青柳正義騎手が手綱を取って、パドックから返し馬に向かうオグリキャップ孫娘のレディアイコ

 

 「アイコちゃん頑張れ」。ファンの熱い思いに応えて、芦毛の4歳牝馬が「オグリキャップの聖地」を懸命に駆け抜けた。

 オグリキャップ孫娘のレディアイコ(父モーリス、母ミンナノアイドル)が7日、笠松競馬場で待望のデビューを果たした。偉大な祖父は、笠松ではアンカツさんらを背に8勝、2着2回。1988年1月のゴールドジュニアで重賞Vを飾ってから34年。「オグリの遺伝子」を受け継いだレディアイコも同じコースを疾走し、聖地に蹄跡を刻んだ。

 力走及ばず6着でのゴールインとなったが、「笠松競馬永続の守り神」である祖父に天国から見守られて、ファンの前で元気いっぱい、晴れ姿を披露。正門横に立つオグリキャップ像も、かわいい孫娘の笠松デビューを喜んだことだろう。

レディアイコの返し馬。ファンとの距離が近い外ラチ沿いを進む各馬

■返し馬「こんなに近くに来てくれるんだ」

 レディアイコは岩手から笠松・後藤佑耶厩舎に移籍した。如月シリーズ初日5Rの1400メートル戦(8頭立て)に登場。晴れ上がって雪景色がまぶしい木曽川河畔ののどかなコース。パドック周回では頭を低くして気合乗り十分。笠松での期間限定騎乗で、勝利を量産している青柳正義騎手(金沢)が手綱を取った。返し馬では、スタンド前の外ラチ沿いを通って第4コーナーへ。各馬を見守るファンからは「こんなに近くに来てくれるんだ」と驚きの声も聞かれた。

 オグリキャップが主人公で、笠松競馬場を舞台にしたウマ娘漫画「シンデレラグレイ」が大ヒット。場内ではレディアイコの単勝馬券を買い求める「馬女」の姿も多かったようだ。一時1番人気だったが、専門紙の印通り3番人気で出走。記念の単複「がんばれ馬券」と馬連を買って応援した。
 
 レース直前、スタンドではオールドファンも「母父がオグリキャップで、(母ミンナノアイドルは)最後の産駒。3勝するとまた中央に戻れる」と注目していた。

3コーナーで先行勢を追撃するレディアイコ。3番手に上がった

■勝負どころで追い上げ開始、3番手に上がったが


 ファンファーレが鳴り響いて、レディアイコは1枠からまずまずのスタート。中団前めの4番手をキープした。専門紙には「逃げ」との表記もあったが、JRA時代の新潟・芝では、メンバー最速の上がりタイムで追撃したこともあり、差しタイプとみていた。

 1周目ゴール板を過ぎて、1~2コーナーでは前3頭からやや離されたが、勝負どころの向正面下り坂から追い上げを開始。3コーナーでは、1頭かわして3番手に浮上。「これは、いけるかも」と期待感が充満したが…。

 4コーナーを回ると、ロングスパートは伸びを欠いて不発に終わった。逃げ切ったマルヨアイチ(柴田高志厩舎)からは2秒4差。「ああ、残念」の声も聞こえてきたが、持てる力を出し切って、まずは「無事完走」を果たしてのゴールイン。見守ったファンや厩務員ら厩舎関係者はホッとしたことだろう。

1周目のゴール前を4番手で駆け抜けるレディアイコ

■青柳騎手「暖かくなってきて、馬体が良くなってくれば」

 騎乗した青柳騎手はこの日、4勝を挙げて期間限定騎乗の身ではあるが、笠松リーディングのトップに躍り出た。レース直後、レディアイコの走りっぷりなどを聞いた。

 ―リーディングですね。笠松コースが合っていますか。

 「(後藤佑耶厩舎に所属し)いい馬に乗せていただいているんで、結果を出さないとね」

 ―騎乗されたレディアイコは注目されています。かつてのハルウララ(高知)のようにまだ勝っていないですが、人気があります。追い切りでも乗って、どうでしたか。

 「本追い切りに乗っただけですけど、ずっと使っていた馬なんで、ガツッと動かした感じではなかったです。元々カリカリするところがあって、馬体重を減らすことがある馬ですね」

 ―きょうは401キロで、前走より4キロ減でした。

 「一生懸命に走っているですけど『もうちょっと体ができてくれたらなあ』という感じですね」
 
 ―差しも決まる馬場で4番手の好位置につけて、向正面から前へいい感じで上がっていきましたが。

 「展開的にはあんなもんかなあと。『4コーナーぐらいで抜けるかなあ』と思いましたが、馬体減が響いたのか、最後はちょっと止まって離されてしまいましたね。もう少し暖かくなってきて馬体が良くなってくれば、もうちょっと競馬をしそうな感じがするんで、これからですね」

期間限定で好騎乗を連発。リーディングに躍り出た青柳騎手

■マイペースでずっと行くタイプ

 ―明け4歳ですが、調教から乗っていて、どんな脚質ですか。2走前は水沢で逃げて3着でした。ずっと外枠有利な馬場が続いていて(このところ不利だった)1枠は影響しましたか。

 「逃げ馬というタイプじゃないですね。あんまり切れ味がある感じでもないんで、マイペースでずっと行くタイプですね。きょうは外に速い馬がいたんで、行かれちゃいましたし、(最後の直線では)脚が上がっちゃってね。1回、外枠から競馬をしてみたら面白そうですね」

 ―勝敗以上に、無事繁殖に上がることが期待されている馬です。岩手で3連勝した兄ミンナノヒーローは脚のけがで亡くなっており、そういうことがないよう、ファンは願っています。

 「それはありますね。『無事これ名馬』ですからね」

 ―佐藤牧場でも「繁殖で血統を継承してほしい」と期待しています。
 
 「やっぱりオグリキャップって、笠松をスタートにして活躍した馬なんで、そういう血統が残っていくことは、とても大事なんで。無事繁殖に上がってほしいですね」

 ―笠松には長くても8月ぐらいまでですが、JRA復帰(3勝が条件)は、きょうの走りではどうか。
 
 「ちょっと厳しいかも…。まあ、成長待ちですね」

 ―C級でも未勝利で終わっても仕方がないですが、いいところはありましたか。

 「もっと入れ込むかと思いましたが、普段より落ち着いていてレースに臨めたんで、もう少し馬場慣れすればいいのでは。スタートも決まっていましたから、これから成長して頑張ってほしいです」

 青柳騎手のような名手に乗ってもらえたが、力不足で残念だった。「期間限定中、いっぱい勝ってください」と伝えたが、後半のレースでも2勝。1月から何と18勝も挙げ、助っ人ながらもトップを快走。かつてヤマミダンスでラブミーチャン記念(2016年)を制覇しているが、笠松との相性が本当にいいし、競馬に取り組む姿勢も素晴らしい。金沢のレースがない水~金曜日には、騎手不足の笠松をまたサポートしていただきたい。人気薄の馬を2着に突っ込ませるシーンも多く「うまいなあ」と実感。今後、笠松での重賞レース騎乗も増えそうだ。

ファンの注目を浴びて、6着で無事ゴールしたレディアイコ(笠松競馬提供)

■オグリのぬいぐるみやグッズを身に着けて

 場内のファンにも、レディアイコのレースの印象を聞いた。

 「話題性がある馬で、若い人がいっぱい来ていた。オグリのぬいぐるみがあったし、グッズも身に着けていてにぎやかでした。みんなスマホで撮ってたし、SNS投稿で盛り上がりそう。(6着で)せめて掲示板を確保してほしかったが、笠松に居てくれてもう少し長く見られそう」

 「きょうは内枠だったが、外枠だったらもう少し面白い競馬ができるかなあ。枠にも左右されちゃうから。次は体重が増えて頑張ってくれれば」と、さすがは笠松ファン。青柳騎手と同じような意見もあった。「オグリの孫娘ということで、お客さんがまた来てくれるでしょう。今は『ウマ娘』で追い掛けてくれる子いるからね」と期待を込めていた。

■無事にゴール「いい走りで良かった」「走る姿に励まされた」

 ネット上のファンの声も熱かった。

 「よく頑張って無事にゴールしてくれました。また応援に行きたいです」

 「レディアイコちゃん見てきました。レース結果は残念でしたが、いい走りで良かった。次回出走も楽しみです」

 「頑張ってましたね。走る姿に励まされ、また明日から自分も頑張りたいと思います。これからも応援していきましょう」

笠松競馬場で行われたオグリキャップ引退の里帰りセレモニー。アンカツさんを背にコースを2周し、場内外を埋めた3万人以上のファンが声援を送った=1991年1月

■「社会現象」になったハイセイコー、オグリキャップ、ハルウララ

 「笠松発のサクセスストーリー」。今も日本の競馬史上最高の名場面として語り継がれているのが、有馬記念Vで響き渡ったオグリコール。最後まで諦めない走りはファンを勇気づけ、苦しいときにも底力を発揮する「オグリキャップ精神」として脈々と受け継がれてきた。経営難や不祥事で大揺れしたが、笠松のホースマンたちは競馬場存続のピンチに耐えて、復興につなげてきた。

 強くてGⅠレースを何度も勝った馬はいっぱいいたが、競馬をやらない一般の人を巻き込んで「社会現象」にまでなった競走馬は数少ない。走った年代順に「ハイセイコー、オグリキャップ、ハルウララでは」というネット上の声もあった。いずれも地方出身馬で、連敗記録が注目されたハルウララは「負け組の星」となり、「当たらない」単勝馬券は交通安全のお守りにもなった。レディアイコは9戦して未勝利だが、祖父の古里を元気に駆け抜ける孫娘の姿は、オグリキャップファンの胸を熱くする。ウマ娘ファンの力も借りて、ひたひたと近づく春の足音とともに盛り上がっていくといい。
 

オグリキャップ初産駒の長男オグリワンは30歳になっても元気だ。長野県の養老牧場でのんびりと暮らしている(スエトシ牧場提供)

■長男オグリワンは長寿、30歳の誕生日迎え健在

 オグリキャップは25歳で天国に旅立ったが、初産駒の長男オグリワン(母ヤマタケダンサー)は2月9日、ちょうど30歳の誕生日を迎え健在だ。JRA時代には、ききょうステークスで勝利を挙げ、皐月賞や日本ダービーにも出走した。地方に移籍し、名古屋所属で3勝、高知所属で2勝。9歳まで走り、109戦7勝とよく走った。引退後はファン有志で結成された「オグリワンの会」がサポート。長野県佐久市のスエトシ牧場(引退馬預託施設)でのんびりと余生を過ごしている。預託料は月7万円で(オーナーは個人やグループ)、60頭ほどが飼育されている。

 スエトシ牧場によると「オグリワンは餌もよく食べてるし、変わりなく元気ですよ。牧場は標高が約1000メートルと高くて、多くの馬が長生きしています。うちにいて2年半前に亡くなったシャルロット(現役時代は大井所属)という馬は、40歳まで元気でしたよ。シンザンは35歳まで生きましたが、その長寿記録を更新してね」と。シャルロットは国内最高齢馬として大往生し、長寿を全うした。

 オグリワン誕生日の9日には、オーナーで「オグリワンの会」代表の女性が牧場を訪れており、「ハッピーバースデー」のお祝いをしたそうだ。芦毛馬特有のメラノーマ(皮膚がん、悪性黒色腫)がお尻の周りにできているが、放牧や厩舎で元気に養老生活を送っている。「あと1、2年は大丈夫でしょう」とのことで、高地にある牧場で幸せな暮らしを続けている。

■母ミンナノアイドルは15歳に、コパノリッキーとの女の子を出産

オグリキャップ最後の産駒ミンナノアイドル。5年前にはモーリスの子(レディアイコ)を受胎していた=北海道、佐藤牧場(パカパカ工房提供)

 レディアイコが生まれた北海道・新冠町の佐藤牧場では、母ミンナノアイドルが15歳になった。子宝に恵まれない時期もあったが、2男2女の母馬となって、元気よく繁殖馬生活に励んでいる。昨年はコパノリッキーとの子を出産(牝馬)。長男のストリートキャップは中央で3勝を挙げたが、脚のけがで引退。金沢競馬場の誘導馬を目指している。次男のミンナノヒーローは中央デビューを果たせず、昨年7月、盛岡でのレース中に脚を骨折し、天国に旅立った。兄2頭はともにゴールドアリュール産駒だが脚元が弱く、一口馬主として応援するファンたちをハラハラさせてきた。

 祖父の聖地・笠松で活躍が期待されるレディアイコ。管理する後藤佑耶厩舎では、勝利を目指すとともに「無事に繁殖に上がらせたい」と、愛馬がけがなく過ごせるように馬体のケアに力を注いでいる。

 佐藤牧場にとっては、待望の長女でもあった。オグリワンのように長寿で、繁殖馬生活を続けてくれれば、オグリの血統を末永く継承していける。もちろん笠松で初勝利を挙げる姿を見てみたいが、8月までとみられる競走馬生活。馬なりでもいいから、無理せず元気に走って、生まれ故郷に帰ってもらいたい。