循環器内科医 上野勝己氏

 特に女性に多い訴えに脚のむくみがあります。医学的には浮腫と言います。血液の流れが滞って、皮下に水分がたまった状態が浮腫です。

 一時的ですぐに治る場合には病的なものは少ないのですが、むくんだまま治らない場合は問題です。両脚がむくんでいる場合と、片方の脚だけがむくんでいる場合では、考えられる病気が異なります。両脚の場合には良性の薬剤性、あるいは特発性浮腫(ほとんどが女性でストレスや生理と関連)、心不全、腎臓病、肝臓病などの危険な内臓疾患が原因の場合があります。強い息切れや呼吸困難感、あおむけに寝ると苦しいなどの症状がある場合は、急いで医療機関を受診してください。

 片方の脚がむくんでいる場合は、局所の静脈の流れが原因と考えられます。動脈と違って静脈の血液はゆっくりと流れています。なので静脈には脈がありません。心臓より上の静脈の血液は重力で自然に心臓に戻っていきますが、心臓より下では逆に心臓に戻りにくいのです。そのため脚の静脈には逆流防止弁が付いています。下肢の静脈は表面には表在静脈があり、筋肉の中を走る深部静脈に流れ込んでいます。この弁があるので静脈内の血液が順次心臓に送られていきます。これを筋肉ポンプといい、第二の心臓とも呼ばれています。

 表在静脈の弁が壊れて流れが悪くなると、表面の静脈がこぶのように膨らみます。これを下肢静脈瘤(りゅう)と言います。妊娠や出産をきっかけに女性、立ち仕事の人や高齢者にも多く、運動不足や肥満も原因となります。

 見た目が悪いため、心配して受診する患者が多いのですが、重症の場合は別にして命に関わることはありませんし、日帰り手術で治療もできます。しかしまれに表在静脈内に大きな血栓ができることがあり、深部静脈を通って肺に飛ぶ恐れがあると、緊急の治療が必要になることもあります。

 一方、深部静脈の流れが悪くなると、深部静脈血栓症という命に関わる病気になる場合があります。静脈の中に急に血の塊ができ、さらに静脈の流れが悪くなり、下腿(かたい)だけでなく、ひどくなると太ももまで脚が赤く腫れあがります。熱感もあり、ふくらはぎに痛みが出てきます。

 この血栓がはがれて肺に飛んで詰まると肺血栓塞(そく)栓症を起こし、重症の場合はショック状態から死に至ります。慢性化すると脚がだるくなる、こむら返りを起こしやすい、皮膚の色素沈着、難治性の皮膚潰瘍ができたりします。また肺に小さな血栓が飛び続け、肺機能が低下して肺高血圧症となると、呼吸困難の原因となります。診断には下肢静脈エコーが有用です。

 静脈内の血流が悪くなる、静脈内圧の上昇で壁に傷が付く、血液が固まりやすくなるの三つの要因が重なって血栓ができるのです。長時間動かない、脱水が問題で、手術後に長期床につく、長時間の飛行機旅行、災害時の避難生活などが危険因子となります。肥満や家族歴があると、この病気になりやすくなります。普段から歩いて筋肉ポンプを動かす習慣をつける、同じ姿勢を続けない、座っていても足首やふくらはぎを動かすことが予防になります。

 (松波総合病院心臓疾患センター長、羽島郡笠松町田代)