラブ首長国連邦入りしたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響でレースは中止。昨年末の有馬記念(9着)以来、約5カ月ぶりの一戦で復活を果たした。レース後の熱中症は心配なく「尻っぱねをするくらい元気があった。馬体に問題はない」(国枝調教師)と、次走の安田記念で8冠目を目指す。海外遠征が難しい現状、国内GⅠで史上最多のタイトルホルダーへと駆け上がりたい。

アーモンドアイを管理している国枝栄調教師。ヴィクトリアマイル制覇で、GⅠ18勝目を飾った

 国枝調教師にはもう一つ、追い求めてきた大きな夢がある。アパパネ、アーモンドアイで牝馬クラシック3冠を手にし「牝馬の国枝」のイメージが強いが、あとは悲願でもある日本ダービー制覇を達成したい。アーモンドアイでは、ウオッカのようにダービーに挑戦したい意向もあったが「オーナーサイドが決めること」と、牝馬3冠ロードを突っ走った。もし2年前のダービーに出走できていたら、どうだったか。個人的には「優勝馬ワグネリアンにも勝っていたのでは」という思いが強い。応援していた国枝厩舎からは、16番人気のコズミックフォースが3着に食い込んで大波乱を演出してくれた。

 かつてインタビューで「日本ダービーを取りたいよね、ダービー調教師として名前が残るからね。勝ってこの世界でまだまだ頑張りたいです」と意気込みを語っていた国枝調教師も今月65歳を迎えられ、定年まであと5年。今年は武豊騎手が騎乗したサトノフラッグで弥生賞ディープインパクト記念(GⅡ)を制覇。皐月賞はルメール騎手で5着に敗れたが、日本ダービー(5月31日)では再び武豊騎手が騎乗し、巻き返しを図る。皐月賞を勝ったコントレイルが無敗での2冠にチャレンジ。サトノフラッグも上位人気になりそうで、国枝調教師にとっても力が入る大一番になりそうだ。

■トウホクビジンの子がJRA初勝利

トウホクビジンのラストランは笠松・白銀争覇だった。長男のマイネルコロンブスがJRA初勝利を飾った

 このところ、笠松競馬で活躍し繁殖牝馬になった名馬の子が、中央競馬の3歳戦で勝利を挙げている。「鉄の女」とも呼ばれ、全国の地方競馬場で走りまくり、130戦という国内の重賞最多出走記録を持つトウホクビジン。5年前の白銀争覇がラストランとなり、9歳で引退した。北海道・ビッグレッドファームで繁殖牝馬となり、第2子の長男・マイネルコロンブス(牡3歳、清水英克厩舎)が5月16日、新潟5R・3歳未勝利戦で初勝利を飾った。

 騎乗したのは柴田大知騎手で、芝2400メートルの後方から豪快に差し切りV。デビュー2戦は12着、14着と見せ場もなく敗れていたが、2000メートル戦から距離が延び、直線が長い新潟で真価を発揮した。負け続ければ、地方競馬転出(笠松なら大歓迎)もあっただけに、価値ある1勝となった。父はゴールドシップで、長距離戦を中心に活躍の舞台を広げていきたい。

 トウホクビジンの第1子はユノートベル(牝4歳)で、父はアイルハヴアナザー。中央では勝てず、兵庫競馬に移籍し、昨年は園田で初勝利を挙げ、笠松・ぎふ清流カップに参戦し5着だった。第3子も誕生し、父はコパノリッキーで牡1歳。母トウホクビジンのたくましさを受け継いでほしいという、生産地の期待の高さがうかがえる。
 
 24日のオークス(東京)には、笠松グランプリを連覇した名牝エーシンクールディの娘スマイルカナが挑戦する。重賞フェアリーS(GⅢ)を勝っており、父はディープインパクト。桜花賞(阪神)では快調に逃げ、最後はレシステンシアと、勝ったデアリングタクトにかわされたが、3着と健闘した。オークスでは、引き続き柴田大知騎手が騎乗する。大逃げで粘り込むか、自分のリズムで走れば、持ち味が生きる。