消化器内科医 加藤則廣氏
慢性胃炎は胃のもたれや不快感などの自覚症状が出現します。成因の多くはピロリ菌感染によるもので、現在は抗生剤による治療が保険適応で認められています。一方、最近、慢性胃炎の成因のひとつとして「自己免疫性胃炎」が注目されています。
胃体部の胃粘膜には胃酸をつくる壁細胞があります=図1=。胃酸は主細胞から分泌されるペプシノーゲンを消化酵素のペプシンに変え、また殺菌作用などの重要な役割があります。長い年月にわたるピロリ菌感染により胃粘膜は徐々に傷害されて萎縮し胃酸分泌も低下します。
一方、自己免疫性胃炎は、免疫系の異常により壁細胞に対する自己抗体が作られて胃酸分泌が低下します。そのため胃内視鏡検査では胃体部に萎縮がみられますが、前庭部には萎縮がないので逆萎縮と呼ばれます=図2=。欧米では慢性胃炎の分類として体部が萎縮するA型胃炎と、萎縮が前庭部から上方に進展するB型胃炎とに分類します。自己免疫性胃炎はA型胃炎とほぼ同義で、ピロリ菌感染胃炎はB型胃炎に相当します。
自己免疫性胃炎は、内因子の低下とビタミンB12の吸収不良により悪性貧血と呼ばれる貧血が出現します。指先のしびれや歩行障害などの神経症状がみられることもあります。さらに胃がんの発生リスクも増加することが知られています。また、1型糖尿病や慢性甲状腺炎などの他の免疫性疾患の合併も報告されています。
通常の内視鏡検査で、胃粘膜に萎縮がみられウレアーゼ試験が陽性であるとピロリ菌感染胃炎として診断・治療されます。治療後の除菌判定は呼気テストで行われますが、陽性であれば除菌不成功として別の除菌治療が選択されます。最近では自己免疫性胃炎で胃酸が出なくなると、胃内にピロリ菌以外のウレアーゼ活性を有する細菌も増殖して、呼気テストが陽性になってしまうことが分かってきました。除菌不成功のために除菌治療が繰り返されている"泥沼除菌"の患者さんの中には、自己免疫性胃炎があることが報告されています。こうした状況下では、ピロリ菌感染の判定には便中ピロリ抗原検査が有用です。
自己免疫性胃炎の診断は、特徴的な内視鏡所見と採血で行います。抗壁細胞抗体と抗内因子抗体が陽性であり、血中ガストリン値は高値になります。
まだ根治的な治療法はありませんが、鉄やビタミンB12および葉酸の補充的な投与とともに定期的、全身的な経過観察が必要です。
(岐阜市民病院消化器内科部長)