「決勝で会おう」。2012年2月26日、息子の明浩が小学3年生のとき、名古屋市で行われた大きな大会で、同学年の松下洸平君から言われた言葉です。

 息子は、5連勝で決勝に駒を進め、松下君の言葉通り、決勝戦で彼と相まみえました。結果は、松下君の勝ち。少年漫画のヒーローのような松下君の言動に、「カッコいい子だな」と思ったことが印象に残っています。

 実は、その少し前の2月11日の大会でも、松下君が優勝し、息子が準優勝していました。その後も、決勝で2人が対戦する機会は何度もあったようです。

 松下君を初めて見たのは、11年11月3日、名古屋での大会です。息子は4連勝した後、彼に負けて低学年の部で3位となり、松下君は優勝でした。

 松下君は、礼儀正しい子で、私に、「僕は毎日、自分で戦法の本を1時間、詰め将棋を30分、将棋クラブ24(インターネット対局サイト)の対局を1時間しています」と話していました。まだ3年生なのに、こんなに自分で努力ができる子がいるのかと、大変驚いたことを覚えています。

 息子が1人で大会へ行くようになると、私が松下君を見る機会はなくなりました。それから2年ほど後の13年10月6日、教室の生徒を引率したJT杯東海大会で、私は久しぶりに彼の姿を見ることになります。

 彼は、息子と同様に、短時間でどんどん勝ち進み、決勝トーナメントに進みました。しかし、専守防衛に徹する相手に時間切れで負けました。とても悔しかったようで、そのことを息子に話していました。

 その後、松下君や同学年の磯谷祐維さん(現女流初段)は、息子の元に「がんばれ」と応援に来てくれました。息子は、準決勝で、松下君を倒した子と対戦します。そのとき、松下君は「俺の敵を取ってくれ」と言い、息子は「うん」とうなずきました。

 少年漫画の友情物語を見ているようで、私は胸が熱くなりました。息子はその対局に勝ち、杉本昌隆八段が解説した決勝戦も勝って、優勝しました。私には、息子が優勝した姿よりも、息子の勝利を我が事のように喜んでいた松下君の姿が印象に残っています。

 そのときだけでなく、息子は、負けた子から応援されることがよくありました。私と妻は、そのことをとてもうれしく感じていました。

 負けた子が、その後、相手の応援に回る。勝った子は、それを意気に感じて一層気合が入る。そんなステキな関係が、息子の周りにあったのは、本当にありがたいことだったと思います。

(「文聞分」主宰・高田浩史)