整形外科医 今泉佳宣氏

 人間の骨は約200個あります。どの骨も骨折する可能性があり、その治療は決して易しいものではありません。

 まず正確に診断することが大切です。骨折の診断には単純X線写真を用いますが、それだけで診断できない場合は、CT(コンピューター断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像装置)検査を行うことがあります。そうした検査によってどの骨が折れているのか、骨のどの部位(真ん中か端かなど)で折れているのか、骨が砕けていないかどうかなどを確認します。

 骨だけでなく、骨折している付近の皮膚の状態も観察します。骨折した部位の近くの皮膚に傷がある場合は要注意です。皮膚の傷を通して骨折部位が外と通じている場合は、開放骨折と言って治療がより難しくなります。

 そして忘れてならないのが、骨折した患者さんの年齢・性別・合併疾患の存在です。高齢の女性は骨粗しょう症を有していることが多く、骨がつきにくいことは容易に想像できると思います。また糖尿病、慢性閉塞(へいそく)性肺疾患、慢性腎疾患を有する人の骨折治療も、時間がかかることが多いです。

 骨折治療の原則は整復と固定です。整復とは、折れてずれている骨同士を元の形に戻すことを言います。X線透視装置を用いて整復を行いますが、ずれを戻すときに痛みを伴います。

 骨折の固定と言えば、多くの人が「ギプス」という言葉を思い浮かべると思います。ギプス(Gips)という言葉はドイツ語で、英語ではキャスト(cast)と言います。かつてギプスは、石こうをつけた綿包帯を水に浸した後に、それを骨折した腕や脚に巻き付け、時間がたつとともに石こうが固まり、折れた骨を固定するものが主流でした。現在は、水硬性樹脂を含んだガラス繊維製の包帯ギプスが一般的となり、石こうギプスを見ることはほとんどなくなりました。

 ギプスによる治療は現在でもよく行われていますが、問題点として骨折しているところだけでなく、関節を含めて長期間固定するために、ギプスを外した後に関節の動きが悪くなることや、筋肉が萎縮してしまうことが挙げられます。またギプス内転位といって、ギプス固定中に骨がずれてくる可能性があります。

 その他の治療法として、骨折した腕や脚を持続的に引っ張るけん引療法があります。小児の肘や大腿(だいたい)骨の骨折の治療目的で、現在でも行うことがありますが、長期間寝ている必要があるため、あまり行われなくなりました。

 これらの治療法は、手術を行わないので保存治療と言いますが、保存治療の問題点を解消するために手術治療が行われるようになりました。次回は骨折の手術治療についてお話しします。

(朝日大学保健医療学部教授)