民間の教室で日本語を学ぶフィリピン人の姉妹。まだ学校には通えていない=6日午前、岐阜市橋本町、ハートフルスクエアーG
可児市外から教室へ通い日本語を学ぶフィリピン人の子どもたち。近く地元の中学校へ通う=5日午前、同市下恵土、市多文化共生センターフレビア

 「あの子たちは学校へ行っているのでしょうか」。岐阜新聞の「あなた発!トクダネ取材班」に、読者から疑問の声が寄せられた。「あの子たち」とは、岐阜市のJR岐阜駅周辺で平日昼間に見かける、外国人とおぼしき中学生ぐらいの子どもたち。現場をたどると、子どもたちは親たちの都合でフィリピンなどから岐阜にやってきて、ボランティアの教室で日本語を学んでいた。親が子の就学を希望しても言葉の壁や手続きの煩雑さに直面し、「不就学」になって民間の教室にたどり着く子どもが一定数いる実態があった。

 「あの子たち」は駅のベンチで昼食を取っていた。まだたどたどしい日本語に英語などの母国語を織り交ぜ、会話を弾ませる。集団には日本人の姿があった。日本語講師のボランティアだ。駅に隣接する市の生涯学習拠点施設ハートフルスクエアーGで開く日本語教室「鮎の会」が、子どもたちの居場所だった。

 外国人住民が9522人(6月時点)と県内最多の岐阜市には、国際交流協会や民間の日本語教室が五つあり、鮎の会には約60人が通う。4年ほど前から義務教育年齢の子どもが来るようになり、今年は10人が1~5カ月間受講した。多くは学校へ入ったが、うち3人は途中で来なくなった。県多文化共生推進員で会の藤田いづみ代表は「まだ岐阜に住んでいるとしたら」と案じつつ「教室は学校ではない。長くいてはいけない」と強調する。保護者が手続きを敬遠し、受講期間が2年に及んだ子どももいた。

手続き煩雑、学校への入学手続き進まず

 市教育委員会に聞くと、外国人が子どもを学校に通わせたいと望んだ場合、市教委が窓口で就学願を受け取り、在留カードを確かめ、子どもに検診を受けてもらうなどの手続きを経て、順調にいけば数週間で入学できるという。ただ、繰り返し窓口に来る必要から「手続きが途中のままになっていて、調べてみたら市内にもういなかったというケースもある」と明かす。外国籍児童生徒等対応指導員として通訳が7人いるが、要望する小中学校44校の巡回がメインで、窓口には常駐していない。

 文部科学省が今年初めて行った、外国籍の子どもの就学状況に関する全国調査では、国内に住む義務教育年齢の12万4049人のうち約16%に当たる1万9654人が、国公私立校や外国人学校などに通っていない可能性があるとした。県内には17人いるほか、就学状況が確認できなかった子どもが225人に上った。

 藤田代表は「時間がかかってもこの子たちが学校へ通える仕組みをつくる、その一歩を踏み出す時期に来ているのでは」と訴える。

「一人もこぼれ落ちないように」 不就学ゼロ目指す可児市

 「不就学ゼロ」を掲げ、学びの場を整備してきたのが、外国人住民が約7900人と県内2番目に多く、児童生徒が617人(昨年5月時点)で県内最多の可児市だ。NPO法人可児市国際交流協会は、未就園児や公立学校に通う子ども、中卒認定で高校進学を希望する若者など個々に応じた教室を設け、行政と連携し「国籍を問わず、一人もこぼれ落ちないようにする」との思いを形にしている。

 学習拠点の一つで、生活相談窓口などを兼ねる市多文化共生センターフレビア(可児市下恵土)を訪れた。市の指定管理で協会が運営し、昨年度は計336人のブラジルなどの子どもらが通った。「あやとり、いすとり、あいうえお」-。フィリピン人の中学生が五十音の歌を読み上げていた。

 県内最大規模の工業団地がある同市では、1990年の改正入管難民法施行に伴ってブラジル人住民が増え始め、ごみの分別、騒音などの生活トラブルが顕在化した。その解消や外国人と地域住民との共生を図ろうと2000年に発足したのが協会だった。運営を市民が担い、行政との連携による全戸訪問調査を経て、中学校を中退したままになっているといった不就学児の実態が分かり、調査結果を市へ提言した。05年、行政と民間とが一体になり、外国人の子どもへの教育保障を模索し始める。協会の各務眞弓事務局長は「行政の外にも拠点を設けたことが結果として市民の自発的な活動を促し、支援の推進力になった」と振り返る。

 フレビアには義務教育年齢を対象にした教室だけでも8種あり、日本語の基礎強化や高校進学に向けた初期指導など多様。近年は市外の子どもも受け入れており、居住する自治体の教育委員会と連携し、フレビアの教室に通っていても地元の公立学校での出席扱いにするといった柔軟な対応を取る。3カ月から半年ほど学んだ後、子どもたちは地元の学校に入っていく。

 同市の外国人住民数は今年、過去最多を更新した。2000年代に入ってフィリピン人が増え始め、現在はブラジル人よりも多くなるなど、まちの国際色は変化している。家族の帯同が部分的に認められる新たな在留資格「特定技能」が4月に始まり、今後は集住市以外でも外国籍の子どもが増えていく可能性がある。各務事務局長は「国際交流協会や民間通訳など外部に行政が協力を求め、支援者を育てていく視点が必要ではないか」と指摘する。

 文部科学省の学校基本調査によると、昨年度時点で県内では外国籍の小学生が1820人、中学生が807人に上り、児童生徒数は14年度からの5年間で約3割増えている。外国人の相談に応じる県国際交流センター(岐阜市柳ケ瀬通)は10月から、県内各地の教室に日本語教育の有識者を派遣し「人手不足で個別指導ができない」「日本語能力試験対策の指導者がいない」といった悩みに向き合う。有志で支えられてきたことによる地域差を解消したい考えで、担当者は「個々の困り事を取りこぼさず、支えていきたい」と語る。

   ◇

 岐阜新聞は、暮らしの疑問や地域の困り事から行政・企業の不正告発まで、情報提供や要望に応え、調査報道で課題解決を目指す「あなた発!トクダネ取材班」を創設しました。あなたの知りたいこと、困っていることについて、ご要望や情報をお寄せください。LINEの友だち登録で取材班と直接やりとりもできます。