茅場でカリヤスを指さす白川村教育委員会の尾崎達也さん
(左から)カリヤス、ススキ、オギ。カリヤスとススキは屋根葺き、オギはオダレという雪囲いの材料として使われる=いずれも大野郡白川村

 現地に案内されて「こんな急傾斜地に?」と驚いてしまった。今年3月、文化庁が文化財建造物の保存に必要な資材を供給する「ふるさと文化財の森」に設定した、大野郡白川村にある茅葺(かやぶ)き屋根の材料カリヤスを育てる茅場だ。「白川郷ではもともと限られた平地は穀物の生産に利用してきたので、伝統的に山の急傾斜地が茅場でした。それにカリヤスは標高が高く水はけのよい土地を好むので、これが適地なのです」。解説してくれたのは白川村教育委員会の尾崎達也さん(49)。尾崎さんは荻町合掌造り集落で生まれ育ち、地元住民と自治体職員という二つの立場から文化財の維持保全に関わってきた。

 荻町集落が国の伝統的建造物群保存地区に指定されて今年で50年になる。地区内の茅葺き屋根の家屋数は114棟にのぼり、毎年5棟ほどを葺き替えてきた。実はこの半世紀ほど、材料の大半は地元産ではなく、遠く富士山麓の静岡県御殿場市からススキを購入して賄ってきた。

 しかし御殿場市でも茅刈り職人が減り必要な量が調達できなくなってきたため、最近は葺き替えが2、3棟にとどまっている。また、ススキもカリヤスも同じイネ科のよく似た植物だが、白川郷の茅葺き材料は本来はカリヤスであり、文化財としての「真正性」を保つべきとの意見もあると尾崎さんは説明する。「御殿場のススキは成長が良く、高さが2メートル以上にもなります。茅葺き材料としては長すぎるため、強度のある根元の茎の部分を切らなければいけない。その点カリヤスはやや短く茎の密度も高いため、豪雪の重みに耐えてくれます」

 村では2年前から冒頭のカリヤス茅場2・1ヘクタールのほか、ススキ茅場3・6ヘクタールを確保して茅の自給に取り組み始めている。イギリスから約2千万円かけて茅刈機も導入した。茅場と設備の次は人だ。かつて茅の調達や葺き替えは「頼母子講(たのもしこう)」と呼ばれる融通の仕組みや「結(ゆい)」と呼ばれる共同作業で行ってきたが、人口減少に直面してからは、外部から関心ある人を集める努力もするようになった。しかし外から継続的に関わってもらうにも限界があり、いずれは村人有志が生業(なりわい)として茅の生産や葺き替えを行っていけるような新しい仕組みづくりが必要だ。ふるさと文化財の森に設定されたことで一部の経費には国の補助が出るようになるし、村でも白川郷の観光収入を財源に回す仕組みを作れるかもしれない。

 大変な苦労が続くが、心強く感じたのは案内してくれた尾崎さんが明るかったことだ。若い頃は何もない故郷に引け目を感じてきたが、40歳を超えて誇りに思えるようになり、屋根の葺き替えや雪下ろしも楽しめるようになったのだという。地元の人たちが明るい希望を持って文化財を伝えていけるよう、私たちも側面から支援をしていきたい。

(久津輪雅 技の環代表理事、森林文化アカデミー教授)

〈第3土曜日に掲載〉

 【茅とは】 1種類の植物を指すのではなく、細長く背の高いイネ科やカヤツリグサ科の植物の総称。「ふるさと文化財の森」は、茅のほか、木材、檜皮(ひわだ)、漆、い草などを供給する森林が全国で99カ所設定されている。