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図2
図3

放射線治療医 田中修氏

 こんにちは。今回は、がんの痛みと放射線治療の関わりについて紹介したいと思います。腰が痛い場合、まず行くのは接骨院か整形外科だと思います。しかし「通っているのに治らない、むしろ悪くなっているような気がする」。こうなったときはどうするのでしょうか? 痛みがある以上、原因はあります。レントゲンを撮ったら、思ってもいなかった事実が判明する場合があります。それはがんの骨への転移です。

 骨へのがんの転移が見つかった場合、どこからがんが来たかを探します。実際に、乳がんや肺がんの患者は骨に転移し、それが原因で痛みが出てがんが見つかる場合が多いのです。がんが骨に転移した場合、がんが血流やリンパ流に乗って、全身に存在していると考えます。

 そのため、まずは抗がん剤などで治療を始めることが多いです。しかし骨に転移したがんを抗がん剤ですべて制御するのは難しく、痛みは続くことが多いです。そこで放射線治療の出番になります。

 この画像は、乳がんから脊椎(背骨)に転移した患者です。通常脊椎は、ダルマ落としのように骨が連続して首からお尻まできれいに並んでいます。しかし、転移すると骨が溶けてしまい=図1=、今にも折れそうにスカスカになってしまいます(青い矢印部分は骨が溶けている)。このように画像でも分かるくらいの大きな転移だと、痛みもかなりのものになります。

 転移した部位に、5日間に計5回の放射線治療をします。黄色から赤色の部分にかけて=図2=強く放射線が当たっています。放射線治療の2年後には、骨の再石灰化が見られます=図3=(赤い矢印部分に新たな石灰化)。それと同時に痛みが減り、鎮痛薬も減らすことができます。効果は半年ぐらいですが、亡くなるまで、痛みがぶり返さなかった患者もたくさんいます。ほとんどが通院で治療ができ、1回10分ぐらいで済みます。治療日数は、病院までの距離や交通手段、サポートしてくれる人の有無などを考えて、1~10回となります。

 最近、末期患者に対する緩和ケアとして、痛みの症状を取って残された時間を有意義に過ごすための治療も進歩してきました。がんは進行すると、骨や脳に転移することが多くなってきます。骨に転移すると当然痛みは出ます。痛みが出たら鎮痛薬を飲むのですが、鎮痛薬の副作用(便秘・眠気・口渇・嘔気(おうき))などが出現する場合は、鎮痛薬を増やすことが難しくなります。その場合に放射線治療をして痛みが減り、鎮痛薬も減らすことができれば、ずいぶんと体は楽になります。

 がんと闘うから、いかにがんと付き合っていくかが重要視される時代になってきていると思います。がんの転移で痛いときは、気軽に放射線治療科の扉を叩(たた)いてみると、みんながハッピーになれると思います。

(朝日大学病院放射線治療科准教授)