泌尿器科医 三輪好生氏

 前回は、女性の骨盤底の緩みによって起こりやすい尿漏れのお話しをしましたが、今回は骨盤が緩んで起こるもう一つの病気についてお話しします。骨盤臓器脱という病気をご存じでしょうか。骨盤の中にある臓器(膀胱(ぼうこう)、子宮、直腸)が膣(ちつ)の壁を押して脱出してくる病気です。子宮脱という名前は聞いたことがあるかもしれませんが、日本人に一番多いのは、膀胱が膣を押して下がってくる膀胱瘤(りゅう)です。

 最初は膣の違和感、何かが挟まっている感じで気付きます。おりものが増えたり、下着にすれて出血したりすることもあります。お風呂で股の間に、ピンポン球のようなものに触れてびっくりすることがあります。長時間の力仕事や立ち仕事などで症状は悪化します。下がってくることにより尿の出が悪くなり、頻尿や尿漏れを伴うことも多いです。

 日本人の有病率は分かっていませんが、スウェーデンの疫学調査では出産経験がある女性の44%に骨盤臓器脱を認めたというデータがあります。昔の日本では、農村で力仕事をしている女性の間で「なすび」と呼ばれていたそうです。尿漏れの場合と同様で、人には相談しにくいため、一人で悩んでいることが多いようです。

 原因として、出産に伴う骨盤底の損傷が最も多いと考えられています。他には閉経に伴う女性ホルモンの低下、加齢に伴う筋力の低下、体重の増加などで起こりやすくなります。慢性の便秘や強い咳(せき)は、症状を悪化させる要因と考えられています。

 確実に治すためには手術が必要です。手術にはメッシュを使って弱くなった組織を補強する方法と、自己の組織だけで修復を行う方法があります。メッシュ手術には膣の壁を切開してメッシュを挿入するTVM手術と、腹腔(ふくくう)鏡を用いておなかの中からメッシュを固定する腹腔鏡下仙骨膣固定術(LSC)があります。自己の組織だけで修復する手術には、子宮を摘出する手術や緩んだ膣の壁を縫い縮める手術、膣を閉鎖する手術などがあります。それぞれの手術に長所と短所がありますので、違いをよく知った上で、自分に一番あった治療法を選ぶべきです。

 手術以外の方法としては、リングペッサリーがあります。ゴム製のリングを膣の中に入れて脱出した臓器を押し戻す方法で、外来で簡単に入れることができますが、自然に外れてしまうことや、体に合わず出血や痛みを伴うこともあるため、定期的な通院が必要になります。海外ではコンタクトレンズのように自分で出し入れする方法(自己着脱)が普及していますが、日本でも自己着脱の指導を行っている病院はあります。他には行動療法として骨盤底筋のトレーニングを行うことで、症状の改善や病気の進行の予防が期待できます。

 骨盤臓器脱は女性の膣や子宮に関係した病気ですが、膀胱にも深く関係し、排尿の問題も多く抱えているので、治療には産婦人科と泌尿器科の両方に関わってもらえると安心です。

 今は困っていない女性も、将来的にこのような問題で悩むことがないように、日頃から予防を心掛けることをお勧めします。次回は尿漏れ、骨盤臓器脱の治療、予防を目的とする骨盤底トレーニングについてお話しをする予定です。

(岐阜赤十字病院泌尿器科部長、ウロギネセンター長)