循環器内科医 上野勝己氏

 新型コロナワクチンの話題で一色の今年2月、日本のバイオ製薬企業が、高血圧ワクチンのヒトでの臨床試験を始めると発表しました。この企業は、日本製のコロナDNAワクチンの開発でも期待されています。

 高血圧の治療薬には、血管の緊張を取るもの(血管拡張薬)と、腎臓による血圧調節をブロックするもの(レニン・アンギオテンシン系阻害薬)、利尿による体液調節(利尿剤)があります。高血圧ワクチンの仕組みは、ワクチンによって、腎臓のアンギオテンシンに対する抗体を私たちの身体に作らせて、腎臓の血圧調節(レニン・アンギオテンシン系)をブロックして血圧を下げるのです。30年前から開発が始まりましたが、十分な降圧効果が得られなかったようです。今回、高血圧ワクチンによってアンギオテンシンに対する十分な抗体を作ることに成功したため、ヒトでの臨床試験を始めるとのことです。

 同様に、生活習慣病に対するワクチンの開発も進められています。肥満ワクチンや禁煙ワクチン、糖尿病ワクチンなどです。

 ポリファーマシー(5種類以上の薬を飲むことによるさまざまな有害事象)といって、生活習慣病に対する飲み薬は年を取るにつれて増えていくばかりです。薬を毎月もらいに行く手間と時間もばかになりません。とりわけ働き盛りの世代こそ生活習慣病を進行させないようにしっかりと取り組まなければなりませんが、通院継続が困難で治療を脱落する患者も少なくありません。

 半年あるいは1年に1回、ワクチンを打つことで生活習慣病の治療ができるなら私たちに対する恩恵は計り知れないでしょう。そういった時代の到来が待たれます。

 しかし生活習慣病の原因は、体質的な問題に加えてストレスや生活習慣などが複雑に絡まっています。私たちは必ず老いていきます。顔にしわができるように、老いとともに血管は硬くなり、消化管の働きも弱り、インスリンの働きも弱っていくのです。ワクチンの時代になっても年齢に合わせて生活習慣を変えていく努力は必要でしょう。加齢に逆らわず、少なく食べ、程よい運動をすること、体を冷やさないことが大切です。

(松波総合病院心臓疾患センター長、羽島郡笠松町田代)