毎日往復80キロの自転車通学を続け、球速が140キロを超えた3年のエース宮之上李音(りお)(17)。高校時代に強豪市岐阜商の主将で、高校野球の指導者になるため大企業の営業マンから今春転身した坪井大和監督(27)。関有知高校(岐阜県関市)には高校野球に並々ならぬ情熱を燃やすエースと監督がいる。夏を迎える2人にたぎる思いを聞いた。

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往復80キロの自転車通学で140キロを超える速球、制球を手にしたエース宮之上李音=関有知高

◇野球が好き―の一心で毎日こぐペダル

 全国でも、毎日往復80キロを自転車通学する球児はおそらくいない。自宅の大野町から関市まで、下りが多い行きは約2時間半、練習の疲れもある帰りは約3時間。それを下宿をやめた1年生の途中から、休まず続けている。

 「そりゃ、もう行きたくないって事はたびたび。特に授業が始まる月曜日と、金曜日はやめたい気持ちが強くなる」と語る宮之上だが、「野球のトレーニングになるから」と自らを奮い立たせてきた。

 中学時代すでに130キロの速球を投げていた宮之上は遠方だが、前任の横山玄斗監督に誘われて入学。しかし、課題は制球力。野手として試合に出場していたが、「もう一度投げてみろ」と言われてマウンドに立つと、自転車トレーニングで下半身の筋力が鍛えられた成果で、制球も徐々に安定し、球速も140キロに。春の地区大会に続き、最後の夏も背番号1を背負う。

 「夏はチームの勝利に貢献したい。もっと体力を付けて将来は150キロを」。親に買ってもらった相棒クロスバイクを手に、唯一無二の〝練習〟を続けるエースはさらなる成長を誓う。

情熱あふれるノックで選手の成長を促す坪井大和監督。営業マンから社会人特別選考で今春、教員になった=同

◇一度離れた道 高校野球への熱い思い再び

 坪井大和監督は2013年、高校3年の夏の岐阜大会、準優勝であと一歩で甲子園を逃した。名城大に進み主軸として活躍したが、目指していたある社会人チーム入りが果たせず、営業職として西濃運輸に就職した。「当時は、野球はもういいと思っていたが、夏がくるたび高校野球に携わりたい思いが強くなっていった」。高校の恩師・秋田和哉監督(現岐阜城北高)に相談すると、5年間、企業や官公庁に勤務経験があると一般採用とは別に社会人特別選考の採用枠があることを聞き挑戦、見事、一発合格した。

 赴任した関有知は強豪とはかけ離れた野球部。「最初は驚いたが、選手たちに自分の可能性を信じれば、できるんだというマインドを培いたい」という方針に徹し、厳しく、優しく、指導に情熱を燃やしている。

情熱あふれる指導に励む坪井大和監督

 「いろんな人と接する営業マンとしての経験が指導に役立っている。僕が秋田先生にしてもらったように卒業後も教え子の人生に寄り添える指導者になりたい」と目を輝かせる坪井監督。「どんな強豪も一からのスタートだったはず。選手と一緒に成長していきたい」。描く大きな夢に向け、最初の夏の舞台に立つ。

 森嶋哲也(もりしま・てつや) 高校野球取材歴35年。昭和の終わりから平成、令和にわたって岐阜県高校野球の甲子園での日本一をテーマに、取材を続けている。