泌尿器科医 三輪好生氏
今回は、日本人男性の間で年々増加している前立腺がんについてのお話です。今や前立腺がんは男性のがん罹患(りかん)率第1位となっています。一方で死亡率では第6位と下がります。前立腺がんは比較的ゆっくりと進行するものが多く、早期に発見すれば治癒することも可能です。しかし一部では進行の早いがんや発見時すでに進行がんの場合もあるため油断はできません。
早期の前立腺がんでは自覚症状がないことが多いです。進行すると排尿困難や血尿が出ることがあります。また、骨に転移しやすく腰痛などの痛みが見られることもあります。
自覚症状が出る前の早期に前立腺がんを発見するために最も有用な検査はPSA検査です。血液検査でPSAの値が高い時は前立腺がんを疑います。PSAはもともと精液の一部である前立腺液に含まれているタンパク質ですが、一部は血中にも含まれます。前立腺組織に何らかの異常があるとPSAの血中に漏れ出す量が増えるため血中のPSA値が上昇します。ただし、前立腺がん以外の炎症などでもPSA値は上昇します。このためPSA検査だけで前立腺がんを診断することはできません。
PSAの基準値は一般的には0~4ナノグラム/ミリリットルとされています。PSA値が4~10ナノグラム/ミリリットルの間では25~40%の割合でがんが発見されるといわれています。PSA値が10ナノグラム/ミリリットルを超えるとさらに高率でがんが見つかります。一方でPSAが4ナノグラム/ミリリットルより低い場合でも前立腺がんが見つかることもあります。
前立腺がんを見つけるためにPSAと合わせて行われる重要な検査に直腸診があります。直腸診は、指を肛門から挿入して直腸の壁越しに前立腺を触診する検査です。指で前立腺の硬さや、表面の不整を確認します。PSAの値や直腸診で前立腺がんが疑われる場合、確定診断を行うために前立腺生検を行います。前立腺生検では超音波で前立腺を写しながら針で前立腺を刺して組織を採取し、顕微鏡で前立腺がんの有無を調べます。前立腺生検で前立腺がんと診断された場合は、画像診断でがんの広がり具合の評価(ステージング)を行って治療方針を決めます。
一方、前立腺生検で前立腺がんが見つからなかった場合には2通りの可能性を考えます。一つは前立腺がんではない可能性、もう一つは前立腺がんがあっても生検の針が、がん組織に当たらなかった可能性です。このため、前立腺生検で前立腺がんが見つからなかった場合でも引き続きPSAを定期的に調べて上昇傾向がないかを確認します。PSAが上昇する場合には再度生検を勧めることがあります。
最近ではがんを見落とさないように診断の精度を高める目的で刺す針の本数を多くする試みや、MRI(磁気共鳴画像装置)で疑わしい場所を見つけて、超音波画像とMRI画像を融合させながら行う特殊な生検(MRI-経直腸超音波融合画像ガイド下前立腺生検)を行っている病院もあります。
50歳以上の男性は年に1回、PSA検査を受けることをお勧めします。かかりつけのクリニックでも調べてもらうことは可能です。極めてまれですが、50歳未満の男性でも前立腺がんが見つかることがありますので、尿の出が悪いなどの自覚症状がある場合には泌尿器科でPSA検査と直腸診を受けておくとよいでしょう。
(岐阜赤十字病院泌尿器科部長、ウロギネセンター長)