地方競馬通算100勝を達成し、笑顔の深沢杏花騎手(笠松競馬提供)

 若い力が躍動した。笠松競馬の深沢杏花騎手(21)が地方競馬通算100勝を達成した。新人の松本一心騎手(18)は、けがから早期復帰を果たし、ヤングジョッキーズシリーズ(YJS)のトライアル金沢ラウンドで5着と健闘した。 

 深沢騎手は2020年4月にデビューし、今年で4年目。コロナ禍による無観客開催や一連の不祥事によるレース中止など「逆風」続きだったが、田口輝彦厩舎に移籍し心機一転。昨年は初めてフルに戦って48勝。今年は名古屋でも初勝利を飾って計28勝。飛躍の年を迎えた。8月18日の笠松1Rでコールマン(牡3歳、大橋敬永厩舎)に騎乗し、800メートル戦で逃げ切りV。笠松競馬の女性ジョッキーでは、中島広美騎手以来となる待望の100勝目を飾った。

コールマンに騎乗し、100勝のゴールを決めた深沢騎手(笠松競馬提供)

 ■「祝100勝」ジョッキー仲間が祝福

 装鞍所前では、笠松や名古屋の多くのジョッキー仲間から「おめでとう」と祝福の嵐になった。笑顔で深々と頭を下げると、早速「祝100勝 深沢杏花騎手」のボードも用意された。記念の勝利をプレゼントしてくれた騎乗馬と口取り写真も撮影し、喜びがはじけた。

 3歳未勝利戦。人気がそれほどない馬だった(4番人気)が初めての騎乗。「3キロ減で乗ったら、変わるかなあ」と好ダッシュからスイスイと1着ゴール。22戦目での初勝利に導いた。「スタートをうまく出てくれたんで良かったです」。2着・東川慎騎手、3着・長江慶悟騎手と若手同士の争いを制し、会心の一撃となった。

100勝を達成し、笠松や名古屋の騎手仲間らから祝福を受ける深沢騎手(笠松競馬提供)

 99勝目を挙げた16日6Rでも好騎乗を見せていた。ピューリファイに騎乗し後方から大まくり。ベテラン・向山牧騎手にハナ差で競り勝った。減量の特典が大きい見習騎手は、逃げ切り勝利も多いが、深沢騎手はビシビシ追って差し切りを決めたいタイプでもある。

 若手に適用される「減量騎手」を卒業するには、次の101勝目が必要になり、一人前のジョッキーへと階段を一歩上がることになる(女性騎手は常時2キロ減)。深沢騎手は「成績は昨年の方が良かったです。100勝はもっと早くしたかったし、昨年を超える50勝を目指したい。YJSでは積極的な騎乗を見せたいです」と意欲を示した。

YJS金沢ラウンドの紹介式で闘志を燃やす出場騎手(笠松競馬提供)

 ■ラストチャンス「精いっぱい頑張ります」

 地方、中央の若手騎手が火花を散らすYJS。深沢騎手にとってはラストチャンスとなるが、まずは22日、1レースのみの騎乗で金沢競馬場へ参戦した。スタンド前ステージでの騎手紹介式では「今年でヤングジョッキーズシリーズは最後になりますが、精いっぱい頑張ります」と闘志を燃やした。

 一昨年は不祥事の余波で出場できず。過去2回のシリーズでは下位人気ばかりで、騎乗馬に恵まれずにファイナル進出を逃してきた。「今年こそ、くじ運がいいかも」と有力馬への騎乗を願ったが、初戦は9歳馬ニードアフレンド(他の11頭は3~6歳)に決まった。地力はあるが、競馬専門紙はやはり無印。中6日での連闘でもあり、苦戦が予想された。

 それでも深沢騎手はリラックスムード。この夏は「海水プール」にも行き、得意の水泳を楽しんでリフレッシュ。紹介式や本馬場入場では、ファンの熱い視線を浴びながら、にこやかだった。

パドックから笑顔で本馬場入りする深沢騎手

 ■しんがり負けでも「カウントなし」にも 

 毎年夏場に開催される金沢ラウンド。今年も35度超えの猛暑で、馬も人も夏バテの気配。波乱ムードが漂う中、6桁、7桁の超万馬券が飛び出すサバイバル戦となった。

 12頭立ての5R、深沢騎手は9番人気馬。中団につけたかったが、後方から3番手を追走。4コーナーからの追い上げはならず、しんがり負けに終わった。無念の表情で検量室前に戻ってきたが、関係者から励ましの声が飛ぶと笑顔も見せていた。
 
 YJSへの挑戦は今年限りとなる深沢騎手だが、昨年までより1回多い計5レースに騎乗できる。総合ポイントは成績上位の4レース分で計算され、気分的には楽に乗れるし、この日の成績は「カウントなし」になる可能性も十分にある。

 残るは9月7日の園田と10月11日の笠松で2戦ずつ。西日本・地方騎手の上位4人が進出できるファイナルラウンドを目指すことになる。深沢騎手としては、もうそろそろ「くじ運」にも味方してもらって、残る4戦で勝利を挙げてファイナリストの座をつかみたいところだ。

 2戦目の7Rでは、高知の浜尚美騎手が12番人気馬で鮮やかな差し切りVを決めて、西日本・地方騎手の総合トップをキープした。仲の良い深沢騎手としても負けておられず、地元の兵庫と笠松で巻き返したい。今後は、中島広美騎手の笠松女性記録である「120勝」超えも視界に入ってきており、早ければ年内にも達成できそうだ。

1戦目の5Rでゴールを目指す松本一心騎手(左)と深沢騎手(右)

 ■笠松のパドックで負傷したが、元気に参戦

 松本一心騎手は 深沢騎手と同じ兵庫県出身で4月にデビューした。笠松でいきなり初騎乗Vを決めて大物ぶりを発揮した。父の松本剛志騎手と同じ加藤幸保厩舎に所属し、順調に1着ゴールを積み重ね、既に15勝を挙げている。

 笠松・くろゆり賞シリーズは初日が台風の影響で開催取りやめになった。翌日(16日)の1R、パドックから返し馬に向かおうとして、アクシデントが発生。騎乗馬が暴れて立ち上がり、振り落とされた一心騎手は馬の下敷きになったという。その場に座り込んだ状態から搬出され、騎乗変更となって3日間欠場した。

 「けがの程度は? 戦線離脱が長引き、しばらく乗れないかも」とファンが心配していたが、骨折や肉離れなどはなく「腰の辺りの打撲程度なんで、痛み止めを飲んで、まあやれるかなあ」とYJS挑戦を決断。早期復帰となり「良かったです」と笑顔も見せていた。父も2日間レースを休み、兵庫から駆け付けた母とともに看病。負傷による欠場はデビュー以来初めてのことだったが、両親のサポートもあって意外と早く復帰できた。ファンも一安心、レースでの無事と活躍を願った。

2戦目の7R、パドックでサノマルに騎乗する松本騎手

 ■無印の馬で「気楽にプレッシャーなく乗れそう」

 前日から笠松での調教もこなして、元気いっぱいYJSに参戦した一心騎手。父からは「(馬の癖など)前に乗った騎手に聞いて」とアドバイスを受けたそうだ。2戦ともに無印の馬(11、12番人気)でくじ運には恵まれなかったが「その分、気楽にプレッシャーとかなく乗れそう。初戦は後ろから行って最後に懸けようかな」と意欲。金沢の調教師からは「自由に乗っていいよ」と言われたそうで、まずは掲示板(5着以内)を目指してコースに向かった。パドックやスタンドでは両親が応援し、温かく見守った。

 2Rではエキストラ騎乗もあり、6着とまずまずで、コースの感触を確認できた。騎手紹介式では「一つでも上の着順を目指して頑張ります」と意気込みを語った。

7R、サノマルに騎乗してパドックを周回する松本騎手

 ■1戦目10着「体は大丈夫です。次は頑張ります」

 1戦目の5Rはハートリープ(牝5歳)に騎乗。単勝万馬券の最低12番人気で、厳しいレースになった。最後方から追い上げたが10着が精いっぱいで「4コーナーで止まりましたね」と残念がった。このレース、同期で名古屋の大畑慧悟騎手(18)が10番人気馬で勝利を飾った。笠松ではライバルでもあるが、「きょうは、けががないことが第一」と声を掛けると「体は大丈夫です。次は頑張ります」と前を向いた。

 それにしても、負傷からまだ1週間もたっていないのに、よくYJSに参戦できたものだ。打撲だけだったが、当初は歩けなかったそうで、家族のサポートを受けながら復調。若手同士の全国区のレースへの騎乗を果たした。驚異の回復力で復帰できたが、いきなりの本番レースはきついので「調教にはきのうから乗って、きょうの夜もあります」とのことで、現場に戻ればハードな状況が続く。

2戦目の7R、ゴールを目指す松本騎手(左)。積極策で5着を確保した(笠松競馬提供)

 ■11番人気、積極的な競馬で5着を確保

 2戦目の7Rではサウスヴィグラス産駒の実績馬・サノマル(牡10歳)に騎乗した。パドック周回では、ファンから「10歳馬だよ」といった驚きの声も上がっていた。2走前には1400メートル戦で勝っているが、血統的には短距離向きで1500メートルに延びてどうか。暑さの影響や年齢を感じさせない頑張りを発揮しているが、距離適性もあって11番人気と苦戦が予想された。

 一心騎手は積極的な競馬で3番手をキープし、3コーナーで2番手に上がり「これは勝てるかも」と思わせたが、4コーナーでは馬群にのみ込まれた。それでもゴール前では差し返して5着。掲示板を確保できた。前々の競馬で馬の持ち味を発揮させることができた。

11番人気で5着と健闘。レース後、笑顔を見せる松本騎手

 ■地元・笠松で巻き返し誓い、来場もアピール

 一心騎手にとって、笠松以外での騎乗は盛岡に続いて2場目。7Rでは「いい位置を取れたんですが、3~4コーナーでちょっと止まった。もう少し気合を入れるべきでしたが、直線ではもう1回、脚を使ってくれたんで良かったです」。金沢での初騎乗を終えて「12頭立てでしたが、(笠松での)普段のレースと比べたら、流れはちょっと緩いのかなあと感じました。次は地元の笠松なんで、いい着順を目指して頑張ります。応援よろしくお願いします。10月12日はぜひ笠松に来てください」とアピールしていた。

5R、大畑慧悟騎手騎乗のレモン(12)がゴール前の激戦を制した(名古屋競馬提供)

 ■大畑慧悟騎手1着、3着で総合2位

 第1戦を勝った大畑慧悟騎手は、名古屋で4月にデビュー。倉知学厩舎に所属し、丸野勝虎騎手は兄弟子で、2200勝超えの大畑雅章騎手(39)は叔父でもある。笠松でも7月にミスシャーロック(牝4歳、田口輝彦厩舎)で初勝利を飾っている。

 5R、10番人気のレモン(牝6歳)に騎乗し3番手から好位をキープ。ゴール前では4頭が並ぶ追い比べを制して、アタマ差で1着。JRA勢の小沢大仁騎手、古川奈穂騎手が続いた。佐賀、高知ではJRAの騎手が連勝を飾っていただけに、地方騎手では初の1着になる価値ある勝利となった。
 
 「4頭の接戦で、しまい勝負で馬が頑張ってくれました。ゴールでは勝ったかどうか分からなかったが、勝ててヨッシャーという感じですね」と喜んだ。

1着ゴールを飾り、総合2位につけた大畑騎手

 第2戦は9番人気だったが、アットザヘルム(牡9歳)で後方から3着に突っ込んだ。「かなりハイペースで、道中はあまり動かずに、最後の直線に懸けて乗りました」と好騎乗を見せた。

 この日、1着と3着で45ポイントを獲得。YJS前半戦を終えて、西日本地区・地方騎手2位の好位置。「初出場でこれだけの結果を残せてとてもうれしいです。中央でも乗れるチャンスにもなり、ファイナル進出に向けて頑張ります。次は地元・名古屋なんでいい結果を出したい」と意欲。初騎乗の金沢は「少し内を空けて、前残りの傾向もあるコース」と感じ1戦目は先行。丸野先輩や叔父さんのアドバイスも聞いて好結果につなげた。10番人気、9番人気での騎乗だったが、くじ運とか関係なく上位に持ってきた手腕は素晴らしかった。

 23日には名古屋で勝利を挙げて20勝目(笠松、金沢含め22勝目)。笠松では松本一心騎手と一緒にレースで騎乗することもあり、お互い騎乗技術を高め合って18歳パワーで東海公営を盛り上げていきたい。地元の金沢勢では加藤翔馬騎手が38ポイントで総合3位につけている。

7Rを12番人気で勝ち、喜びがはじけた浜尚美騎手。総合トップをキープした

 ■浜尚美騎手、豪快に1着「地方魂ですよ」

 2戦目の7Rを勝ったのは高知の浜尚美騎手(22)。最低12番人気のマノンルージュ(牡4歳)に騎乗。後方から豪快に追い上げ、今村聖奈騎手をかわして1着ゴールを決めた。

 「本当にうれしいです。馬がめっちゃ頑張りましたね。前が速くなってくれると予想していて、(4コーナーで)馬がハミを取ってくれた瞬間、道がちょうど開いたところにスーッと持っていけたので。馬が主体的に動いてくれた。ビクトリーロードとなってラッキーでした」。最後は今村騎手にも競り勝ち「負けていられないですし、地方魂ですよ」と満面の笑みで喜びを語った。

 総合72ポイントで西日本・地方騎手のトップをキープ。12月・ファイナルラウンドの川崎、中山に向けて「ちょっと光が見えてきましたね。名古屋で2戦残っているんで1着目指して全力で乗ります」と意欲。今年は兵庫競馬での期間限定騎乗で20勝。「園田競馬場で新子先生(新子雅司調教師)から教わって得た技術が生きていると実感する日々です。YJSでは西日本暫定トップですが、現状に満足せずに」と自らのツイッターでもコメントを寄せた。

YJS金沢ラウンド第1戦、パドック前で整列した若手騎手たち

 ■笠松勢、渡辺騎手以来のファイナルラウンド進出なるか

 今回の金沢ラウンド。馬券的にはどうだったのか。1戦目が10番人気→1番人気→4番人気の決着で3連単は25万6930円。2戦目が12番人気→5番人気→9番人気で3連単は266万1760円の大波乱となった。やはり猛暑の影響もあったのか、前つぶれで人気薄の馬たちの台頭も目立った。

 「笠松勢は、くじ運に恵まれないなあ」とぼやき続けてきたが、10番人気、12番人気の馬が勝ってしまった。先行激化でペースが速くなり、好位か、後ろからでも脚をためて最後の直線で切れ味を発揮させた騎手が上位に入った。人気薄でもじっくり乗って、気分良く走らせた大畑騎手、浜騎手が高配当を演出した。かつて笠松の調教師が「馬は5回に1回ぐらいは、ちゃんと走るものだよ」と話していたが、騎乗馬を本気で走らせて100%の力を引き出せれば、意外な好結果につながるのでは。

 フレッシュなエネルギーを爆発させて、ゴールを目指した若手騎手たち。長いジョッキー人生はまだスタートしたばかり。多くの騎手にまだファイナルラウンド進出のチャンスが残されている。特に地方騎手にとっては、中山の芝コースを経験でき、全国に自己アピールできる夢のステージでもある。

 笠松勢では、YJSのポスターの「センター」を務めている長江慶悟騎手が名古屋ラウンドにも参戦する。深沢杏花騎手、松本一心騎手とともに巻き返して、渡辺竜也騎手以来となるファイナリストの座をゲットしたい。(「鷲見昌勇元調教師に聞く」の連載は休みました)


 ※「オグリの里 聖地編」好評発売中、ふるさと納税・返礼品に

 「オグリの里 笠松競馬場から愛を込めて 1 聖地編」が好評発売中。ウマ娘シンデレラグレイ賞でのファンの熱狂ぶりやオグリキャップ、ラブミーチャンが生まれた牧場も登場。笠松競馬の光と影にスポットを当て、オグリキャップがデビューした聖地の歴史と魅了が詰まった1冊。林秀行著、A5判カラー、200ページ、1300円。岐阜新聞社発行。岐阜新聞情報センター出版室をはじめ岐阜市などの書店、笠松競馬場内・丸金食堂、名鉄笠松駅構内・ふらっと笠松、ホース・ファクトリーやアマゾンなどネットショップで発売。岐阜県笠松町のふるさと納税・返礼品にも加わった。