循環器内科医 上野勝己

 急に冷え込むようになり、突然の背部痛で発症する大動脈解離や心筋梗塞患者の救急搬送が増えています。大動脈解離は、心臓から出ている大動脈という体の中で最も太い血管の壁が突然裂ける病気です。急激な血圧上昇により、動脈硬化などでもろくなった血管の内側の壁がはがれ、そこに血液が流れ込んで一気に背中からおなかまで血管が裂けてしまうのです。

 血管が裂けるにつれ、胸→背中→腰と痛みも移動します。冷や汗がどっと出るほどの激しい痛みを伴います。血管の壁が裂けることで大動脈から体中に出ている枝が詰まり、脳梗塞や消化管の壊死(えし)、下肢の血流障害が起こります。裂けて薄くなった大動脈が破裂すると、死に至ります。

 大動脈解離は、大動脈がコブのように膨らむ大動脈瘤(りゅう)と並ぶ、大動脈の2大疾患です。大動脈瘤には、進行した動脈硬化が合併しており、コブの大きさに比例して破裂頻度が増えます。CT(コンピューター断層撮影)検査などで簡単に発見することができ、必要な治療を早期に行うことが可能です。しかし、大動脈解離は軽度の動脈硬化しか伴わず、発症前のCT検査もほぼ正常所見で、発症を予測できないことがほとんどです。

 高血圧と密接に関連し、冬場に増えます。大動脈瘤は男性に多いのですが解離は女性にも起こります。70代が多いですが、30、40代から増え始めるので、まだ若いから大丈夫とは言えず、救急の現場でも見逃されることがあります。

 急性心筋梗塞や心不全、脳出血やくも膜下出血も冬に多くなります。山梨、東海3県の心筋梗塞患者の検討では、冬場の発症が夏場より25~50%増加していました。降雪日や気温5度以下の寒冷日、最高気温と最低気温の差が10度以上あることが危険因子でした。血圧の急激な上昇が起こりやすく、これらの病気が冬に増える一因と考えらます。

 人間の血圧は環境の変化に対応しています。人と会話をするだけでも15~20mmHgは上昇します。医師の前で緊張して上昇する白衣高血圧は有名ですね。血圧の変化を調節しているのは自律神経です。自律神経には活発な身体活動を支える交感神経と、体の休息をサポートする副交感神経の二つがあります。会話や白衣を見て一時的に交感神経が反応し、血圧が上がりますが一過性です。

 しかし、冬場は寒さに対して血管を収縮させて体温を維持するため、交感神経が持続的に反応し、夏場に比べて平均血圧が5~10mmHg上昇しています。また、暖房の効いた部屋から薄着で外に出ると強い冷感にさらされ、血圧は簡単に30~40mmHg上昇することがあります。血圧は一日の中でも変動しています。朝と夕方から夜が高く、明け方や午前中に心筋梗塞や脳出血の発症が多いのです。老若問わず冬のこの時間帯は、急激な温度差を避ける習慣を持つことが大切です。

 高血圧で服薬中の人は、血圧が130~140mmHg前後にコントロールされていれば良いのですが、冬場に160~170mmHg前後では、温度変化で血圧は容易に200mmHgを超えてしまいます。冬場は適宜、降圧薬を増量してもらい、これからの季節に備えましょう。

(松波総合病院心臓疾患センター長、羽島郡笠松町田代)