「笠松の絶対エース」渡辺竜也騎手がまた快記録を達成した。10月23日の笠松8Rで、パイロズブリッジ(牝3歳、笹野博司厩舎)で逃げ切り、今年184勝目。笠松競馬場での年間最多勝記録「183」を自ら更新した。
渡辺騎手はシリーズ初日、7勝を挙げて一気に最多勝記録を突き破った。2日目に4勝、3日目にも2勝を飾り、計13勝と固め打ち。白星を「192勝」まで積み上げ、地元での200勝ラインも次開催でクリアできる勢いだ。
■「地方通算1000勝」年内にも達成
8月14日に地方競馬通算900勝を達成したばかりで、記念セレモニーでは「年内に1000勝を達成したい」と冗談ぽく意欲を見せていた。「それはちょっと難しいだろう」と思われたが、有言実行となるのか。
10月25日現在、965勝で大台まで「あと35勝」に迫っている。夏以降、1日4勝以上も目立ち、量産態勢はスピードアップ。1カ月間に20勝以上積み上げており、年内に「地方通算1000勝」は達成可能な数字になってきた。
■勝率36.1%でNARタイトル奪取へ
今年、地方通算205勝で全国リーディング6位。「今や地方競馬を代表するジョッキー」で、24歳にして記録男への道を歩む渡辺騎手だが、もう一つ大きな目標がある。それはNARの「最優秀勝率騎手賞」だ。2009年に新設された賞で、東海地区(笠松、名古屋)の受賞者はまだいない。
昨年の勝率争いは赤岡修次騎手が38.5%というハイアベレージでトップ。吉村智洋騎手が27%で2位。渡辺騎手は名古屋など遠征も含め26.5%で3位だった。そして今年の渡辺騎手は、騎乗数567に対して205勝、勝率は36.1%まで10%近くも急上昇した。
2位で続くのが宮川実騎手(高知)の29.7%、3位が赤岡修次騎手(高知)の27.6%。今年の30%超えは渡辺騎手だけで、後続を大きく引き離してのトップだ。ジョッキーの勝率は、野球の打率と同じで、スランプが長引けば一気に下がる。それだけに気は抜けないが、現時点で渡辺騎手はタイトルの最有力候補。ちなみにJRAで勝ちまくっているクリストフ・ルメール騎手の勝率は今年31.9%で、川田将雅騎手は29.9%である。
■「6打数6安打の大谷級だね」
9月開催でも「騎乗機会7連勝」と「1日6勝」の固め打ちがあった渡辺騎手。「6打数6安打の大谷級だね」と活躍をたたえると「(勝率は)きのう上がりましたね。(6勝は)なかなかないですし。今年は2位が宮川さんですね」とタイトル争いを意識している様子。「やっぱり全国1位になることはいいですね」と奪取に意欲満々。勝率は9月以降も続いた猛暑、残暑とともにグングン上がっており、にこやかな表情からも好調ぶりが伝わってきた。
NAR「最優秀勝率騎手賞」のタイトルは、東海勢では岡部誠騎手も受賞しておらず、渡辺騎手が第1号になりそうだ。昨年は「フェアプレイ賞」を受賞しており「今年初めに『全国勝率1位を目指したら』と言ってもらって、自分も意識していますよ」と高いモチベーションで一鞍一鞍を大事に騎乗。好成績につなげている。
■筒井勇介騎手は地方通算1300勝を達成
8月には2年連続で笠松リーディングを獲得した経験がある筒井勇介騎手(田口輝彦厩舎)が復帰。「またリーディングを目指したい」と意欲を示し、3カ月で27勝を飾った。渡辺騎手にとっても、ダービージョッキーでもある名手の復帰は刺激になっていることだろう。
筒井騎手は10月23日には笠松11Rで、ナムラダリル(牡3歳、伊藤強一厩舎)に騎乗し差し切りV。地方競馬通算1300勝を達成した。2019年に124勝、20年には131勝を挙げて2年連続で笠松リーディングを獲得。重賞は12勝で、10年には名牝エレーヌで8勝を飾り、東海ダービーを制覇した。
筒井騎手は「馬主さんや調教師さんら関係者の皆さんに感謝の気持ちでいっぱいです。これからも頑張っていきたい」と意欲。自厩舎に有力馬が入るそうで「でかいところを勝ちたいですね」と年末に向けて期待を膨らませている。
■リーディング経験者や若手騎手頑張れ
ジョッキー不足は徐々に解消されつつある笠松競馬だが、中堅は少なく「渡辺騎手1強」の状況は当分続きそうだ。オーナー、厩舎サイドが勝利を求めて、実力のあるジョッキーに騎乗を依頼するのは当然のことだが「渡辺騎手ばかり勝っていて面白くない。他の騎手も頑張れ」といった一部のファンの声もある。筒井騎手のほか、笠松リーディング経験者の藤原幹生騎手や岡部誠騎手はもちろん、東川慎騎手(負傷療養中)ら若手の奮起も期待されている。
NARグランプリ表彰は、地方競馬のジョッキーにとって最高の栄誉だ。渡辺騎手は、大きなけがなどなければ、年内に「1000勝」達成と「最優秀勝率騎手賞」のタイトル獲得が実現できそうだ。
■ネクストスター笠松、ブリスタイム逃げ切りV
ゴールまで残り100メートルを切って「ミキオ、ミキオ」の大声援に応えて、5番人気の伏兵馬が逃げ切った。プロ野球のドラフト会議の開催直前、笠松競馬場では、フレッシュな2歳若駒同士が火花を散らした。藤原幹生騎手が騎乗したブリスタイム(牡2歳、笹野博司厩舎)が次世代エースに躍り出た。
今年で2回目を迎えた1着賞金1000万円のビッグレース。笠松所属馬限定の2歳重賞「ネクストスター笠松」(1400メートル、未来優駿)が24日行われ、ブリスタイムは道営から転入後いずれも逃げ切りで3連勝。笠松で快進撃を続けている。
■マイペースの逃げ、藤原騎手の好騎乗光った
「ネクストスター」は国内ダート競走の体系整備に伴い、3歳短距離路線として昨年新設された高額賞金レース。翌年5月の兵庫チャンピオンシップ(JpnⅡ)を頂点と位置付け。2歳秋から3歳春にかけて地方の各場で「ネクストスター」が開催され、ステップレースとなる。
ネクストスター笠松に向け、道営では未勝利で頭打ちだった3頭が高額賞金を狙って笠松に転入した。勝ったブリスタイムは調教から鋭い伸びを見せており、手綱を取ってきた藤原騎手の好騎乗が光った。スタートダッシュを決めると、マイペースの逃げ。同じ笹野厩舎のセンゴクブショウ=丸野勝虎騎手=がぴったりとマーク。3~4コーナーで半馬身をキープしたまま、最後の直線へ。
■一口馬主の会員やファンらが歓声
ブリスタイムの脚色は軽快。懸命に並びかけようとするセンゴクブショウと追ってきたゴーゴーバースデイ=塚本征吾騎手=を完封。最後は1馬身差でゴールイン。「やった、勝った」。ラチ沿いで応援するブリスタイムの一口馬主の会員や、ミッキー(藤原騎手)を応援するファンらが歓声を上げ、笑顔があふれた。
ブリスタイムは父コパノリッキー、母プリモタイムで重賞は初勝利。笹野調教師は昨年のワラシベチョウジャに続き、ネクストスター笠松で連覇を飾った。2着にセンゴクブショウ、ハナ差の3着にゴーゴーバースデイ。
笹野厩舎からは3頭出しでワンツーを決めた。このうち3連勝中だったスターサンドビーチ(牡2歳、笹野博司厩舎)には渡辺竜也騎手が騎乗。単勝1.3倍の断トツ人気だったが、力を出し切れず7着に終わった。
■「しっかり最後まで走り切ってくれた」
若駒を優勝に導いた藤原騎手は「前走とはペースが違って厳しいレースで、息は上がっていましたが、しっかり最後まで反応して頑張って走り切ってくれた」と愛馬をたたえた。
「パドックから非常に落ち着いていて、ゲートからグッと行ってくれたし、直線の手応えも良く、乗りやすかった。道中は少し気を抜くところもあるが、最後まで持つ感じでした。距離が延びてもいいし、逃げだけでなく、いろいろな脚質で走りそうですが、できるだけ前で競馬をしていきたい。環境に慣れれば各地の競馬場でも活躍できるのでは」と今後の飛躍に手応え十分。
ブリスタイムは道営ではJRA認定競走など6戦して6着が最高だったが、笠松で笹野厩舎入りして上昇気流。環境が合ったようで、厩務員らの愛情あふれるお世話にも恵まれて成長力を発揮。調教から藤原騎手とのコンビで、グングンと良化を見せてきた。
■笹野調教師「完勝でした、重賞戦線楽しみ」
笹野調教師も「調教から幹生君が手の内に入れてるんで。マイペースで他馬も来なかったんで、しのぎ切ってくれて完勝でした。この世代、3歳クラシックや重賞戦線に向けて楽しみな馬がいます」とにこやか。昨年新設されたネクストスター笠松の存在は大きく「2歳馬はここを目標にできるので、大きいレースはやりがいがあります。早めに門別から連れてきて、笠松の馬場に慣れさせて使っていければ」と馬主さん、厩舎のチームワークでの勝利をゲットでき、歓喜に浸っていた。
■センゴクブショウとワンツー
2着にも管理するセンゴクブショウが入り、鮮やかなワンツーフィニッシュ。こちらは新馬戦Vの生え抜き馬。2着が3回続いて「勝てていないが、前向きさがあっていい子。追われると頭が高くて伸びあぐねるのが課題ですが、距離は延びても大丈夫そう」と今後の成長力に期待した。
■断トツ人気スターサンドビーチは1番枠で不発
一方、渡辺騎手の騎乗で確勝級とみられたスターサンドビーチ。1番枠スタートで内に包まれ、砂をかぶったことも響いた。向正面から手応えが怪しく、最後の直線では「もう届かない」とファンの声が響いた。
笠松では3連勝だったが笹野調教師は「1枠からで、砂をかぶると安心できないところがあった。距離は長い方がよく、1700メートルの名古屋・ゴールドウィング賞(12月3日)もあるので」と次走で巻き返す構えだ。他場の重賞で笠松勢は2、3着と惜しい競馬も多いが「笠松の馬は落ちていない、というところを見せたい」と前を向いた。
■期待のキャッシュブリッツはウインター争覇へ
また古馬初挑戦でオータムカップを圧勝した期待馬・キャッシュブリッツ(牡3歳、笹野博司厩舎)については「順調です。次走はウインター争覇(11月29日)へ向かうことにしました」とのことで、成長力に磨きをかけてスターホースへの階段を一歩一歩上がっていけるといい。
※「オグリの里2新風編」も好評発売中
「1聖地編」に続く「2新風編」ではウマ娘ファンの熱狂ぶり、渡辺竜也騎手のヤングジョッキーズ・ファイナル進出、吹き荒れたライデン旋風など各時代の「新しい風」を追って、笠松競馬の歴史と魅力に迫った。オグリキャップの天皇賞・秋観戦記(1989年)などオグリ関連も満載。
林秀行(ハヤヒデ)著、A5判カラー、206ページ、1500円。岐阜新聞社発行。笠松競馬場内・丸金食堂、ふらっと笠松(名鉄笠松駅)、ホース・ファクトリー、酒の浪漫亭、小栗孝一商店、愛馬会軽トラ市、岐阜市内・近郊の書店、岐阜新聞社出版室などで発売。
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