循環器内科医 上野勝己氏

 心臓には刺激伝導系と呼ばれる電気回路が張り巡らされていて、心臓の四つの部屋を順番に電気刺激して効率的に血液が送り出されています。

 この電気回路が十分に電気信号を出せなくなる洞機能不全症候群、心房と心室の間の電気回路が切れてしまう房室ブロックは、脈拍が1分間に30回、40回と少なくなり、心臓から全身への血流が十分に送られなくなります。そうすると、ふらつきや失神などの脳の血流低下症状、息切れ、呼吸困難、脚のむくみなどの心不全症状が現れ、放置すれば死に至ります。

 この電気回路の病気の治療の切り札がペースメーカーで、チタンケースで覆われた本体と、細いリードと呼ばれる導線から出来ています。本体にはリチウム電池と小さなコンピューターが内蔵され、心臓の電気回路の状態を絶えず観察し、必要に応じてリードから心臓に電気刺激を送り、体に必要な脈拍数を確保しています。どんどん改良が重ねられ、小型化して薄くなり、電池寿命も10年持つようになり、年間6万人の患者に植え込まれています。

 近年ペースメーカーの活躍の場は、これら脈が遅くなる病気だけにとどまりません。心室頻拍や心室細動などの突然死を来す脈が速くなる病気に対しては、不整脈を24時間監視し、いざという時に電気ショックをかけて不整脈を治すペースメーカーが開発されました。植え込み型除細動器といいます。

 さらには、心不全の治療にも応用されています。現在、慢性心不全患者は120万人いて、2030年には130万人に増えると予想されています。病院が患者であふれかえる、心不全パンデミックが起こると恐れられています。心不全患者の中でも重症例の30~50%に、心室内伝導障害という病気が合併していて、予後が不良となる原因となっています。

 心室内伝導障害が起こると、心室の内側と外側で収縮のタイミングがずれ、心室が全体としてうまく収縮しなくなり、心不全が悪化します。そこで、通常は心室の内側に1本入れるペースメーカーのリードを、もう1本外側にも入れてタイミング良く刺激することで、心不全を治療するペースメーカーも開発されています。心室内伝導障害のある70%の患者に有効です(心臓再同期療法ペースメーカー、両室ペーシング)。重症心不全の患者は重症不整脈も合併していることが多く、両室ペーシングに除細動機能が付属したものもあります。

 1930年代に初めて開発されてから約90年。心臓ペースメーカーはどんどん進歩してきました。最近では、心臓の拍動を利用して発電する電池交換不要のペースメーカーの開発が始まっています。

(松波総合病院心臓疾患センター長、羽島郡笠松町田代)