新年度は大幅な黒字を見込んでいる笠松競馬。騎手にとってもファンの応援が大きな力になっている

 本年度の「赤字4億5000万円」に対して、新年度は「黒字5億7000万円」とV字回復を見込んだ。

 笠松競馬を運営する岐阜県地方競馬組合の定例議会が3月23日開かれ、総額404億1300万円の新年度一般会計当初予算案など3議案が可決された。本年度(3月末見込み)の馬券販売額は215億5700万円。一連の不祥事やコロナ禍で8開催が中止になったが、前年度に比べて25.8%減に食い止めた。

 新年度は開催日数を95日から99日に4日間増やして、通年での大幅な黒字確保に努めていく。老朽化が進んでいる厩舎の再整備では、まず「モデル厩舎」の建設に着手。レース賞金や騎手ら厩舎関係者への手当を増額。長年凍結されていた構成団体への収益配分を30年ぶりに復活させる。

 昨年9月以降の馬券販売は好調で、組合管理者の河合孝憲副知事は「再開後も笠松競馬を応援してくださるファンの皆さまのおかげ」と感謝。「今後も厩舎関係者と組合職員が一丸となって、公正確保と経営安定のため一層努力していきたい」と笠松競馬再生に改めて意欲を示した。

■10億円あった赤字額は4億5000万円に縮小


 笠松競馬は昨年、騎手・調教師による馬券の不正購入や所得税の申告漏れなどで、レース開催を8カ月間自粛。8年連続で黒字を続けていた経営状況は暗転。出走手当などの補償費や競馬場維持費が膨らみ、約10億円の赤字を抱え、9月再開時は「マイナスからのスタート」になった。
 
 再開後の馬券販売額は「1日平均約4億円」で、自粛前と同水準。インターネット販売が好調で、経費節減に努め、単年度収支の赤字幅を約4億5000万円に縮小できる見通しとなった。
 
 本年度実績などから新年度も1日約4億円、99日間で計395億4600万円の馬券収入があるとみて、1年間で5億7000万円の黒字を見込んだ。本年度赤字分を穴埋めし、再び右肩上がり、V字回復での黒字確保に努めていく。

2019年6月、競走馬が逃げ出した円城寺厩舎。放馬事故防止のため、薬師寺厩舎への集約が進められる

■薬師寺厩舎にまず「モデル厩舎」2棟

 厩舎再整備では、環境整備基金を財源に、薬師寺厩舎エリアに「モデル厩舎」2棟を建設する。厩舎再建に向けて、薬師寺厩舎で不足する土地を先行取得する。

 笠松競馬の厩舎は、競馬場から約1.5キロ北東にある円城寺厩舎と、競馬場東に隣接する薬師寺厩舎があるが、放馬事故防止が大きな課題となっている。2013年には、調教中の競走馬が競馬場外に脱走。堤防道路で乗用車と衝突し、2人が死傷する重大事故を引き起こしている。このほか円城寺厩舎と競馬場を往復する途中の放馬・衝突事故や、厩舎内からの脱走も発生。競馬場北側の堤防道路を馬が逃走すれば、衝突事故は避けられず「赤信号点滅」の状態が続いている。

 再び放馬による衝突、死亡事故などが発生すれば、国が指導してきた安全管理を怠ったとして「競馬場廃止」にもつながる重大な問題。円城寺厩舎を競馬場に近い薬師寺厩舎に集約することが懸案事項となっているが、移転問題が浮上して既に7年が経過。重大事故が再び起きてからでは遅く、環境整備基金を有効活用し、スピードアップを図って厩舎再整備を進めてもらいたい。両厩舎内には監視カメラを設置し、放馬防止と監視強化にも努めていく。

■1着賞金はC級で30万円、騎手らへの手当は7500円に増額

 レース賞金は、4月から最下級のC級で1着賞金27万円から30万円に約11%引き上げ。A級やB級でもほぼ同率でアップされる。騎手、調教師、厩務員への手当は1頭当たり6500円から7500円に増額される。新年度の賞金と手当は計1億1000万円増えて、総額18億4700万円となる。

 馬券の不正購入など「黒いカネ」の不祥事では、第三者委員会の再発防止策として、騎手らの低収入改善も求められていた。来年以降も黒字幅に応じた継続的な「賞金・手当の増額」で、レース開催の生命線である競走馬の確保と、厩舎関係者らの生活を守っていきたい。

■県と2町に計5700万円、地方財政を潤す収益配分復活

 バブル経済の崩壊とともに1992年以降凍結されていた構成団体(県と2町)への収益配分は30年ぶりに復活する。馬券の販売増で一定の経営状態を維持できる見通しが立ったためで、国の指導もあった。競馬開催の本来の目的であり、地方財政に寄与して社会貢献を果たすもので、岐阜県に4500万円、笠松町に765万円、岐南町に435万円で総額5700万円が配分される。また、競馬組合議会の議員報酬は、競馬場存廃に揺れた05年度以降は年額1000円に縮減されていたが、新年度から10000円に増額される。

 このほか、競馬場用地の借地料問題はようやく決着した。2013年以降、好調な馬券の販売実績に連動する形で地代は高騰し、経営を圧迫していた。
  
 17年度には坪単価6382円と13年度の10倍にはね上がり、借地料は約4億3000万円と約8倍に膨らんだ。このため、18年7月に競馬組合では、賃料の坪単価を減額し「上限5000円」にすることを設定。その後、同意を得ていなかった残る地権者1人の法定相続人からも今月、合意書の提出があったという。競馬組合では「地権者との合意が全て整った」と報告した。
           

オグリキャップ孫娘レディアイコの返し馬と、外ラチ沿いを進む各馬。ファンとの距離が近いことも笠松競馬場の大きな魅力だ

■アンカツさん予想会などファンサービス充実

 荒波と逆風続きだった笠松競馬だが、組合組織は刷新され、一連の不祥事やコロナ禍を乗り越えて、明るさを取り戻しつつある。本年度を振り返って平井克昭管理者代行は「競馬関係者の皆さまの努力によって『よくぞここまで来たな』と感慨無量でもあります。公正確保の継続が大事なので、引き続き職員、厩舎関係者が一丸となって取り組むとともに、ファンの皆さまに笠松競馬を応援していただけるようなファンサービスを充実させて盛り上げていきたい」と意欲を示した。

 具体的なファンサービスについては、特別観覧席で昨秋開始した「Wi-Fi」(無線LAN)の接続サービスのエリアを広げたり、ネットを通じたプレゼント企画を引き続き実施していく。

 アンカツさんの競馬予想会のネット配信は、これまで年1回(笠松グランプリ)行われ、レースを盛り上げてきた。新年度からは番組の回数を増やして、アンカツさんだけでなく他のゲストにも出演してもらう予定という。ファンが期待している「ウマ娘」とのコラボ企画についても計画を進めているそうだ。

■オグリキャップ、3月27日が誕生日

 笠松競馬育ちの永遠のヒーロー・オグリキャップは3月27日が誕生日。1985年生まれで、天国に旅立って12年近くになるが、生きる勇気と元気を与えてくれた力強い走りはファンの心の中で生き続けている。初産駒の長男・オグリワンは長野県佐久市の牧場で余生を過ごしており、2月に30歳になって健在だ。

 弥富に移転した新名古屋競馬でのレースは4月8日にスタートする。開場記念イベントとして、アンカツさんとウマ娘オグリキャップ役の声優・高柳知葉さんとのトークショーもあるが、ファンの間では「笠松でやるのが先でしょう」「笠松が弥富に移転するかのようだ」と驚きの声も多かった。

オグリキャップ記念でのトークショーで、ファンを楽しませるアンカツさん=2018年4月

 これについては確かに違和感がある。笠松育ちの名馬・名手が、名古屋の「支配下」になったような感じもして、かつてのご当地ベストセラー「岐阜は名古屋の植民地!?」のタイトルが頭に浮かんできた。岐阜市の地域史研究家・松尾一さんの著作で、名古屋の影響を受ける岐阜を風刺したエッセー集だ。オグリキャップは名古屋競馬場でも1回だけ走っているが、名古屋競馬オリジナルの名馬、名手で盛り上げた方が開場イベントにふさわしいのでは。

 名古屋競馬のレジェンドなら、リーディング10回の吉田稔さんに来てほしかった。「どんこ競馬」の閉場日にも来場されており、名古屋競馬への愛着は深く、騎手時代には応援するファンも多かった。

■「アンカツさん&ウマ娘」コラボ企画は笠松が本番

 笠松競馬場には聖地巡礼で訪れる若いファンも増えている。アンカツさんとウマ娘とのコラボ企画は、名古屋に先を越されるが、やっぱり笠松が「本番」として行うべきイベントだ。オグリキャップ記念の開催日にやるのがベスト(今年は4月28日)だが、笠松グランプリやお盆開催時でもいい。笠松競馬場を舞台にして始まった大ヒット漫画「シンデレラグレイ」にも登場する特設ステージでは、アンカツさんの「爆笑ぶっちゃけトーク」が楽しみだ。
 
 昨年1月には「シンデレラグレイ」の単行本第1巻発売を記念した協賛レースが企画されていたが、不祥事による開催自粛で当日お流れになってしまった。連載漫画では、有馬記念でのオグリキャップとタマモクロスの芦毛対決がクライマックスを迎えたが、長期連載となって、いつかは笠松への里帰りシーンも期待されている。若者らファン層を広げるチャンスでもあり、オグリキャップの聖地としては、早めにコラボ企画をやってほしいところだ。

武豊騎手の騎乗で、ラストランの有馬記念を制覇したオグリキャップ(競馬ブック提供)

■武豊騎手「オグリはファンにとって『宝物のような馬』だった」

 NHKの深夜番組では「ウマ娘×競馬SP」も放送されたが、ここでもやはりオグリキャップが主役で、笠松競馬場でのレースも放送された。武豊騎手がオンラインで出演。オグリコールが鳴り響いたラストランでは、ゲートイン前に「君はオグリキャップだろ」と軽く首筋辺りをトントンとやって気合を入れ、3コーナーを回って勝利を確信したそうだ。オグリ役・高柳さんとのトークも興味深く、武豊騎手は「オグリは当時のファンにとって『宝物のような馬』だった。そんな思いを感じて演じていただければ」とアドバイス。「まさか、オグリキャップさんとしゃべれるなんて」と照れ笑いも浮かべていた。笠松でも「アンカツ&ウマ娘」のトークショーが実現したら、アンカツさんはオグリ役たちへの演技指導では、どうアドバイスするだろうか。

■JRAの新CMで「時代をも変えたヒーロー」

 JRA今年の新CM「HERO IS COMING.」では、オグリキャップが「切ないほどのひたむきな走りで、時代をも変えたヒーロー」として登場。ウオッカ、サイレンススズカ、ロードカナロア、ステイゴールド、ディープインパクトとともに懐かしいゴールシーン。CMショートバージョンでも「競馬を、時代さえも変えた」とオグリキャップがラストを飾っており、日本競馬界最高のヒーローとして今なお輝きを放ち続けている。

 3月15日に53歳の誕生日を迎えた武豊騎手。雑誌のインタビューでも「乗りやすかった馬は、断然オグリキャップです。1600メートルでも2500メートルでも、ポンとスタートを切っていいポジションでジッとできて、追えばシュッと伸びてくれました。止めるのも簡単で、ウイニングランでは池江敏郎厩務員を見つけてピタッと止まる。あんな賢い馬はいませんでした」(スポーツ雑誌「Number」)と、オグリの素晴らしさをたたえていた。岐阜の田舎育ちの野武士が、中央馬をバッタバッタと倒して天下を取ったサクセスストーリー。スーパーホースの賢さは、天才ジョッキーをも魅了したのだった。

所属する寺島良厩舎のブラビオに騎乗。17戦目で初勝利を飾り、スマイル全開の今村聖奈騎手(競馬ブック提供)

■今村聖奈騎手(寺島良厩舎所属)好発進、デビュー3週で3勝

 JRAで4人目となる現役女性ジョッキーの今村聖奈騎手(寺島良厩舎所属)が3月13日、デビュー17戦目で初勝利を飾った。5番人気、自厩舎のブラビオ(牡4歳)で鮮やかな差し切り勝ち。12Rでは、岐阜金賞馬で笠松からJRAに移籍したダルマワンサ(吉田勝利オーナー所有馬)に騎乗。中央2戦目は13着に終わったが、今村騎手には吉田オーナーの馬でいつか勝利を飾ってほしい。

 師匠の寺島良調教師(岐阜県北方町出身)は、今村騎手の初勝利について「上手に乗ったと思います。先行してただ4キロ減を生かしたというレースではないので、価値ある勝利。自信が持てると思う」と好騎乗をたたえた。
 
 元JRA騎手の細江純子さんは、動画サイトで今村騎手について「競馬学校での模擬レースで騎乗技術がずば抜けていた。トレセンでも『乗れる子だねえ』と評価が高く、皆さんが驚くくらい活躍すると思います」とデビュー前から絶賛。それに応えるかのように今村騎手は19、21日にも勝利を積み重ね、デビュー3週で早くも3勝目を飾った。

 明るい性格で、いつも笑顔が印象的。21日の中京競馬場では、2Rでサザンステート(牡3歳)に騎乗し、好位から先頭に立ち、押し切り勝ち。前日12Rでは、スタート直後に落馬してヒヤリとしたが、一晩寝て次のレースで勝っちゃうとは、ハートもすごい。「馬の力が強かったです。手応えも良かったですし、厩舎の方にいい状態を維持していただきました」と1番人気でファンの期待に応えた。

■クロスマジェスティ、桜花賞挑戦へ

 吉田勝利オーナーの持ち馬(共同馬主)であるクロスマジェスティ(牝3歳、水野貴広厩舎)は、まさかの快進撃。アネモネSを8番人気で勝ち、桜花賞(4月10日・阪神)への優先出走権を獲得した。クラシック登録を行っていなかったため、200万円の追加登録料(通常登録なら40万円)を払って、桜花賞へ向かうことになった。引き続き、武藤雅騎手が騎乗する。

 1988年、重賞3連勝中だったオグリキャップはクラシック登録がなかったため、日本ダービーなどに出走できなかったことで、JRAはファンから大きな批判を浴びた。このため生まれた制度が「クラシック追加登録」で、ここでもオグリが日本競馬の歴史を動かしていたのだ。
       

自厩舎のサンキューサンクスで地方競馬通算400勝を達成した渡辺竜也騎手と関係者(笠松競馬提供)

■渡辺竜也騎手が通算400勝を達成

 笠松競馬は25日、本年度最後の開催となるスプリングシリーズがスタート。騎手たちは、クリーンでフェアプレーにあふれた騎乗ぶりで、ファンを魅了。コロナ禍が直撃した笠松競馬だったが、全国から8人の有志が期間限定騎乗の助っ人として、騎手不足の笠松をサポートしてくれた。残るは田中洸多騎手(大井)ただ一人になってしまったが、前開催の病欠から復帰して元気いっぱい、好騎乗を見せている。

 変則日程で28日からは31日までの4日間。4月は6、7日に開催される。重賞競走は7日の新緑賞(SPⅡ、1600メートル)。弥富に移転した名古屋競馬場での東海ダービー挑戦も視野に入れて、3歳馬たちが熱戦を繰り広げる。
 
 年度末初日(25日)は珍しく金曜日。若手エースの渡辺竜也騎手が4勝を量産し、22勝で一気にリーディングトップに躍り出た。5Rでは自厩舎のサンキューサンクスで地方競馬通算400勝を達成。「レースが終わって、先生に声を掛けられて知りました。区切りの勝利と分かっていたらもうちょっとカッコイイ姿勢でゴールしたのに。笠松リーディングと通算500勝達成が今年の目標です」と喜びのコメント。リーディング上位の岡部誠騎手が2勝、松本剛志騎手も2勝とゴールをにぎわせ、ともに21勝とハイレベルな戦い。

 この日は笠松と船橋(ナイター)の2場開催で、笠松の馬券は5億4000万円とよく売れた。スタンドやネット越しから応援するファンの信頼を徐々に回復。ガチンコ勝負の追い比べで、差しも決まる迫力あるレースが多くなった。新たな不祥事さえ起こさなければ、赤字転落からのV字回復は十分に可能だ。