脳神経外科医 吉村紳一

 こんにちは、吉村です。この欄では「脳卒中予防に関する最新情報」を紹介しています。皆さん、一緒に勉強しましょう! 今回も「開頭手術」の詳細についてお話しします。

 手術が成功して、術後に何も障害がないことが、患者さんと医師の共通した願いです。前回のコラムでは「脳の血管を温存して、脳を傷つけないこと」が重要とお話ししました。ではそのためには、何が必要なのでしょうか?

 手術前の説明時に、ご家族から「どのぐらいの時間がかかりますか?」とよく質問を受けます。単に確認したいということもあるかと思いますが、多くの方は「長い手術は危険」と考えているのだと思います。

 確かになれた医師の手術は無駄が少なく、時間が短い傾向にありますし、「5時間かかる手術」と聞くと「大掛かりな危険な手術」と感じるのかもしれません。しかし私たちは、時間よりも大切なことがあると考えています。それは「きれいな手術」をすることです。

 「きれいな手術」とは何か? それは「出血の少ない手術」と言い換えることができます。血液のないクリアな術野(手術を行っている目で見える部分)であれば、多くのものが確認できます。そのためには手術の方法を工夫して、できるだけ出血しないようにすることが大切ですし、しっかりと止血してから次のステップに進む、という作業の積み重ねも重要です。

 きれいな術野を得るために、多少時間が長くなっても構いません。時間を急ぐあまり、止血が不十分なまま手術を続けると、知らないうちに血液の向こう側にある神経や脳、そして血管を傷つけてしまう可能性があるからです。

 多少時間がかかっても、血液のないクリアな術野で手術をすること。誰もが安全確認ができる分かりやすい手術をすること。私たちはそういった注意を払いながら、日々の手術に臨んでいます。

(兵庫医科大学脳神経外科主任教授、大垣徳洲会病院外来担当)