眼科医 岩瀬愛子氏

 緑内障と聞くと、すぐに見えなくなってしまう病気だと思っていませんか? 私のクリニックに来院する患者さんたちと話をすると、緑内障について、まだまだ正確な情報が伝わっていないと感じます。緑内障は、慢性的に視野が欠けていく目の視神経の病気です。

 初期や中期では視野障害の自覚はなく、自分が緑内障であるという自覚症状はかなり進行しないとありません。また片目が緑内障でも、もう一つの目でカバーできるので気付きにくいようです。しかし、視野が欠けると日常生活に支障を来すことがあります。例えば、両目ともに視野が狭いと、視力が良くても人とぶつかったり、安全な運転ができなくなります。

 緑内障という病気が、日本人でどのくらいの割合あるのか? という調査を2000年から翌年まで多治見市で行いました。当時の40歳以上の人口約5万4000人から無作為に3870人を選び、その中に何人の緑内障患者がいるかを調べたのでした。この調査は多治見スタディと呼ばれています。

 ここで分かったことは、40歳以上の5%、つまり20人に1人の割合で緑内障患者がいたということでした。そして、緑内障の人の割合は、年齢が上がるにつれて多くなり、70歳以上では10人に1人が緑内障にかかっていることが分かりました。

 この場合の緑内障とは、軽度なものから、ほとんど見えなくなってしまった人まで、すべてを合計した結果です。これは多治見市だけの特徴ではなく、環境の似ている日本全体でも同じと考えられるので、日本の緑内障の有病率として「40歳以上の5%」とよく引用されます。

 この多治見スタディでは、なんらかの原因で「視覚障害(ロービジョン)」の状態の人数も調べましたが、全体の0・5%でした。その中で緑内障は原因疾患の2位で、全体の0・1%でした。100人に5人がなる緑内障ですが、視覚障害に到達する人は1000人に1人と言えます。しかし、この有病率で計算し、日本全体では調査当時350万人とされていた予想緑内障患者数は、17年には470万人になりました。これは、有病率の高い70歳以上の高齢人口が増えているので、患者数も増加したのです。

 そして、緑内障はゆっくりと進行するのですが、症状が進行してしまった高齢患者も多くなっています。多治見スタディとは別に、全国で身体障害者手帳を交付した時の原因疾患を調べた報告があり、視覚障害の原因疾患の第1位が緑内障でした。緑内障は、なった人がすべてが失明するわけではないですが、日本人の失明原因の上位に緑内障があり、その過程で視野が次第に欠けていき、日常生活に支障が出る病気ということになります。

(たじみ岩瀬眼科院長、多治見市本町)