岐阜大学精神科医 塩入俊樹

 世界中のすべての子供たちは、誰一人同じではない、尊重すべき「個性」と無限の可能性を持って生まれてきます。その「個性」の多くは、身体的、そして心理的発達や知的能力の質的・量的違いとして認識され、さらに大人への階段を駆け上がっていく思春期になると、パーソナリティー(人格=性格)としても現れてきます。つまり発達とは、それぞれが生まれながらに持っている「個性」なのです。

 では、個性の差、つまり個体差とは、具体的にどういうものなのでしょうか。「身長」を例に考えてみましょう。小学校1年生100人の身長を測定し、横軸を身長、縦軸を人数にしてグラフを作ります。そうすると平均のところで人数が最も多くなる"釣り鐘"様の曲線になります。これを正規分布といいます。つまり、背の高い子も、低い子もある一定の割合でいて、低い身長から高い身長まで連続した分布を示すということです。

 そもそも、多様性の高い生物界において「個体差」はつきものであり"自然の摂理"なのです。顔や性格がそれぞれ異なり、それが個性であるように、背の高さも個性の一つです。

 身長に代表される、身体的発達の過程や程度がそれぞれ異なるように、心の発達(=心理的発達)も千差万別です。例えば、難しい言葉を使ったり、生意気なことを言えるようになるなど、ある時期にはコミュニケーション能力がぐんと上がります。

 また違う時期には、動植物の細かな違いが分かるようになるなど、観察力が著しく伸びたりして周囲の大人たちはとても驚き、感心するのです。金子みすゞさんの「みんなちがって、みんないい」。これが子供の心の発達、心の成長なのです。

 とはいえ、「発達障害=神経発達症」という病名があるのも事実です。ごく簡単に「発達障害」を定義すると「その原因に何らかの神経生物学的異常が想定される、発達初期から生じるさまざまな行動があり、そのため深刻な社会不適応が長期間生じている疾患」となります。

 そして、それらのさまざまな行動異常が、成人後も残存することが少なくないために、最近では成人期の「発達障害」が注目されています。では、心の発達の正常と異常の線引きはどうなっているのでしょうか。

 次回は、「発達障害」の診断の難しさについてお話しします。

(岐阜大学医学部付属病院教授)