笠松競馬場内でのトークショーに出演した戸崎圭太騎手(右)と高田潤騎手

 ラブミーチャンのラストランを飾った名手らが聖地・笠松競馬場に降臨し、爆笑トークで詰め掛けたファンを楽しませた。 

 地方全国交流重賞のラブミーチャン記念が行われた11月19日、笠松競馬場内の特設ステージでは、JRAの現役ジョッキー2人によるトークショーがにぎやかに開かれた。             

 拍手で迎えられたのは東日本リーディングトップの戸崎圭太騎手(美浦)と、障害レースでの重賞Vも多い高田潤騎手(栗東)。ともに44歳、人気と実力を備えた花形ジョッキーで、レーシングアナウンサーの長谷川満さんが司会進行を務め、鋭い突っ込みで本音を引き出した。

 ■GⅠ級21勝「アンカツさんの後継者」

 戸崎騎手はJRA移籍後、ラブミーチャンに2度騎乗した経験があり、東京スプリント(大井)とクラスターカップ(盛岡)で優勝に導いた。元々は地方競馬のジョッキーで、大井時代には名馬フリオーソで帝王賞やかしわ記念を勝った。安藤勝己騎手引退直後の2013年3月、「地方発・名手」のバトンを受け継ぐような形でJRAに移籍した。GⅠ級勝利は21勝(中央12勝、地方9勝)。 

大井・東京スプリント、戸崎騎手がラブミーチャンに騎乗し差し切りV

 地方競馬出身でJRAに移籍した戸崎騎手を「アンカツさんの後継者」のように感じ、これまで応援してきた。移籍後もJRAリーディングに3度、関東リーディングには7度も輝いている。中団から差し切る競馬が得意で「しっかり追い出すのはラスト200を切ってから」と最後の直線でも馬をじっと我慢させ、伸び脚を爆発させる戸崎騎手。昨年のヴィクトリアマイル、 安田記念で連勝に導いたソングラインの末脚の切れ味は際立っていた。 

 ■「僕は乗せていただいているだけ」と2連勝

 2013年春夏、JRA騎手としてラブミーチャンに騎乗した戸崎騎手は「乗り味は体で鮮明に覚えています。僕が乗せてもらった時は、もうレースも覚えていましたし、素軽い馬でスピードのある馬だなあという印象でした。スタートも速かったですね」と振り返った。福永祐一騎手で高知・黒船賞6着の後、東京スプリントで戸崎騎手が初めて騎乗した。「(テン乗りでも)ラブミーチャンが分かっていて、僕は乗せていただいているだけでしたね。レースもつくれますし」と強さを絶賛した。

ラストランとなった盛岡・クラスターカップを制覇したラブミーチャンと大井時代の勝負服姿の戸崎騎手

 2度目の騎乗となって完勝したクラスターCが、結果的にはラストランとなったが「最後になってしまったのは残念でしたが、その盛岡では(大井時代の)僕の勝負服も着させてもらえて、勝たせてもらい心に残っています」と思い出を語った。戸崎騎手は11月、金沢でのJBCスプリントでも騎乗予定だったが、ラブミーチャンは笠松での最終追い切りで右脚の「疲労骨折」が判明し、引退となった。

 ■笠松でもプリンセス特別騎乗、ラブミーファストで5着

 戸崎騎手は笠松競馬場でも1度だけ騎乗したことがあった。2011年12月に行われた2歳重賞「プリンセス特別」(地方全国交流)で、ラブミーチャン記念の前身のレースだった。当時、戸崎騎手は地方競馬の全国リーディングトップで笠松初参戦。騎乗馬は大井のラブミーファスト(牝4歳)で、もちろんオーナーは小林祥晃(Dr.コパ)さん。3300勝の内田利雄騎手をはじめ2000勝以上の名手5人が参戦。ラブミーチャンと同じサウスヴィグラス産駒のラブミーファストは2番人気だったが、中団から脚を伸ばせずに5着に終わった。

 このレースで勝ったのが笠松のタッチデュールで、後にトウホクビジンに続く「鉄の女」として全国重賞への挑戦を続けた。大原浩司騎手にジュニアクラウンに続いて重賞2勝目をプレゼントした。

 戸崎騎手がトークショーに出演するのは、地方時代も含めて笠松競馬場が初めてという。笠松初参戦の馬もコパさんの所有馬だったし、やはりラブミーチャンつながりで快諾し、ステージに立っていただけた。13年前に来場した笠松の印象については、競馬場に着いて買い物のため土手を渡ってコンビニに行ったことは覚えていて、場内の様子も思い出したという。

高田潤騎手は笠松競馬盛り上げ隊長として絶好調

 ■高田騎手も爆笑トーク、笠松競馬盛り上げ隊長

 この日のステージで「相方」を務め、口数も多かった高田潤騎手は、笠松競馬盛り上げ隊長として2度目の出演。笠松でのトークショーは和田竜二騎手と共演して以来で5年ぶり。ラブミーチャンに騎乗したことはないが「笠松の快速娘」の走りっぷりを「画面で見ていた」という。

 後半のステージでは、ファンのリクエストにも応えて「アフロ姿」で登場。笠松競馬場には「若い頃とか結構乗りに来ていますよ。勝ったことはないですが。調整ルームの管理人のおじちゃんが『耳かき職人』で、僕らJRAの騎手にも作った秀逸な耳かきをくれましたよ」と20年ぐらい前の思い出を話していた。

 「スタートが良い先行馬は乗りやすいか」という質問には、高田騎手は「逃げ、追い込み関係なしに、スタートが速い馬は乗りやすいと思う。武器になるんでね。僕の場合は、障害レースに乗ることも多く、いかにゆっくり出すかですね。スタートダッシュを決めるとスタミナが持たなくなるので、逆ですね」。一方、戸崎騎手は「ペース配分は、体に染みついた感覚とかでつくっています。ペースも大事だし、リズムも大事で両方のバランスを見ながら乗ります」と貴重な声も聞くことができた。

第2ステージ、アフロ姿の高田騎手(右)と戸崎騎手の楽しいトークに会場は爆笑の渦に包まれた

 ■思い出の馬、戸崎騎手はフリオーソとストレイトガール

 2人の思い出の馬について。戸崎騎手は「僕はフリオーソです。この馬との出会いでジョッキー人生が変わったし、つくられたかなあと。いろいろと教わりましたし、一緒に戦ってきた相棒ともいえます」

 ここで高田騎手の突っ込み。「フリオーソという馬はメチャメチャ強かったが、戸崎さんが乗っていたイメージはなかった。アレッ、戸崎さんだったんだ」

 2頭目はストレイトガール。「GⅠを三つも勝たせていただいて、この馬も乗りやすくて、思い出は強いです」と感謝。15年のヴィクトリアマイルを制覇したが、このレースは大波乱。18番人気のミナレットが大逃げで3着に踏ん張り、3連単2070万円のGⅠ歴代最高配当を呼んだ。
 
 一方、高田騎手の思い出の馬は「現役馬ではジューンベロシティ(牡6歳)ですね。(10月に東京ハイジャンプ逃げ切りV後)年末の中山大障害でも乗せてもらう予定。もう1頭はスマイルスルー。この前、重賞(京都ジャンプS)を勝った馬ですが、来年かなり活躍するのでは」と期待を込めていた。   

ファンとの撮影タイムではアイドル気分を味わった戸崎騎手(左)と高田騎手

 ■「馬に乗っている時は幸せを感じ、戻りたい場所」

 「ジョッキーになってどうですか」という質問には、プロとしての本音と男のロマンが交錯した。
 
 高田騎手は「お金を稼げますね。でも、けがが多く10カ所以上も骨折しているんで危険な仕事ですが、皆さんができないことを体験できていい職業だと」。戸崎騎手は「いい時、悪い時があり、毎週レースがあって勝負事で勝ち負けが付きますし、山あり谷ありだなあと感じています」。

 けがをしてもカムバックしようとする精神力がすごい。高田騎手は「小さい頃から憧れて馬が好きで、自分の好きなことで職業に就けてこの年まで仕事ができているのはありがたく、幸せなジョッキー人生を歩んでいるなと」。高田騎手のちょっといい話に対して、ここで戸崎騎手が「けがをしても戻ってくるのは、稼げるから」と本音?を漏らすと詰め掛けたファンは大爆笑。

 高田騎手は「JRAのリーディングジョッキーといえば、一番稼いでいる。賞金は世界一高く(JRAの賞金体系)、世界のリーディングみたいなもの」と持ち上げつつ「頂点を極めた人で、間違いなく夢がある」とプロとしての仕事のやりがいもアピール。これに対して戸崎騎手は「馬に乗っている時は幸せを感じるので、そこは戻りたい場所かなあと思っています」と馬乗りの楽しさを強調。今年も残り1カ月。「けがなく頑張っていきたいので応援よろしくお願いします」とファンに呼び掛けた。10年前、ジェンティルドンナで勝った有馬記念に騎乗する馬はまだ決まっていないとのことだ。

 最後は「じゃんけん大会」でファンに競馬グッズ(勝ち馬袋=トートバッグなど)をプレゼント。秋晴れの下、楽しいトークと奇抜なファッションで来場者を魅了。ラブミーチャンの聖地としても、笠松競馬を盛り上げていただいた。          

天国に旅立ったラブミーチャンを追悼する献花台と記帳台にはコパさんやファンらが訪れ、活躍をたたえた

 ■献花台に多くのファン、コパさんの姿も

 ラブミーチャン記念シリーズの11月15~19日、正門横のオグリキャップ像近くには、8月末に天国へと旅立ったラブミーチャンの献花台と記帳台が再び設置された。東京盃の優勝パネル前には多くのファンが訪れて手を合わせ、記帳ノートに「桜花賞のダッシュは目に焼き付いています。ハマちゃんと旧交をあたためて」「シンデレラ伝説ありがとう」などとつづられていた。

 ラブミーチャン記念のレースには、コパノリッキー産駒のラブミールイスとコパノエミリアの愛馬2頭出走させたDr.コパさん。献花台を訪れて、馬主としても成長させてくれた最愛の馬ラブミーチャンの活躍をしのんで追悼された。コパさんは「ラブミーチャンのお墓、銅像におさめる蹄鉄です。全日本2歳優駿の時の蹄鉄や交流重賞勝ちの蹄鉄をしまっておきました」と自身のX(旧ツイッター)に投稿された。やはり、笠松競馬場内にラブミーチャンの銅像を建てる意向のようだ。

「笠馬X」の番組収録に参加。SKE48の太田彩夏さん(右)は「オグリの里」もアピール

 ■笠松けいば応援番組「笠馬X」も収録

 12月からは、笠松けいば応援番組「笠馬X」(カサマックス)がスタート。アイドルグループ「SKE48」の太田彩夏さん(愛称・あやめろ)の冠番組としてレギュラー化。ラブミーチャン記念開催日の番組収録で「オグリの里」の販売ブースにも立ち寄っていただき、笠松競馬の歴史と魅力を伝える「聖地編」「新風編」の2冊を紹介していただいた。

 番組では岐阜県出身、競馬大好きアイドルのあやめろさんが笠松競馬場をもっと知って、もっと楽しみましょうと「笠松競馬◎◎1番人気」究極の競馬アイドルとして参戦。笠松ファンが「会いに行ける番組」として、開催日に収録していくという。
 
 あやめろさんは、オグリキャップ像の後ろにある絵馬掛けで、馬券的中など「何事も『馬く』いきますように」と願掛け。ラブミーチャンに献花し「安らかにお眠りください」と冥福を祈った。

 「オグリの里」コラムでは9月以降「栗毛のシンデレラ」ラブミーチャン安らかに、と追悼特集を連載しており、「笠馬X」の番組内でも、笠松競馬を救ったスターホースとしての功績やエピソードを紹介した。

浜口楠彦騎手と最強コンビで全日本2歳優駿を制覇したラブミーチャン

 ■パドックでチラチラ、ゲートでキョロキョロ

 ラブミーチャンは笠松競馬の経営がどん底の時代に「快速娘」「看板娘」と呼ばれ、先頭に立って全国の競馬場を駆け回り、笠松の名をアピールした。GⅠ級の全日本2歳優駿で優勝するなどダートグレード競走を5勝。年度代表馬に2度輝いており、地方競馬の牝馬では歴代最強馬といえる活躍を見せた。

 名前の通り愛らしく、パドック周回ではこっちをチラチラと見てくれてドキッとすることがあった。ゲートインでは好みの牡馬を探していたのか、キョロキョロすることもあり、スタートのタイミングで「真っすぐ前を見て」とハラハラしたものだ。(ネット上で取り上げられた)恋のお相手として1歳先輩で、やはり全日本2歳優駿を勝った「スーニ」という馬がいて、よく一緒に走っていた。ラブミーチャンの公式ブログには「スーニ様」として登場しており、レースでは好勝負を繰り広げたものだ。

 ■馬券予想にも参戦「笠松けいばチャンネル」やCCNで配信

 今回の収録では「ハヤヒデ」として、あやめろさんと馬券予想にも参戦。3Rと11Rのラブミーチャン記念を、3連単と馬連で勝負させてもらった。ラブミーチャン記念デーの「笠馬X」(前編)は12月1日午後8時から「YouTube笠松けいばチャンネル」で配信開始。CCNチャンネルでは同日午後11時から放送される。後編は12月16日から配信予定。トークショーに参加した、あのジョッキーが出演し笠松競馬を盛り上げてくださるようだ。前後編ともぜひ見て楽しんでください。


※「オグリの里2新風編」も好評発売中

 「1聖地編」に続く「2新風編」ではウマ娘ファンの熱狂ぶり、渡辺竜也騎手のヤングジョッキーズ・ファイナル進出、吹き荒れたライデン旋風など各時代の「新しい風」を追って、笠松競馬の歴史と魅力に迫った。オグリキャップの天皇賞・秋観戦記(1989年)などオグリ関連も満載。

 林秀行(ハヤヒデ)著、A5判カラー、206ページ、1500円。岐阜新聞社発行。笠松競馬場内・丸金食堂、ふらっと笠松(名鉄笠松駅)、ホース・ファクトリー、酒の浪漫亭、小栗孝一商店、愛馬会軽トラ市、岐阜市内・近郊の書店、岐阜新聞社出版室などで発売。

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