消化器内科医 加藤則廣

 口腔(こうくう)や咽頭、消化管、皮膚には、カンジダと呼ばれる真菌が常在しています。真菌は一般的にはカビと呼ばれますが、健康な状況では通常の免疫力によって増殖が抑えられています。しかし何らかの要因によって免疫力が低下すると、増殖して病気を発症します。

 こうした状況は日和見感染と呼ばれます。今回は、口腔内に常在しているカンジダが食道壁で増殖する、食道カンジダ症についてお話しします。

 食道カンジダ症の診断は、内視鏡検査で行います。食道壁に特徴的な白色隆起が観察されますが、この白色隆起はカンジダの集合単位でコロニーと呼ばれ、一部を採取して真菌検査で診断が確定します。また自覚症状は、カンジダコロニーが少ないとほとんどありませんが、増加すると咽頭痛、嚥下(えんげ)障害、嘔吐(おうと)、胸焼けなどが起き、時に出血を来します。

 食道カンジダ症の成因はさまざまです。健常人でも検診時などに、食道壁にわずかなカンジダのコロニーが観察されることがあります。また、逆流性食道炎や胃潰瘍などで制酸剤を服用している患者さんにも時にみられます。いずれもほぼ経過観察で良いようです。また、気管支ぜんそくでステロイドの吸入薬を使用している患者さんでは、吸入後の口のすすぎが不十分だと、咽頭や食道にカンジダの増殖が観察されます。吸入後は必ずうがいをしてステロイド剤を洗い流すことが必要です。

 一方、基礎疾患としてコントロールが不良な糖尿病や慢性腎不全を有する患者さんや、悪性腫瘍で抗がん剤治療を受けていたり、高用量のステロイド剤を投薬されている患者さんで、嚥下障害を訴えた時には、内視鏡検査で食道カンジダ症と診断されることは少なくありません。また食道カンジダ症が、エイズ(後天性免疫不全症候群)の診断の契機になることもあります。さらにカンジダ感染が全身に広がって重症の感染症を来すと、深在性真菌症と呼ばれます。

 治療方法は、軽症であれば抗真菌剤を一定期間内服します。剤形はシロップ剤やジェル剤など、薬剤が食道壁に付着する工夫がされています。

 一方、重症で深在性真菌症を併発した患者さんには、入院治療が必要です。内服と併せて抗真菌剤の点滴投与が行われますが、細菌感染症と合併して治療に難渋することも少なくありません。なお、抗真菌剤は不整脈や高血圧、高脂血症などの薬剤との相互作用があります。

(岐阜市民病院消化器内科部長)