消化器内科医 加藤則廣氏

 今回のテーマは慢性膵炎(すいえん)です。慢性膵炎は、多くは飲酒や喫煙をする40~50代で発症します。主な症状は持続的な腹痛や背部痛などですが、徐々に病気が進行すると、こうした痛みはむしろ軽減します。また痛みの程度は個人差があり、強い鎮痛剤が必要な人から、ほとんど痛みを感じない人もいます。

 慢性膵炎は、消化酵素を含んだ膵液が膵臓自身を障害して、膵臓に慢性の炎症をもたらす進行性の病気です。慢性膵炎の診断基準は、アルコール換算量で1日に80グラム以上の飲酒とされています。慢性膵炎では膵液が出にくくなり、消化不良を引き起こします。悪臭を伴う、脂肪を多く含んだ脂肪便が特徴的です。

 また膵臓は、血糖を調節するインスリンを分泌します。進行した慢性膵炎では、インスリンの分泌不足で糖尿病を来し、糖尿病の診断を契機に慢性膵炎が見つかることもあります。慢性膵炎のその他の成因には、自己免疫性膵炎があります。血液の検査でIgG4が増加するため、IgG4関連疾患とも呼ばれます。また遺伝性の慢性膵炎も知られています。

 診断には血液検査の他に、CT(コンピューター断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像装置)、超音波検査などが行われます。超音波検査は通常の腹壁からの方法以外に、胃内視鏡の先端に超音波器具を取り付けた超音波内視鏡検査(EUS)が有用です。

 治療は、タンパク分解阻害剤や消化酵素薬などが投薬されます。飲酒は少量でも膵臓に炎症を持続させるので、禁酒や断酒が必要不可欠です。また喫煙は症状を進行させるため、禁煙も重要です。

 慢性膵炎の進行で膵管の壁が不整になり、膵管内に膵石ができると膵液の流れが悪化し、さらに慢性膵炎を増悪させます。そのため内視鏡的逆行性膵胆管造影(ERCP)を行って、膵管にプラスチック製ステントを留置したり、膵石を摘出して膵液の流れを良くする内視鏡治療を行うこともあります。また、膵石には尿管結石の治療法と同様に、体外衝撃波治療(ESWL)を用いる選択もあります。さらには外科手術も行われます。

 慢性膵炎は症状が進行すると、元の膵臓に戻ることはありません。また慢性膵炎は膵臓がんの成因の一つとされています。ですから、早期診断は重要です。2009年の慢性膵炎診療ガイドラインに、早期慢性膵炎の概念と診断基準が定められ、15年に改定されています。早期慢性膵炎の段階で適切な治療を受けると、元の正常な膵臓組織に戻ります。

 飲酒や喫煙をする人で、腹痛を感じている場合は、早めに消化器内科の専門医を受診してください。

(岐阜市民病院消化器内科部長)