産婦人科医 今井篤志氏

 今年開催された平昌冬季五輪・パラリンピックと前後して、女性アスリートの月経対策を特集した報道番組がありました。一般人でも月経時には、さまざまな体の不調を感じます。まして五輪・パラリンピック級のアスリートが、競技と月経とが重なると、成績に大きな影響が出ることは容易に想像できます。

 しかし「試合と重ならないように月経をずらす」とか「月経痛を抑える薬を飲む」などの対策をしているパラリンピック選手は4人に1人、五輪選手では半数です。最高のコンディションを作り出すために、さまざまな最新科学の支援を受けているトップアスリートですら、月経日をずらせることを知らないのです。今回は月経日の移動を考えてみましょう。

 月経時にはどんな煩わしい症状があるのでしょうか? 下腹部痛、腰痛、おなかの張り、吐き気、頭痛、疲労感、食欲低下、いらいら、下痢、気分の落ち込みの順に多くみられます。月経の初日から2、3日目にかけて出血が多い時に強くなります。キリキリと締め付けられるような痛みが、周期的に起こります。また、月経が始まる前の1週間くらいは、いらいらしたり、不安やうつ状態になる月経前症候群(2013年8月26日付本欄参照)に悩む女性も少なくありません。

 月経日の移動には、次の月経を「早める方法」と「遅らせる方法」があります。月経を早めたい場合には、月経が始まって3~7日目から二つの女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)を組み合わせたホルモン剤を飲み始めます。10~14日間以上飲み、中止すると2~5日後に通常の月経より少量の出血があります=図a=。この方法では、月経を避けたい日にホルモン剤を飲む必要がないという利点がありますが、ホルモンの種類、服用期間、個人差によってうまくいかない事があります。

 月経を遅らせる場合は、月経が始まって7日目から少量のホルモン剤を服用し続けます。4~6週間続けて服用し、月経を遅らせます。服用するホルモンの量が少ないのですが、服用中に少量の不正出血を来す事があります。最も確実な方法として、月経開始予定の5~7日前までにホルモン剤を飲み始め、月経を避けたい日まで飲みます=図b=。移動できるのは長くて10日間程度です。この方法は月経周期が順調で、次回月経が予測できる女性向きです。欠点は排卵後にホルモン剤を服用するので、妊娠の可能性に注意しなければなりません。

 重篤な副作用として静脈血栓症がありますが、妊娠中の血栓発生頻度よりも格段に低いと考えられています。妊娠中は、内服するホルモン剤よりもはるかに多量のホルモンが胎盤から産生され、血栓発生の危険性が高まるからです。

 一般の女性でも、結婚式や旅行、入学試験、大切な仕事など、ここ一番の行事が月経や月経前症候群と重なるのは避けたいものです。保険診療は適用されず自費での投薬になりますが、婦人科医の知恵を借りてください。

(松波総合病院腫瘍内分泌センター長、羽島郡笠松町田代)