「この地域が変わることは、日本の生活保護制度、貧困対策を進める上で大きな意味を持つ」と語る桜井啓太准教授=岐阜市金町、市文化センター

 「どうして生活保護はこんなに利用されないのか」―。必要な人に生活保護が届いていない原因などを考えるシンポジウムが28日、岐阜市金町の市文化センターで開かれた。講演した立命館大の桜井啓太准教授(社会福祉学)は、いわゆる「水際作戦」が指摘された岐阜市の問題点についても言及し、「相当な赤信号が出ている」と指摘。「社会の意識や価値観を変えることで、制度をセーフティネットとして機能させなければいけない」と訴えた。

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 岐阜県弁護士会が、日本弁護士連合会第66回人権擁護大会のプレシンポジウムとして開催した。桜井准教授は、大阪府堺市で生活保護行政に携わった元ケースワーカー。名古屋市立大大学院人間文化研究科准教授を経て、2019年4月に現職に就き、生活保護制度の自治体間の運用格差について研究を重ねている。

 都道府県は市町村の生活保護行政が適切に行われているかどうかを監査した後、資料を厚生労働省に提出する仕組みになっている。桜井准教授は各地のこの資料などを情報公開請求で入手し、分析した。

 窓口での相談対応を経て生活保護の申請に至った割合「申請率」については、「岐阜県は全体的に低めで、中でも一番注意が必要なのは岐阜市」と指摘。2021年度は、市の窓口での相談対応のうち申請に至った割合が19・5%と、全国平均の約60%と比べて極めて低い状況だった。生活困窮者が岐阜市の窓口に相談に行っても、約8割もの人が生活保護の申請にすら至っていなかったことを示している。申請率が2割を下回っているのは県内で唯一だった。

 岐阜県は監査資料に、岐阜市の申請率が著しく低い要因として「生活保護相談時の職員対応に関するクレームも多く寄せられている」などと厳しく記していた。桜井准教授は自身の経験から「身内(同じ行政)のことなので、基本的には(県内自治体のことは)守る」と明かした上で、こういった厳しい表現になったことについて「(岐阜県から見た岐阜市の対応は)よっぽどの状況だということ。県にもクレームが入っていたのではないか」と推察した。

 また、人口1千人当たりの生活保護の受給者数を割り出した都道府県別の「保護率」(昨年12月時点)は岐阜県が0・60%で44位となるなど、下位に東海北陸地方の県が集中していた。「支援を必要とする人に、制度が届いていない可能性がある。問題が山積している地域と言えるのではないか」と述べた。

 「捕捉率」という言葉がある。生活保護基準未満の低所得者層のうち、どれぐらいの人が生活保護を受給しているかを示す数値で、高ければ支援が行き届き、低ければ社会が困窮者を「支援できていない」とも考えることができる。

 日本の捕捉率は2~3割程度とされており、桜井准教授は二つの要因を強調。申請に来た人を追い返す「水際作戦」など制度へのアクセスの障壁と、「生活保護を受給するのは恥ずかしい」などと考えてしまう受給者へのスティグマ(社会的らく印)などを挙げた。このスティグマは、地縁・血縁者が強固な「地方都市ほど強い」という。 東海北陸地方の県は、東京や大阪などの大都市圏に比べて生活保護基準未満の所得層の人数を指す「貧困率」は小さい。一方で、それ以上に受給者の人数を示す「保護率」も低いことについては、「生活保護を受けられる対象にありながら、受給できていない人が大勢いるのではないか」と指摘。「支援者組織も限られる中で、問題の顕在化に失敗している」と、このエリアにおける現状への危機感を語った。

 「この地域が変わるということは、日本の生活保護制度や貧困対策を進める上で大きな意味を持つ。支援者やメディアなどの地道な活動で、一つ一つ変えていくしかない」と述べた。

 岐阜市は県の監査で指摘を受けたほか、今年3月の市議会定例会一般質問で市議3人からの追及を受けたことなどから、適切な窓口対応のため職員に研修や指導を行うなど、対応の在り方を見直した。支援者からは早くも「岐阜市の対応は変わった」と好感する声も上がっている。8月には、岐阜市柳津町の道の駅「柳津」で夜間、駐車場が満車に近い状況になっていることを受けて、車上生活者への声かけを始めている。

 また、桜井准教授は、専門家らでつくる市民団体「生活保護情報グループ」のメンバーでもある。今月には、2012年度以降の10年間の監査資料に基づき、保護率の増減を自治体ごとに色分けした「マップ」(リンクはこちら)を発表し、注目を集めた。

 マップでの岐阜県内21市の保護率の状況について、「ずっと低いため、増減では現状を表しにくい」としつつ「地域の人たちがチェックできる仕組みが大事」と語り、捕捉率など他の数値での可視化ツールを発表する構想を示した。

 

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 山田俊介(やまだ・しゅんすけ)2012年入社。岐阜市政担当、司法担当、県警担当を経て、23年10月から本社遊軍。精神疾患の当事者らと向き合う「ドキュメント警察官通報」など、福祉分野の連載を手掛けてきた。今年2月からは、岐阜市の水際作戦や、道の駅での車上生活者の実態を明らかにした「ホームレスは、どこへ行った」を担当している。1児の父。岐阜市出身。X(旧twitter)はこちら