特定市場において圧倒的な競争優位性を持つニッチ企業。県内にもあらゆるジャンルのニッチ企業が存在し、他の追随を許さないキラリと光る高い技術で確固たる地位を築いている。シリーズ「岐阜の輝くニッチトップに迫る」では、ニッチ企業のこれまで、そしてこれからを紹介する。初回はエッグファームオートメーション(EFA・養鶏用オートメーション機器)で国内トップシェアを誇り、アジア市場でも上昇気流に乗るハイテム(各務原市)を取り上げる。

EFA確立へ 欧米と提携、そして自立へ

 ハイテムの創業者、安田勝彦社長が起業した当時は、小規模の養鶏場が減少し、一部の農場の大型化によるエッグファーム化がどんどん進んでいった時期に重なる。大型化に伴い自動化が必須となり、ハイテムは飛躍のチャンスを迎えることになった。

毎日百数十万個の新鮮鶏卵を生産する新鋭エッグファーム
新鋭農場で活躍するハイテムエッグファームオートメーション

 ただ、当時のハイテムは自動車などと同じように欧米でスタートしたエッグファームオートメーション(EFA・養鶏用オートメーション機器)の技術を確立していなかったため3つの大きな困難にぶつかった。

 まず1つ目は、EFAを確立させるために欧米の会社との提携の道を選んだこと。米国の会社との提携を進めた後、鶏糞の処理等環境に配慮したシステムへの移行に伴い、欧州の会社と提携した。

 ただ、欧州では卵を洗わないため、卵の表面にある被膜の働きでヒビが入りにくい。一方、日本では米国と同じく卵を洗うため、被膜が失われヒビが入りやすくなる。欧州のシステム導入に伴い、このヒビ問題の解決が大きな課題になった。安田社長は、創業15年目で財務基盤が脆弱であった中、約1億円を投資し、業界でも初めての機械試験鶏舎を建設してこの問題を解決、ハイテムが同業他社に一頭地を抜く契機となった。

機械試験鶏舎「エッグハウス21」

 2つ目の大きな難関は、地震のない欧州で開発されたシステムが、新潟県柏崎市などで最大震度6強を観測した2007年7月の中越沖地震の被害を受けて、3億円を上回る大型設備が完成した直後倒壊した事態である。この困難には、岐阜大学との産学共同研究を直に開始、免耐震の特許システムを開発、その後の東日本大震災、熊本地震、胆振地震で性能を実証した。

地震により倒壊した内部設備 発生時刻が休憩時間の10時13分で作業者の死亡事故を免れた

 そして3つ目の難関は、耐震構造に関する見解の相違他から欧州の会社との提携を終了したこと。それまで製造については欧州の会社にアウトソーシングしていた体制から、自社製造体制に転換することに。そこで目を付けたのが中国・天津だ。世界人口の6割を占めるアジア市場を見据え、中部国際空港から3時間台という近さ、さらに天津はトヨタ自動車の中国主力生産拠点であり、鋼板調達等の工業インフラに恵まれている点が決め手となった。ものづくりに直接携わるのは安田社長にとって初めての経験であり、工場用地、設備選定、現地人材整備など現場重視で、自ら足で稼いで08年の操業開始に奔走した。

 天津工場について安田社長は「トヨタのカイゼン発想を取り入れることにした。小学校の頃から親しかった岐阜車体の故星野鉃夫会長と、その縁でカイゼン指導を受けた榎本ビーエーの榎本行雄相談役は工場立上げの恩人であり、難関突破は人の縁と運に支えられていた」と話す。

カイゼンを軸に稼働を続ける自社天津工場 2027年敷地2万㎡の国家級工場用地に移転予定

 また、「89歳になった今でも晩酌を楽しみにしているが、資金繰りが苦しかったこれらの時期は、一年間の禁酒をして乗り切った」と振り返る。

 こうして立ち上げた天津の自社工場では製造に専念し、研究開発、全ての製造図面・製造指示書の作成、品質管理は本社で進めている。このため、本社に製造設備はないものの、正式名称は「本社工場」としている。

 エッグファームには防疫管理上立ち入ることができないため、本社にはハイテムエッグファームオートメーションの主な設備の稼働状況の詳細が確認できる稼働展示センターが備えられており、導入予定の国内外の鶏卵生産者が訪れている。

ハイテム稼働展示センター

アジアのEFAリーダーを目指す体制づくり

 ハイテムは、日本国内と天津工場のある中国では生産者への直売体制を展開し、韓国、台湾、タイなど、アジア諸国では、各国総代理店とのパートナー方式(現在10社)で営業展開を進めている。

上海郊外に納入された日産百万個のハイテムエッグファームオートメーション

 営業方針は、50年以上にわたるEFAの技術蓄積と実績を背景に、「養鶏第2の利益」(設備導入後20年以上にわたる破卵率、電気代、飼料代などのランニングコスト差が1羽当たりの初期投資額を上回る可能性)を基礎とした技術重視の提案を軸に展開している。

 日本市場の現在のシェアはおよそ6割。より高いシェアを確立するとともに、市場規模が日本の約20倍に及ぶアジア市場では、先進生産者を中心にシェア1割の獲得を目指している。アジア市場での1割のシェアは日本市場の約2倍に相当し、将来的には売り上げの半分以上をアジア市場が占める見通しを視野に入れている。この実現に向け、来年にはアジアの最西端にあるサウジアラビアの大手農場への納入が決まっている。

サウジアラビアハイテム総代理店契約式典(右から二人目は農業大臣)

 目指すはEFA技術レベル アジアのトップ。アジア市場を強化することで、日本国内の少子化の影響を受けない、安定したEFA事業の展開を図る戦略を描いている。

永続企業を目指す

 今後、これらを担っていくのは各務原の本社及び工場(天津)で汗を流す社員にほかならない。 そこで新卒採用を中心とした次世代育成に力を入れ、「燃える技術集団」の社風を大切にした永続企業を目指している。このため、創業家からの定員を男女各1名に限定して社員と創業家とのシナジーを期待。採用活動を経て入社した社員一人一人の活躍を重視している。

 安田社長はこれまでを振り返って「私は元岐阜県商工会議所連合会頭 安田梅吉の長男で、祖父は大日本土木創立に加わった安田組創業者の初代安田梅吉。建設業からニッチトップのEFAに転進した縁と運に感謝し、今後も社会に貢献していきたい」としている。

安田家三~五代目。安田社長右側が長男幸太郎(専務取締役)、後列右側が孫の紘貴、左側が次男の大二郎

トピック① 給餌から集糞まで全てを自動化したハイテムのEFA

 ハイテムのEFAは、給餌(きゅうじ)、給水、集卵、集糞、空調が自動化されていると同時に、主要データがリアルタイムでコンピューター化され、背景には100余件の特許(多くは国際特許)がある。

 ハイテムEFAの最新設備を導入した農場では、たった一人のスタッフで、一日10万個のクリーンで安全安心な卵を生産することができる。

本社技術スタッフ

トピック② 仕事は厳しく楽しく

 ハイテムの行動規範は「厳しく楽しく」。ハイテムでは少数精鋭、ハードワーキングを通じて顧客から理解を得られる誇れる給与を目指している。

 創業以来、2回の赤字決算(バブル後に卵の業務需要が落ち込み、鶏舎投資が半減した時の3年間と自社製造体制に切り替えた時の2年間)を乗り越え、無借金且つ経営目標 1人当り経常利益1千万円以上(直近 2025年9月決算 売上高61億円 経常利益7億円)を達成しているが、最初の赤字期間に安田社長が京セラ創業者の故稲盛和夫氏の経営哲学に出会ったことで、困難を乗り越える勇気と前向きな発想の大切さを学んだという。特にハイテムの経営七カ条の第一条「巌をも貫く強い意志と思い、打つ手は無限」は、ハイテム経営のバックボーンになっている。

ハイテムの経営七カ条
①巌をも貫く強い意思と思い 打つ手は無限
②誰にも負けない努力 因果同人
③公明正大 勇気をもって事にあたれ
④昨日より今日、今日より明日 継続は力なり
⑤計数に強くなれ 常識の呪縛を解き放て
⑥至誠 利己と利他
⑦ピンチこそチャンス 常に明るく前向きに

トピック③ 東大にハイテム基金設立

 安田社長は負けず嫌いで日本一指向だったことから大学は迷わず東京大学へ。法学部出身で、全く未知の分野での創業だったこともあり多くの困難に見舞われた。そんな中で「東大出身者の話なら聞こう」と交渉の扉が開かれたことが何度もあったことから今年、感謝の気持ちを込めて東京大学に1億円を寄付して「ハイテム基金」を設立。技術面で一定予算内での永続的なサポートを受ける体制を構築した。当面は鶏糞の高品質有機肥料化(農学部)、AI画像認識による斃死(へいし)鶏発見システム(工学部)に対してサポートを受ける。

東京大学ディベロップメントオフィスの関係者からハイテム基金について説明を受ける安田社長ら
2025年4月 毎年工場代表者数名が参加して開催される全社会議の際
株式会社ハイテム 
創立1972年
代表取締役社長 安田勝彦氏
本社/〒509-0109 各務原市テクノプラザ2-10
TEL.058-385-0505(代)

 自然健康食品の卵生産を支えるエッグファームオートメーション(EFA・養鶏用オートメーション機器)の分野で、国内約60%のシェアを誇る。岐阜市出身の安田勝彦社長が、三菱油化(現:三菱ケミカル)に10年間勤務した後、日本の採卵用素ヒナの生産販売最大手のゲン・コーポレーション創業者 所秀雄氏(垂井町出身)の依頼を受けて1972年に東洋システムを創立してEFAの開発に注力。

 2008年、テクノプラザに新本社完成を期に「ハイテム」へ社名変更。同年には中国・天津に自社工場体制を構築。アジア市場に向けて積極展開していく上での重要な拠点になっている。16年には経済産業省の「はばたく中小企業300社」ものづくり わざ部門を、20年には同じく経済産業省の地域未来牽引企業認証を受けるなど、ニッチトップとしての地位を築いている。

REPORT PRESENTED BY HYTEM