岐阜市民病院消化器内科医 加藤則廣氏

 先日、食事時の胸のつかえ感で40代の男性が受診されました。検査の結果、早期の「食道アカラシア」と診断しました。食道アカラシアは比較的まれな良性の食道疾患です。冒頭の男性の症状のように、当初は逆流性食道炎と診断されて治療を受けても、なかなか改善しない患者さんの中には、実は早期の食道アカラシアであることもあります。今回は食道アカラシアを取り上げます。

 食道と胃の接合部は下部食道括約筋があり、通常は閉じています。食物が食道から胃内に入る際に一時的に弛緩(しかん)しますが、弛緩しない疾患が食道アカラシアです。成因は食道下端にあるアウエルバッハ神経叢(しんけいそう)の障害とされています。

 初期の症状は食道のつかえ感ですが、食事の際にはお茶などで流し込まないと入らないと訴えられる患者さんもみえます。食道アカラシアは徐々に進行し、時間の経過とともに食道内に食べ物が停滞するようになって、食道が徐々に拡張します。そして食道内にたまった食物を嘔吐(おうと)するようになります。併せて食道の運動機能も低下していきます。こうした経過は個人差があり、数カ月から数年に至ることもあります。そのために早期に診断して治療を開始することが大切です。

 診断には、食道胃造影検査や食道内視鏡検査が行われます。造影検査ではバリウムなどの造影剤が拡張した食道内に停滞し、また内視鏡検査では、食道の内腔(ないくう)が広がり、食道内に食物の残りかすがみられます。早期診断には、食道の運動機能検査である、食道内圧検査が有用です。最近は高解像度食道内圧測定検査法(HMR)が登場して、より詳細に診断されるようになりました。なお、食道のつかえ感を来す時には、食道がんを鑑別するために内視鏡検査は必須の検査です。

 治療は薬物治療として、高血圧の治療薬であるカルシウム拮抗(きっこう)薬が投薬されます。下部食道括約筋圧を下げる作用があり、食直前の内服が有用です。また内視鏡を用いて食道胃接合部を医療用のバルーン(風船)で拡張する内視鏡的バルーン拡張術が行われますが、複数回の治療が必要な患者さんもみえます。

 さらに以前から外科的に食道胃接合部の筋層を切開する治療法もありますが、最近は内視鏡を用いて筋層を切開する新しい経口内視鏡的切開術(POEM)が行われるようになりました。なお、進行した食道アカラシアには食道がんが出現しやすいとされていますので、定期的な内視鏡検査が必要です。

(岐阜市民病院消化器内科部長)