商品開発の会議をする(左から)小坂礼之さん、賀東楓さん、濱里彩音さん
座談会で語る伏見七夫さん(中央)=いずれも高山市内

 一位一刀彫で知られる飛騨の彫刻界がにわかに活気づいている。昨年度と本年度にそれぞれ2人ずつ、計4人の若い研修生が入ったのだ。受け入れた彫師の1人が小坂礼之(あやゆき)さん(56)。彫刻の需要が先細りする中でずっと弟子を持たずにきたが、飛騨の伝統技術を絶やしてはならないという責任感と、若手を育てても食べさせていけるかという不安とで悩み、前者が勝ったという。

 1人目の賀東楓(かとうかえで)さんは東京都出身で、昨年春から修業を始めて今年2年目だ。全国の美術大学などへの広報によって集まった34人もの候補者の中から選ばれた。当時は大学2年生だったが、中退してすぐに高山市に移住すると宣言した賀東さんの意志の強さが決め手だった。2人目の濱里彩音(あやね)さんは北海道出身で、今春から加わった。高山の彫師のもとで修業した大学の先輩がいて、自身も高山で学びたいと考えたそうだ。「まさか2人も弟子を取ることになるとは」と小坂さん自身も驚いているが、商品開発の会議を3人で始めたそうで、若手が工房に加わったことの効果を感じているという。

 きっかけをつくってくれたのは、飛騨地域地場産業振興センター専務理事の伏見七夫さん(69)だ。飛騨地域の伝統工芸に後継者が少ないのを案じて、数年前から職人たちに働きかけてきた。小坂さんが最初に手を挙げるとさっそく後継者募集事業を企画し、賀東さんの弟子入りにつなげた。高山市には伝統工芸の後継者を育てる事業所や研修生に毎月補助金を支給する制度があり、小坂さんもそれを活用しているが、伏見さんはさらに入門時の道具の購入助成制度も市に働きかけて実現した。制度を整えるとともに、後見人として自らたびたび工房へ足を運び、若い研修生たちが悩んだりのめり込みすぎたりしないよう、イベントに誘うなどの気遣いもしている。現場と行政の橋渡し役となりきめ細かくサポートする、心強い存在だ。

 地場産センターでは飛騨春慶の塗師や木地師の後継者育成にも着手しており、伏見さんは「10人ほどの若手集団を作りたいんです」と意気込む。職人と中間支援組織と行政が心を一つにして挑む後継者育成、これからが楽しみだ。

(久津輪雅 技の環代表理事、森林文化アカデミー教授)

 【後継者育成へ座談会】  技の環では3月に地場産センターの伏見さんらを招いた座談会「伝統技術の後継者を育てる仕組みづくり」を実施。技の環ウェブサイトから、座談会の様子を収録した動画などを視聴することができる。アドレスはhttps://ginowa.org/info/380

〈第3土曜日に掲載〉