長良川鵜飼の鵜籠を作る職人たちの作業場が美濃市にある。かつて信用金庫だったのを美濃市役所が譲り受け、管理している建物だ。中に入ると広々としていて、リノリューム張りの床に畳のマットを敷いて職人たちが竹籠を作っている。材料となる竹は自ら近隣の竹林を手入れして収穫していて、10月から12月にかけては竹の収穫で忙しい。毎年ハチク(淡竹)を100本、マダケ(真竹)を60~80本ほど使うため、冬の作業場には新しく切った竹が山積みになる。その後、年末から春先にかけては鵜籠の製作に追われる。今シーズンは鵜匠たちから合計50個ほどの注文があったそうだ。5月の鵜飼開きまでに納品しなければならない。
籠のほとんどが金属製やプラスチック製に置き換わってしまった今、鵜籠ほど大きな竹籠の需要は全国的にもほとんどない。だから十数年前には鵜籠を作る竹細工職人は県内にただ一人となり後継者もいなかったが、私が勤務する岐阜県立森林文化アカデミーの卒業生たちが技術を学び、見事に後を継いだ。今はその鬼頭伸一さん(72)と安藤千寿香さん(38)が美濃市の作業場で鵜籠を作り、竹細工教室を開いている。その後、教室の中から3人の生徒が鵜籠作りに手を挙げ、5人体制になった。伝統技術の継承としては、稀有(けう)な好事例と言える。
しかし今、職人たちは大きな課題に直面している。作業場として賃借してきた建物が老朽化したため、美濃市は2025年度末に閉鎖したいという。10年以上にわたり家賃を安価に抑えて竹細工の活動を支援してくれたが、耐震改修するほどの予算を割けないため、市としても苦渋の決断だ。職人たちは籠作りで忙しいのに、作業場所探しにも追われることになった。
竹細工のような手仕事は、かつては製品の需要も多かったため産業として成立した。しかし現代では、文化財を支える公的な役割の方が大きい。国の重要無形民俗文化財に指定された長良川鵜飼の籠をはじめ、美濃の手漉(す)き和紙の道具、郡上本染の道具、県内外各地に伝わる祭礼の道具など、数々の注文に鬼頭さんたちのグループは応えてきた。それだけに、何とか作業場を確保してこの地域で技術を存続させたい。
私たち技の環としては、岐阜市、関市、岐阜県など関係する自治体に呼びかけて対策を話し合う会議を開こうと考えている。国の文化財保護に関わる制度の活用の可能性も探りたい。民間企業などへの協力依頼も必要だ。職人たちが安心して作業ができて、市民や観光客は岐阜が誇る伝統技術を見たり体験したりして学べる、そんな理想的な作業場ができないだろうか。
(久津輪雅 技の環代表理事、森林文化アカデミー教授)
【鵜籠の作業場】 求められる条件は、30畳ほどの広さがあり、10人ほどの竹細工教室を開けること、道具類や長さ4~5メートルの竹を200本ほど保管できること、冷暖房があり季節を問わず作業できることなど。情報提供は「技の環」か「NPO法人グリーンウッドワーク協会・竹部会」のウェブサイトからメールにて。