笠松競馬は9月8日からの再開が正式に発表されたが、コロナ禍の追い打ちで無観客開催となる。岐阜県も緊急事態宣言の対象地域に追加されたからだ。レース観戦を楽しみにしていたオールドファンらの来場、新たな「ウマ娘」ファンの聖地巡礼はお預けになった。

ビップレイジングで東海ダービーを制覇。表彰式で喜びの藤原幹生騎手

 レース再開を前に、9人になってしまった笠松競馬所属騎手を、前回に続いて紹介する(★は再開後の注目ポイント)。

 ■藤原幹生騎手、ダービージョッキーの輝き(1000勝達成まであと6勝)

 「サムライドライブを差し切れて、いい気分」。藤原幹生騎手(後藤正義厩舎)は、静岡県出身の40歳。デビューしてもう20年で、愛称は「ミッキー」。3年前の東海ダービーを4番人気・ビップレイジングで制覇。10連勝中だったサムライドライブに土をつけた。「末脚を生かそうと外へ出したら、伸びてくれた」とダービージョッキーの座を射止め、表彰式では瞳もキラキラ。地方通算994勝で、大台となる1000勝達成にも迫っている。

 2015年には北海道・門別で武者修行。期間限定騎乗で23勝を挙げた。重賞Vはクイーンカップ(ヘイハチハピネス)、新緑賞、東海ダービー(ビップレイジング)、湾岸ニュースターカップ(ブライアンビクター)で計4勝。調教から「馬との会話」を大切にして勝利につなげている。

 ★単勝1.0倍のサムライドライブを豪快に差し切った東海ダービーは、ゴール前で見ていて痛快だった。「やったぞ、笠松」と叫ぶことができたし、「オグリの里十大ニュース」の1位にも選んだ。厩舎移籍が3度。向上心が強く、いろいろなタイプの馬に乗ることで騎乗技術を磨き続けており、ビッグレースでまた大仕事をやってくれそうだ。来年は100勝以上はもちろん、笠松リーディングの座も視野に入ってくる。
 
【熱視線】
 現役では唯一の東海ダービー覇者。豪腕、豪快な騎乗を見せてくれる。またぜひダービーを勝ち、笠松競馬の存在をアピールしてほしい。表彰式やセレモニーでのインタビューでは、必ず「はい」と言ってから質問に答えるという丁寧ぶりで好感が持てる。

期間限定騎乗の歓迎セレモニーで笑顔の松本剛志騎手。兵庫から笠松へ移籍した(笠松競馬提供)

 ■松本剛志騎手、笠松好きの「リピーター」(兵庫から完全移籍し活躍)

 「けがから戻れた」。松本剛志騎手(加藤幸保厩舎)は京都府出身の42歳。好きな騎乗法は追い込み・差しで地方通算374勝。兵庫競馬所属だったが、騎乗機会を増やそうと各地を渡り歩くジョッキー生活を続けてきた。笠松では、半年間の期間限定騎乗を2度。16年に21勝、17年には34勝を挙げた。16年秋、岩手・ジュニアグランプリ(ダズンフラワーに騎乗)で重賞初Vを達成。笠松好きの「リピーター」から、19年4月には覚悟を決めて完全移籍。活躍が目立っている。

 牝馬・ナラとのコンビで全国の交流重賞を転戦。GⅠレースのJBCクラシック(浦和)やマイルチャンピオンシップ(盛岡)にも挑戦し、貴重な経験になった。岐阜金賞では、8番人気のナラを3着に押し上げる好騎乗を見せた。昨年2月、レース中の落馬事故で大けがを負ったが、8月に復帰。半年間に29勝でまずまずの成績。

 ★笠松にどっしりと腰を下ろし「ホーム」として選択。意外と差しも決まる馬場が合っているようで、騎手不足の笠松にとって素晴らしい決断。歓迎セレモニーでは「特に変わりなく、いつも通り頑張っていきます。笠松競馬場に足を運んでいただけるとうれしいです」と生え抜き騎手のようなコメント。各地での騎乗経験を生かして、重賞レースでもV戦線へ突っ込みたい。来年は、けがなどなく1年間フルに騎乗できれば、70~80勝はできそうだ。

 【熱視線】
 園田時代に複数回、短期騎乗で来ていた松本騎手。笠松所属になると聞いて、オールドファンからは「よく穴あけるし馬券に絡むから、うれしい」との声。昨年は落馬負傷で、半年間騎乗できなかったが、復帰してからも好騎乗。笠松での重賞制覇も見せてほしい。

ライデンリーダー記念をニュータウンガールで制覇し、喜びの向山牧騎手

 ■向山牧騎手「年金ジョッキー」を目指したい(アンカツさん超えの3591勝)
  
 「(馬から)落ちなかったら、勝ちます」(ニュータウンガールで重賞V)。向山牧騎手(川嶋弘吉厩舎)は新潟市出身の56歳。1983年、三条競馬でデビュー。新潟県競馬では9回のリーディングに輝いたエースジョッキー。2002年、地元廃止とともに笠松へ移籍。ライデンリーダー記念(カキツバタフェーロー、ニュータウンガール)、園田・のじぎく賞(アペリラルビー)、オータムC(シャドウチェイサー)など移籍後は重賞6勝。13年には122勝で笠松リーディングを獲得した。

 騎手を長く続けるには「けがをしないことが第一」と語り、地方通算3591勝、中央でも11勝。新潟時代から重賞Vを量産した戦績が素晴らしい。3500勝達成セレモニーでは「年金ジョッキーと呼ばれたいので65歳まで頑張ります」とアピール。元笠松の川原正一騎手(62)が還暦ジョッキーとして元気で、目標にもなりそうだ。
 
 ★笠松時代のアンカツさん(安藤勝己元騎手)の記録「地方通算3299勝」超えも既に達成。笠松のレジェンドは牧さんに受け継がれた。不祥事に揺れた笠松にとって、ベテランの健在ぶりは頼もしい。若手の長江慶悟騎手や深沢杏花騎手らを優しく(時には厳しく)見守り、騎乗技術や生活態度のアドバイスを続けてほしい。「体力を今までの3倍つけたい」そうで、あと10年は現役を続けて、笠松競馬の再興を根元から支えていただきたい。

 【熱視線】
「僕は60歳を越えても現役で馬に乗る『年金ジョッキー』でいたいし、100勝ごとが目標でなく、次は4000勝を目指しています」と宣言。新潟から移籍し、数々の好成績を挙げ、「日本プロスポーツ大賞功労賞」(2015年)も受賞したすごい騎手。笠松競馬で見られるとはうれしいし、ぜひ「年金ジョッキー」も「4000勝達成」も実現し、笠松にずっといてほしい。

通算200勝達成のセレモニーで花束を手にする森島貴之騎手(笠松競馬提供)

 ■森島貴之騎手、笠松の騎手でただ一人の30代に(そろそろ重賞勝ちの期待)

 「一鞍一鞍、一生懸命騎乗します」。森島貴之騎手(水野善太厩舎)は三重県出身の32歳。地方通算255勝。4年間の鉄工所勤めから、乗馬経験もなかったのに、騎手免許に合格。2010年、膝の骨折でデビューは3カ月遅れたが、地道にコツコツと努力を続け、レースでは最後まで諦めない精神で奮闘してきた。朝1時起きで調教に励む日々。「攻め馬をすれば、ある程度レースに乗せてもらえ、頑張りがいがある」そうで、本番での騎乗数は多い。家庭では子宝に恵まれ、5児のパパでもある。

 4年前、中央2勝馬のナスノアオバに騎乗し、6勝を飾った。ケイティブレイブが勝った名古屋大賞典(GⅢ)で福永祐一騎手、ルメール騎手ら超一流とゲートイン。オグリキャップ記念でも騎乗した。ともに8着に終わったが、大きな経験になった。
 
 ★笠松でデビューする騎手が少なく、いつも「20代若手騎手」のイメージが強かったが、現役ではただ一人、働き盛りの30代で、もう中堅(30代は6人が引退)。攻め馬での努力と積極性で多くの騎乗依頼につながっている。今年1月には7戦連続で馬券圏内に絡むなど成長した姿も見せていた。笠松生え抜きでファンの好感度も高く、レース再開後の飛躍が期待されている。これまでの年間30~40勝から、来年は50勝以上を目指したい。
 
 【熱視線】
 デビューは笠松競馬の経営が揺れていた頃で、そんな時に来てくれた森島騎手。もう11年になるので、重賞タイトルを目指して、活躍を期待したい。白いムチを使って騎乗している姿を見て「オシャレだな」と思った。

ストーミーワンダーとのコンビで重賞3連勝を飾った渡辺竜也騎手

 ■渡辺竜也騎手、ストーミーワンダーで重賞3勝(リーディング奪取へ)

「これからも頑張りま~す」。渡辺竜也騎手(笹野博司厩舎)は千葉県出身の21歳。2017年にデビューし、1年目に38勝、2年目には64勝を挙げ、笠松の騎手では初めての「NARグランプリ優秀新人騎手賞」に輝いた。昨年は自己最多の132勝、地方通算では352勝。ヤングジョッキーズシリーズでは2年連続でファイナル進出。中山の芝コースで2着に突っ込み、存在感を示した。1年目には、西日本の地方騎手を代表してあいさつ。「白川郷で有名な岐阜県から上京しました」とやや滑り気味だったが、地元の観光地と笠松競馬をアピールしてくれた。

 19年、ストーミーワンダーとのコンビで重賞3連勝を飾った。飛山濃水杯で初制覇。くろゆり賞でカツゲキキトキト、姫山菊花賞ではタガノゴールドと各地の大将格を次々と撃破。馬を動かす手腕が光り、一流騎手として全国に認められた。 
  
 ★若手のエースに急成長。リーディング争いでは2年連続の2位。スタートセンスが良く、好位から勝利への王道キープ。来年はトップの座を奪えそうだ。応援してくれるファンをいつも大切にする姿が素晴らしく、中山でも大勢へのサインに快く応えていた。笠松の騎手は半減したが「(僕は)大丈夫です」と頼もしい一言。今後は他場の重賞戦線でも勝てるスターホースとの出会いを期待。落馬事故や体調管理にも十分注意を払い、「笠松の顔」として勝ちまくってほしい。

 【熱視線】
 渡辺騎手といえばV字たすきの勝負服ですが、熱意で使用許可が下りたという。競馬場で見るたび、勝負服が似合っているなと思う。笠松競馬で初となる新人騎手賞を受賞した逸材で、重賞Vやリーディング争いにも加わる活躍ぶりは目が離せない。SNSもしていて、ファンを思う投稿やプライベートの姿も楽しく見ています。

 爽やかで好感しかないので、これからもずっと笠松競馬のエースとして活躍してほしいです。

 ※昨年以降、「引退」となった笠松競馬の騎手は次の10人。
 池田敏樹、大塚研司、佐藤友則、島崎和也、高木健、筒井勇介、東川公則、水野翔、山下雅之、吉井友彦

 ■「オッズパーク」と「楽天競馬」がネット販売再開へ

 笠松競馬は9月8日に再開されるが、コロナ禍で無観客レースになるため、本場では一般ファンへの「紙馬券」は売られず。場外発売は鹿児島、鳥取など限られた地域とみられ、馬券売り上げは微々たるもの。頼みのインターネット販売(4業者)では、「オッズパーク」と「楽天競馬」が、8日からの「発売再開」を予定している。笠松競馬場で実施された4日間の再開演習中も、スタート地点の後ろや清流ビジョン下には「オッズパーク」「楽天競馬」の看板が掲げられていたことから、「発売してくれる」とみていたが、まずは良かった。

 残りの「SPAT4」は「協議中」とのことだが、感触は悪くない。地方・中央ともに投票可能な「JRAネット投票」は対応が遅れている印象で「未定」とのこと。笠松競馬再開後の重賞等実施計画表では、秋風ジュニアなど2歳戦3レースから「JRA認定競走」の文字が消えており、交流再開は不透明。ネット投票も厳しい印象を受ける。騎手らの馬券不正購入などの不祥事に、コロナ禍の影響もあって、笠松・JRA間の交流競走などは凍結状態にあり、ネット販売でも時間を要しそうだ。本年度は「マイナスからのスタート」で単年度赤字は必至の状況。公正競馬をアピールして、全面的なネット販売につなげていきたい。