循環器内科医 上野勝己氏

 心臓病患者は、適切な運動療法(心臓リハビリテーション)をすれば予後が改善することが分かってきています。さまざまな報告から、心筋梗塞後に心臓リハビリテーションを行うと、心臓死が25%以上減少します。また、安定した狭心症患者に対して血管を広げるステント治療群と運動療法群に分けて1年後の予後を比べると、死亡も心筋梗塞の発症も運動療法群の方が少ないという報告もあります。

 DOPPO(独歩)プロジェクトを推進されている北里大名誉教授の和泉徹医師の報告では、虚血性心臓病の1300人の患者さんを10年間追跡したところ、その人の予後を決めたのは、病気の広がりでも病気の重症度もなく、足の健康度だったとのことです。カテーテル治療やバイパス手術は症状の改善には有効ですが、残念ながら、薬物療法に比べて生命予後は改善しないことが分かってきました。

 しかし高齢者では、加齢に伴う筋力低下や、腰や膝の痛みのために、運動療法がなかなかうまくいかないケースが多いのです。特に高齢になってから入院すると、入院による安静をきっかけに一気にフレイル状態になってしまい、その後の予後が悪くなってしまいます。フレイルとは、英語のfrailty(虚弱や老衰)からとった造語です。誰もが年を取ると運動能力が低下していき、やがては要介護状態になってしまうのですが、この過程の途中の段階をフレイルと呼びます(健康状態→フレイル→要介護→死亡)。

 最近では、フレイル状態になっても、半数近くの方は年齢相応の健康状態に復帰できることが報告されました。和泉医師は、30メートル歩行ができない(横断歩道が渡れない)、片足立ちが5秒続かない、トイレ歩行がおぼつかないといった、ほとんど寝たきりになりそうな平均年齢82歳の参加者たちに、ストレッチ、バランス、筋力アップ、歩行を基本としたリハビリを行い、40%以上の参加者が6分間で300メートル歩けるようになり買い物に行けるようになったと報告しています。

 そこで、フレイル状態をできるだけ早期に見つけ、適切な対策を取ることで健康寿命を延ばそうと、今年から75歳以上の高齢者健診にフレイル健診が追加されるようになりました。チェックリストで「いいえ」が3個以上ある方は、かかりつけ医やふれあい保健センターの相談窓口などに相談しましょう。

 もちろんすべてが「はい」と答えられる人ばかりではないし、「いいえ」を減らすこともなかなか難しいかもしれません。年齢とともにいろいろなことが少しずつできなくなるのは当たり前のことです。大切なのは加齢現象を受け入れつつ、何ができるかに着目して自身の健康状態や老化を前向きに捉えながら上手に付き合っていくことです。

 (松波総合病院心臓疾患センター長、羽島郡笠松町田代)