皮膚科医 藤井麻美氏

 新型コロナウイルス感染症一色だった2020年も終わり、新たな年が始まりました。首都圏を中心に感染拡大が止まらず、今でもコロナの話題で持ちきりですが、医療界では昨年末に大きなニュースがありました。ジェネリック医薬品(後発医薬品)メーカーの小林化工が製造する内服抗真菌薬「イトラコナゾール錠」に睡眠薬が混入されているとして自主回収を発表した出来事です。皮膚科でよく処方される薬のため、私たち皮膚科医は特に衝撃を覚えました。

 報道によると、通常使用量を超える量の睡眠薬が混入されており、「眠気やふらつきのために転倒した」「自動車事故を起こした」など薬が原因とみられる被害が100件以上あり、亡くなられた方もいらっしゃるとのことです。

 ジェネリック医薬品は新薬(先発医薬品)の特許が切れた後に販売され、新薬と同じ有効成分、品質、効き目、安全性が同等であると国から認められた薬です。新薬と比べて開発費がかからないため、低価格で販売されており、国も医療費削減のためにジェネリックの使用を積極的に勧めています。今回の事態はジェネリックの安全性に対する信頼を根底から覆すことになりかねません。ほとんどのジェネリックメーカーは、適正な製造、品質管理に努めていますので、なお一層今回の事件が残念です。

 さて今回はこのイトラコナゾールも治療に使用される爪の真菌感染症についてお話しします。真菌感染症はカビの仲間の真菌が原因となり、皮膚や爪、消化管に病変を作りますが、なかなか厄介です。特に爪は正しく治療を始めてからでも完治するのに2年ほどかかることがあります。

 手では爪の周りが赤くなって腫れて汁が出たりすることもある「爪甲カンジダ症」が多いです。水仕事をよくする人や女性がなりやすく、爪が凸凹になります。長引くと爪の下が白く変色し、爪の硬い部分(爪甲)が爪の下の部分(爪床)からはがれてくることがあります。その場合、痛みが出ることもあり、塗り薬のみで治療することは難しくなるため、飲み薬のイトラコナゾールを使用します。抗真菌薬は何種類かありますが、爪甲カンジダ症に効くのはイトラコナゾールのみで、治療には欠かせない薬です。

 一方で、爪の真菌感染症で最も多くみられるのは「爪白癬(せん)」です。いわゆる爪の水虫です。足によくみられますが、こちらはイトラコナゾール以外にも有効な薬があるため、選択肢もいくつかあります。爪の悩みはどこに相談すればいいか分からずに困っている方も少なくないと思います。悪化する前に近くの皮膚科で相談してみてはいかがでしょうか。

(岐阜市民病院皮膚科医員)