産婦人科医 今井篤志氏

 春先から初夏にかけて流行する感染症に、風疹があります。風疹ウイルスが原因で、かつては誰もが子どもの時にかかる病気でした。ほぼ5年ごとの周期で、大きな流行が発生していますが、2012~13年にかけての大規模な流行では、患者の約9割が成人でした。

 風疹は子どもの場合、症状はあまり重くない病気ですが、妊娠中の女性が風疹にかかると、風疹ウイルスがお腹(なか)の赤ちゃんに感染して難聴、心疾患、白内障、そして精神や体の発達の遅れなどの障がいがある赤ちゃんが生まれる可能性があります。これを先天性風疹症候群と言います。

 先天性風疹症候群となるかどうかは、風疹にかかった妊娠時期により違いがあります。特に妊娠12週までにその可能性が高く(25~90%)、妊娠20週以降では、異常はないことが多いと考えられています。

 風疹ウイルスに感染すると、2~3週間で、赤いブツブツ(発疹)や発熱が現れます。一度かかると、大部分の人は生涯風疹にかかることはありません。ウイルスに感染しても、明らかな症状がでることがないまま、免疫ができてしまう人も15~30%程度います(不顕性感染)。

 麻疹(ましん)(はしか)や水痘(水ぼうそう)ほどではありませんが、感染力は強く、感染した人のくしゃみなどの飛沫(ひまつ)によって、他の人にうつります。発疹の現れる1週間前(まだ症状のない時)から、発疹が現れた後の1週間ぐらいまでの患者さんは、感染力があると考えられています。

 自分が風疹に抵抗性を有するかどうかは、風疹ウイルスに対する抗体を調べれば分かります。抗体が不十分だと判明した場合には、風疹ワクチンの接種を受けましょう。風疹ワクチンを1回接種した人に免疫ができる割合は約95%、2回接種した人に免疫ができる割合は約99%です。世代によっては、予防接種を受けていませんでしたが、2006年度からは1歳児(第1期)、小学校入学前1年間の幼児(第2期)と2回の定期接種が実施されています。

 ワクチン接種をした女性は、2カ月間の避妊が必要です。また、妊娠中には接種ができません。妊娠初期に行われる風疹の抗体検査で、抗体が低いと判明した場合には、人混みを避けましょう。また、次の妊娠に備えて出産後にワクチン接種をしましょう。授乳中でも全く問題ありません。

 ワクチン接種後に妊娠が判明したとしても、風疹ワクチンを接種したため、胎児に障がいが出たという報告は、世界的にも1例もありませんので、妊娠を諦める必要はありません。

 近い将来、妊娠を希望する場合や妊娠初期の人は、同居する家族の中に風疹に対する抵抗性が不十分な人がいる場合は、すぐにワクチン接種を受けてもらいましょう。女子中学生のみが接種対象だった時期があるため、現在30~50代の男性のワクチン接種率が低いことは分かっています。多くの人が予防接種を受けると、個人が風疹から守られるだけでなく、他の人に風疹をうつすことが少なくなり、社会全体が風疹から守られることにもなります。

(松波総合病院腫瘍内分泌センター長、羽島郡笠松町田代)