関東オークスをアンデスビエントで逃げ切り、重賞初勝利を飾った田口貫太騎手(NAR提供)

 貫ちゃん、7馬身差「貫勝」で重賞初V。「お母さんへの誕生日プレゼント」にもなった!

  関東オークス(JpnⅡ、ダート2100メートル)が12日、川崎競馬場で行われ、田口貫太騎手(20、大橋勇樹厩舎)騎乗のJRA・アンデスビエント(牝3歳 西園正都厩舎)が逃げ切り、3歳ダート女王の座に輝いた。デビュー2年目の田口騎手はJRAを含めて重賞初勝利を飾った。

 11頭立て、アンデスビエントはここ2年の関東オークス勝ち馬と同じくJRA1勝クラスVから参戦。単勝2.1倍の1番人気に推された。         
 ロケットスタートを決め、道中は1馬身ほどの差で快調な逃げ。2周目の向正面で6番人気の船橋・ミスカッレーラ(御神本訓史騎手)が競りかけてきたが動じず、3~4コーナーでスイッチオン。直線では残り200メートルを切って一気に突き抜けた。

アンデスビエントで重賞初勝利の田口騎手を迎える厩舎スタッフ(NAR提供)

 ■ニューヒロイン誕生、7馬身差はオグリキャップの東上初戦と同じ

 「これは強い」。7馬身差ゴールインの田口騎手は歓喜に浸り、愛馬の快走をたたえた。 鮮烈なラストの伸び脚は、ダート界にニューヒロイン誕生を印象付けた。父はドレフォン。母のアンデスクイーンは同じ西園厩舎に所属し、川崎・エンプレス杯を含む牝馬ダートグレードで3勝を飾った名牝だった。

  東上初戦「7馬身差」という着差で思い出したのが、1988年6月の一戦。オグリキャップが東京・NZT4歳S(現3歳)を馬なりで7馬身差圧勝し、関東のファンを驚かせた。アンデスビエントも伸び盛りの3歳初夏。田口騎手とのコンビでにファンのハートを射抜くパフォーマンスを見せてくれた。

関東オークス制覇のアンデスビエントと喜びの関係者(NAR提供) 

 ■1番人気に推され「しっかり走り切ってくれた」

 うれしい重賞初Vをゲットした田口騎手は、まず重賞で1番人気になる馬を任せられたことに感謝。「ナイター自体は苦にせず、レースでは終始物見をしている感じでしたが、最後はしっかり走り切ってくれた」と振り返り、「重賞などと考えず、普段通り乗ってこい」と送り出した西園調教師の期待に応えた。

 「スタート良く楽にハナを取り、マイペースでゆっくり行こうと。向正面で併せに来られた時もしっかり反応。集中して走ってくれて強い内容でした。前走と同じく3~4コーナーからハミを取る形で、馬を信じて乗った。まだ3歳牝馬で成長力があり、これからも頑張ってくれる」と力強い走りを期待した。

元笠松競馬騎手の父・輝彦調教師(左)、母・広美さん(右)の長男として育った貫太騎手=千葉県白井市、JRA競馬学校

 ■「母の誕生日で感謝」「海外でも騎乗できるジョッキーに」

 また「きょうは自分の母親の誕生日でもあって」と照れくさそうに話すと、「オーッ、おめでとう」とファンの歓声が上がった。「ここまで育てくださった両親をはじめ関係者の皆さんに感謝して、これからは海外でも騎乗できるジョッキーになりたいと思っています。ぜひ応援してください」とファンへ熱いメッセージを送った。

 アンデスビエントはスパーキングレディーカップ(7月3日)の優先出走権を獲得。西園調教師も「交流重賞3勝のお母さん(アンデスクイーン)に続けるよう育てていきたい」と成長に期待を込めた。

 田口騎手は笠松競馬場の厩舎がある岐阜県岐南町の出身。両親は笠松競馬の元ジョッキーで、父・輝彦さん(59)は現役の調教師。母の広美さん(50)は笠松競馬の女性ジョッキー第1号として通算120勝を挙げた。

 競馬ファミリーの長男として小さい頃から競走馬に親しんできた。オーナーさんや厩舎スタッフが競走馬に携わる仕事ぶりを見てきて、騎乗を任せてくださる人たちへの感謝の気持ちを大切にする青年に育った。「厩舎関係者やお客さまに愛され信頼され、勝てる騎手を目指したい」との思いが強く、今回の重賞初Vは、笠松競馬の関係者や応援するファンたちを喜ばせた。

 ■「愛され信頼され、勝てる騎手」を目指して

田口騎手のJRA競馬学校時代、卒業作品として制作した馬の彫塑                 

 JRA競馬学校時代、3年生には美術の時間もあり、卒業作品を制作した。騎手候補生がデビュー後の活躍も夢見て、卒業式の日には馬の彫塑や版画などを出品。「第39期生 田口貫太」制作の2点も展示され、将来のJRAジョッキーとしての騎乗姿などがイメージされていた。校内には武豊騎手ら歴代卒業生たちの美術品も保管されており、メモリアル作品として来場者にも公開された。

卒業作品として展示された版画

 母の広美さんは「日本ダービーを見て、騎手を目指してくれた。みんなにかわいがってもらえる明るいキャラなんで、けがなどなく無事に乗ってくれれば」と優しく見守って応援を続けてきた。笠松競馬レジェンドのアンカツさんも貫太騎手には「焦って早仕掛けにならないよう、我慢してしっかり追える騎手に」などとアドバイス。笠松ファンにとっては「将来のアンカツ2世に」との熱い期待もあるだろう。

笠松でも癒やし系の貫太スマイル。ヤングジョッキーズで勝利を飾った

 ■日本ダービー、凱旋門賞も将来の大きな目標

 岐阜県出身者として初めてJRA競馬学校を卒業。田口騎手は昨年、JRAで35勝を挙げて「最多勝利新人騎手」の表彰を受けた。今年は既に24勝を挙げてリーディング18位と着実に成長。将来の夢としては「騎手を目指したきっかけでもある日本ダービーを勝ちたい」とのことだ。

 さらに競馬学校入校時からの大きな夢は凱旋門賞に挑戦すること。関東オークス制覇のインタビューでも改めて「海外で騎乗」を大きな目標に掲げた。長いジョッキー人生「つらいこともあっても、腐らずに地道に頑張って花を咲かせられたらいいです」と語っていたが、今後も一歩ずつ着実に成長した姿を見せていきたい。

笠松での柴山雄一元騎手(右)との爆笑トークでは「逃げ馬は好きじゃない」と話していた田口騎手

 ■好きじゃなかった逃げ馬の良さも感じて

 関東オークスでは逃げ切りを決めた貫太騎手だが、昨年末、引退を決めた柴山雄一元騎手とのトークショー(笠松競馬場内)ではこんなことも語っていた。騎乗馬の脚質について「中団ぐらいで乗る方が好きです。あんまり逃げ切れたことがなくて、いつも最後にジワーッと差されるんで、逃げ馬は好きじゃないです」と。雄一さんには「逃げ切るのもいいですよ。自分のペースで行って『付いてこうへん、ヨッシャー』となるからね」と助言。アンデスビエントとの逃げ切りVは、雄一さんの言葉通りで、逃げ馬での快感も味わったことだろう。

 ■有力馬への騎乗依頼は増え、JRAでの重賞Ⅴも

 地方・JRAを通じての初勝利は笠松だったが、重賞初Vも地方競馬の川崎だったとは。2009年にはラブミーチャンが全日本2歳優駿を制覇し「NARグランプリ年度代表馬」受賞の決め手となったのも川崎ナイターだった。関東オークスでの「圧逃」ぶりは大きなインパクトがあった。価値ある大きな1勝で、今後は有力馬への騎乗依頼も増えて、JRAでの重賞Vのチャンスもそろそろ巡ってくることだろう。

オグリローマンひ孫のグラインドアウト(高知)。佐賀でル・プランタン賞を制覇し、関東オークス3着と健闘した(NAR提供)

 ■オグリローマンひ孫のグラインドアウト(高知)3着、「グランダム・ジャパン3歳」総合V

 関東オークスではJRA勢4頭が上位人気を占めたが、地方勢が2~7着と健闘を見せた。笠松からもアンバーシュガー(藤原幹生騎手)が中5日で参戦、相手関係が厳しく大差をつけられて11着だった。

 2着に船橋のミスカッレーラが踏ん張り、中団インから追い上げて3着に粘り込んだのは8番人気の高知・グラインドアウト(赤岡修次騎手)。勝ち馬に続く上がりタイム(3F)で2着争いに加わった。

 グラインドアウトは、桜花賞馬オグリローマンのひ孫でもある。オグリキャップと同じ北海道・稲葉牧場の生産馬で「華麗なるオグリ一族」の血脈を継承する一頭。母クィーンロマンスで、祖母がオグリロマンス。近年、勢いを増している高知勢のレベルの高さをアピールした。

 赤岡騎手は「手前を替えるのが下手だけど、左回りの方が替えやすく、もっと走れる」と。稲葉牧場では「ただ出るだけだと思っていた関東オークスで、よく頑張ってくれた。今後も楽しみ」とネット上で期待を寄せた。

 牝馬競走シリーズ「2024年グランダム・ジャパン3歳シーズン」が終了し、グラインドアウトは第2戦のル・プランタン賞(佐賀)を勝ち、関東オークス3着で総合Vを決めた。オグリ一族の血が再び騒ぎだしたようで注目していきたい。       

自厩舎のナムラルッコラで勝利を飾った田口騎手。2着に岡部誠騎手、3着に坂井瑠星騎手 

 ■田口騎手、笠松でも逃げ切り10勝目

 田口騎手は笠松でも5月9日に逃げ切り勝ちを飾っていた。月に1、2回実施されるJRA交流戦には関西勢が多く参戦する。鵜沼宿特別(3歳2特別、中央未勝利)では、貫太騎手が自厩舎のナムラルッコラ(大橋勇樹厩舎)で鮮やかに逃げ切って1着。坂井瑠星騎手が騎乗した断トツ人気馬(ヴェルダージ、寺島良厩舎)を3着に従えての圧巻の逃げ切りだった。

 この勝利で笠松では通算10勝目となった。笠松でのエキストラ騎乗も多く、この日の重賞・新緑賞にも挑戦。父・田口輝彦調教師が管理するブルーチースで7着に敗れたが、地元・笠松で、できれば父の厩舎の馬での重賞Vも期待されている。

愛されキャラで丸刈りがよく似合う田口騎手。JRA100勝までは継続する

 ■勝ち星伸ばし、髪の毛も伸ばす?

 アンカツさんも注目していた田口騎手のヘアスタイルについては、柴山元騎手とのトークショーで「(見習騎手として)100勝までは丸刈りのつもりで、それを突破したら伸ばし始めようかなと思っています」とのことだ。

 JRAで59勝、地方でのJRA交流戦でも16勝を挙げて計75勝。年内には減量騎手卒業の101勝に到達する勢いだ。

 笠松での重賞Vも、できればは多くのファンが望む丸刈りのうちにお願いしたいが、現状の地元馬の実力では厳しいか。「今のままの髪形でいてほしい」との声も根強いが、こればかりは本人が決めること。ファンの心を癒やす愛されキャラで、勝ち星を伸ばし、髪の毛も伸ばすのか。田口騎手の自然な笑顔はやはり「岐阜県の宝」である。


※「オグリの里2新風編」も好評発売中

 「1聖地編」に続く「2新風編」ではウマ娘ファンの熱狂ぶり、渡辺竜也騎手のヤングジョッキーズ・ファイナル進出、吹き荒れたライデン旋風など各時代の「新しい風」を追って、笠松競馬の歴史と魅力に迫った。オグリキャップの天皇賞・秋観戦記(1989年)などオグリ関連も満載。

 林秀行(ハヤヒデ)著、A5判カラー、206ページ、1500円。岐阜新聞社発行。笠松競馬場内・丸金食堂、ふらっと笠松(名鉄笠松駅)、ホース・ファクトリー、酒の浪漫亭、小栗孝一商店、愛馬会軽トラ市、岐阜市内・近郊の書店、岐阜新聞社出版室などで発売。

※ファンの声を募集

 競馬コラム「オグリの里」に対する感想や意見をお寄せください。投稿内容はファンの声として紹介していきます。(筆者・ハヤヒデ)電子メール h-hayashi@gifu-np.co.jp までお願いします。