インプラントによる乳房再建(日本乳癌(がん)学会「患者さんのための乳癌診療ガイドライン」より)

乳腺外科医 長尾育子氏

 今回は乳房再建についてのお話です。乳房再建とは、手術によって失われた乳房の膨らみを、形成外科手術でもう一度作る方法です。乳房再建は必ずしも行わなければならないことではありませんが、乳房切除後に起きる身体的、精神的な負担が軽くなる可能性があり、重要な治療のひとつといえます。

 乳房再建は行う時期により、一次再建(乳がん根治術と同時に行う)と二次再建(根治術後にあらためて行う)に分けられます。また、再建の方法により、自家組織による再建(広背筋や腹直皮弁を用いる)と、人工物による再建(シリコンを留置するインプラントを用いる)に分けられます。人工物による乳房再建も2013年から保険適用になり、現在では自家組織による再建より、人工物による再建を選択する方が多いのが現状です。当院では乳房全切除を受けた方のうち、5~6人に1人が人工物による乳房再建を受けられました(20年1月~21年12月)。

 頻度の高い人工物による乳房再建の流れを図で紹介します。人工物による乳房再建は、エキスパンダーを留置する手術とシリコンに入れ替える手術、合計2回の手術が必要です。手術は乳がん手術の傷と同じところから行うので、新たな傷ができないことはメリットですが、感染症のリスクや人工物が破損する可能性があるなどのデメリットもあります。

 どのような方法で乳房再建をするかは、乳がんの種類や進行具合によっても異なります。乳腺外科医、形成外科医に、自分の希望を伝え、手術のメリットとデメリットをよく理解した上で、術式を選択する必要があります。

 乳房再建をすると、術後の検査への影響が心配、との声をよく聞きますが、乳房を再建することで再発が増えたり、再発の診断に影響したりすることはない、とされています。再建後の検査では、乳がんの再発の有無のほかに、シリコンを包む被膜に病的変化がないか、シリコンが破損していないかなど、長期の経過観察が必要です。自己チェック(再建した乳房の表面と周囲をなでて、皮膚の変化やしこりがないかをみる)も、お願いしています。

 私は、今後も形成外科医と連携して、乳房再建を積極的に進めていきたいと考えています。