200人の大観衆の中で、高さ2メートル、直径2・3メートルの巨大な木桶(おけ)が組み立てられていく。場所は香川県・小豆島の醤油(しょうゆ)蔵の作業場。職人集団とともに作業に加わるのは、岐阜市の山川醸造の山川華奈子さん。この桶の注文主だ。そして作業を見つめる観衆の中に瑞浪市の中島醸造の中島修生(のぶお)さんがいた。
中島さんから技の環に相談があったのは昨年11月のことだった。小左衛門の銘柄で知られる創業324年の酒蔵は、50年ほど前まで仕込みに木桶を使っていたがその後管理のしやすいステンレスタンクに変えた。しかし、もう一度伝統の木桶を復活させたいという。そこで技の環では木桶でたまり醤油を作る山川醸造を紹介し、華奈子さんと父の晃生さんに蔵を案内してもらった。華奈子さんは三人姉妹の次女で、この蔵元の若き4代目。実は岐阜県内の酒蔵と木桶仕込みで連携したかったのだという。「かつては新桶を酒蔵が使い、それを醤油蔵が譲り受け、さらに味噌(みそ)蔵に譲り、数十年から百年以上も使われていたんです」。そして2月に小豆島で山川醸造の新しい桶を作るので来ませんか、と誘われたのだ。
小豆島では2012年から「木桶職人復活プロジェクト」として全国の木桶仕込みの蔵元の新桶を作っている。木桶を作れる桶屋が全国で1軒だけになり技術が途絶える恐れがあったことから、島の醤油蔵が自ら技術を受け継いだ。そして技術を囲い込むのではなくみんなで共有し、国内流通量1%しかない木桶仕込み醤油の流通量を2%に増やすことを目標に掲げる。木桶にはさまざまな微生物が棲(す)み着き、独特のうま味を醸し出す。その日本の発酵文化を未来へつなげたいとの思いからだ。華奈子さんはこの思いに共感して7年前からプロジェクトに参加し、新桶の注文は今回が2本目になる。
桶が組み上げられる3日間、会場では「木桶サミット」として桶の材料を生産する奈良県・吉野の製材会社や、世界中から集まった木桶醤油を愛する料理人によるトークイベントなども開かれた。川上から川下まで、木桶を通じて人の輪が広がっていく。
その輪の中に、岐阜市で味噌やたまり醤油を作る「芋慶」の木方(きほう)庸一朗さんの姿もあった。明治から続く老舗で、戦争で一帯が焼けた後には当主が木桶をかき集めて操業再開にこぎ着けたという。木方さんは今年で4回目の参加で「自分自身の覚悟を確かめ直す場所です」と言う。山川華奈子さんは底板に「100年先までたまりの文化を」と書いた。初参加の中島修生さんは大きな刺激を受け、「いつか岐阜県の杉で木桶を作り、酒を仕込みたい」と意気込む。小豆島で顔をそろえた酒蔵、醤油蔵、味噌蔵の岐阜県トリオが見る将来の夢。その実現に技の環も協力していきたい。
(久津輪雅 技の環代表理事、森林文化アカデミー教授)
〈第3土曜日に掲載〉
【山川醸造の新桶】 完成後、小豆島から岐阜市の蔵に運ばれ、きょう2月21日から醤油の仕込みが始まる。仕上がるのは2年後の予定。5月16、17日には「たまりや蔵開放」が行われ、新桶も見学することができる。













