後半のレースで3連勝を飾り、笑顔の深沢杏花騎手

 ゴールラッシュに笑顔がはじけた。笠松競馬の深沢杏花騎手(20)がアルプスシリーズ後半戦の14日、「鉄の女」ナラ(牝6歳)などに騎乗して自己最多の1日3勝をマーク。7、9、12Rと後半3連勝で成長した姿を見せた。1開催でも最多の6勝を挙げ、好調さをキープ。暑さにも強い「夏女」のようで、活躍が目立っている。

 アルプスシリーズ(6日間)前半戦は梅雨明けとともに猛暑続きだった。初日のメイン「サマーアタック」では、「ウマ娘シンデレラグレイ賞」を勝ったヤマニンカホン(牝4歳)に騎乗。好ダッシュを決めてスイスイと逃げ切りV。2日目の最終レース「C級サバイバル」では、サイレントシズカ(牝4歳)で鮮やかな差し切りVを決めた。

 シリーズ後半戦は雨天が目立った。4日目には、自厩舎のレディーオーソ(牝4歳)で3番手から差し切って1着ゴール。中央1勝クラスからの転入初戦で「馬が強かったです。早めに仕掛けたらグーンと伸びてくれました」と後続に8馬身差の圧勝。追い掛けて2着に入った長江慶悟騎手も「相手が強過ぎましたよ」と脱帽だった。

ナラとのコンビで逃げ切り、1着ゴールを決めた深沢騎手(笠松競馬提供)

■元気なナラ姉さん、地元で格の違い見せる

 5日目、圧巻の3連勝を飾った深沢騎手。3番人気、5番人気、4番人気の馬で、好騎乗が光った。7Rは自厩舎のロードラウレア(牡6歳)で中団から追い上げて4コーナーで先頭。最後の直線では、塚本征吾騎手騎乗のプラチナビューティとの激しいたたき合いとなって、「ぶつかり合いながらでしたが、最後は勝ったかなあと」。クビ差で制し、人馬ともに勝負根性を見せてくれた。

 「ナラ姉さん、元気だねえ」と驚かされたのは9R。「交流アイドル」としても全国の重賞戦線を駆け回るナラ。5月には船橋・かしわ記念(GⅠ)でも騎乗した深沢騎手。「あんなタフな馬いないですよ」と頑張りをたたえていたが、地元・笠松では格の違いを見せ、乗鞍短距離特別を華麗に逃げ切った。前走は金沢・日本海スプリント(900メートル)で5着。深沢騎手と同期の魚住謙心騎手が乗って、速いペースに慣れていたこともあって、先手を奪ってそのまま押し切った。

 最終12R「C級セレクション」では、競馬専門紙などが無印だったモア(牝4歳)に騎乗。雨脚が強くなってきて、逃げ脚もより軽快に。大原浩司騎手騎乗のハーディンに半馬身差をつけて逃げ切った。深沢騎手は「最終レースも勝てるとは。3連勝は初めてです」とうれしそうだった。

雨の中、最終レースもモアで制し1日3勝。好調キープの深沢騎手

■深沢騎手通算49勝目、あと2勝で「▲3キロ減」に

 このレースでは、モアを管理している森山英雄調教師が地方競馬通算900勝を達成した。高崎競馬の廃止とともに笠松に転入した苦労人。昨年の大みそかには、ウインハピネスで東海ゴールドカップを制覇している。

 深沢騎手は今年になって25勝目を飾り、通算では49勝目。デビューして3年目の減量騎手ではあるが、51勝以上になれば減量が1キロ取れて「★4キロ減」から「▲3キロ減」になる。一人前のジョッキーへの成長の証しでもあり、「あした、2勝しちゃおうかな」とノリノリだった。結果は2着が最高で、次回開催に持ち越した。
 
 成長著しく、ファンにとっても目が離せない存在になりつつある深沢騎手。全国の女性ジョッキーの中で「1番になりたい」という大きな目標もある。年間50勝も夢ではないし、重賞レースでの騎乗も増えており、騎乗馬に恵まれれば優勝のチャンスも巡ってくるだろう。ヤングジョッキーズシリーズ(YJS)では、まず8月16日に金沢で騎乗する。ナラで騎乗経験もあるコース(お松の方賞9着)。楽しみな2戦となる。

■女性騎手は1日4勝が最多記録、宮下騎手と木之前騎手も達成

 地方競馬の女性騎手では、1日4勝が最多記録。名古屋の宮下瞳騎手が7月4日、自身初の一日4勝をマークして最多タイ。前半の1、2、4、5Rで一気に達成した(史上6人目)。同じく名古屋の木之前葵騎手も2016年に4勝を挙げている。JRA女性騎手の1日最多勝利は、藤田菜七子騎手が新潟で3連勝を含め1日4勝をマークしている。

 地方競馬教養センター時代、得意の競泳では男性陣を圧倒していた深沢騎手。暑い季節に「夏女」ぶりも発揮して、勝利を積み重ねていきたい。次は先輩の宮下騎手と木之前騎手が達成した「1日4勝」が目標になる。

YJSに参戦する東川慎騎手(左)と長江慶悟騎手

■東川騎手5勝、長江騎手も3勝でYJS戦へ弾み

 東川慎騎手はアルプスシリーズで連日2勝を挙げるなど計5勝。YJSでは「笠松の深沢杏花騎手、長江慶悟騎手、浦和の及川烈騎手には負けないよう頑張りたい」と闘志。長江騎手は5日目、ジェーニョで最後方から差し切ってシリーズ初勝利。6日目には2勝を飾って計3勝。18日・高知で挑むYJS戦への弾みとなった。5Rでは長江騎手、深沢騎手、東川騎手がワンツースリーで上位を独占。若手騎手たちの底上げが感じられる1戦となった。

 笠松で期間限定騎乗中の及川騎手(浦和)。盛岡でのYJSでは、鮮やかな差し切りで勝利を飾り、東日本地方騎手のトップに立った。「流れも良かったし、いけるんじゃないか」と理想的なレースができたそうだ。トライアルラウンドは10月・浦和で残り2戦。「その頃までにはもっとうまくなって」と、ファイナル進出で名古屋、中京での騎乗に意欲満々。笠松では、向山牧騎手らから「向正面から、なるべく早く仕掛けるように」などとアドバイスを受けながら、日々精進。6日目10Rで笠松2勝目をゲット。攻め馬では25頭ほど騎乗しており、睡眠は1日5時間程度だという。笠松で学んだ騎乗技術を生かして、ファイナル進出につなげてほしい。

サマーカップを制覇した金沢のファストフラッシュと青柳正義騎手

■サマーカップ、金沢・青柳騎手がファストフラッシュでV

 14日のサマーカップ(SPⅡ、1400メートル)はフルゲート12頭立てで行われ、金沢のファストフラッシュ(牡7歳、鈴木正也厩舎)が青柳正義騎手の騎乗で制覇した。

 2番手から追走し、4コーナーで先頭。ゴール手前で迫ってきた1番人気の兵庫・サンロアノーク(牡6歳)=田中学騎手=を半馬身差で倒した。3着は兵庫のペリステライト(牡8歳)、笠松勢では、横断幕もあったインシュラー(セン馬8歳)=大原浩司騎手=の4着が最高だった。

 ファストフラッシュは、金沢スプリングCを連覇しており、重賞3勝目。4年前、中央未勝利から笠松へ転入し、初勝利を挙げている。笠松では3勝、白銀争覇など2着2回と得意のコースだった。青柳騎手は今冬、笠松での期間限定騎乗で勝利を量産。コース経験は十分で、笠松では今年20勝目となった。

 速い流れで折り合って行けたことを勝因に挙げ、優勝インタビューでは「実績ある馬で、最後まで辛抱してくれました。大外から一番いい位置を取って、ラストも止まることなく、伸び切ってくれた。今後も大きなところを勝ってくれたら」と騎乗馬の頑張りに感謝。また短期騎乗や重賞レースでの笠松参戦も多く、「冬場の間から笠松に来て、いろいろとお世話になっており、結果を出せたのはうれしいです」と歓喜に浸っていた。

笠松競馬場のゴール前でレースを観戦するファンたち。インターネットを中心に馬券販売は好調だ

■笠松競馬復興へ馬券販売好調、赤字分返済なるか

 「復興元年」となった今年の笠松競馬。昨年度は、騎手・調教師の馬券不正購入など一連の不祥事で、約4億5000万円の赤字を抱えた。本年度は、まずはその「借金」を返済するため、「マイナスからのスタート」となった。予算案では約5億7000万円の黒字額が見込まれているが、馬券販売の実態はどうなのか。

 本年度の開催日は2020年度より4日増えて99日間。馬券販売収入は、競馬組合の当初予算案で395億4600万円を見込んでおり、1日平均で約4億円である。この数字、10年前には1億円を超えるかどうかの厳しい状況だった。特に月曜日には9000万円台の日も目立ち、朝、スポーツ新聞を広げて一喜一憂したものだ。1億円以上であれば「ああ良かった」と。13年度以降はインターネット投票が好調で8年連続で黒字を確保したが、昨年度は巨額の赤字に陥った。

■1日の馬券販売収入は目標を上回る4億3650万円

 コロナ禍の影響で世の中の人の動きは大きく様変わり。ギャンブル業界も明暗が分かれた。これまで1番人気だったパチンコは、店に行かなければ遊べないため、厳しい状況が続いている。一方、競馬はいまや「無店舗型」。インターネット投票でつながれば、全国どこにいても楽しめ、巣ごもり需要で「おうちで競馬」のファンも増加。各地方競馬の馬券販売額は右肩上がりが続いた。

 笠松競馬では、本年度第1~6回(4月6日~7月15日)は28日間開催された。馬券の売得金(発売金から返還金を差し引いた額)は、総額122億2230万円。1日平均では約4億3650万円で、目標の4億円を上回った。笠松で馬券が最高に売れたのは1980年の445億円だが、いまのペースでいけば、その数字を上回る可能性も十分にある。 

オグリキャップ記念の優勝セレモニー。岡部誠騎手と花束を贈呈した安藤勝己元騎手(左)

■アンカツさん来場、ネット予想番組「金曜日ライブ」でも盛り上げ

 「おうちで競馬」需要に応えて、笠松競馬では予想番組のネット配信にも力を入れ始めた。4月28日に笠松看板レースのオグリキャップ記念、29日には芦毛馬限定の「ウマ娘シンデレラグレイ賞」が行われた。オグリキャップの聖地でのウマ娘とのコラボ企画で、大いに盛り上がった。オグリキャップ記念当日には、笠松競馬レジェンドのアンカツさんも来場。有馬記念でラストランVを飾ったオグリキャップの笠松での引退セレモニー(アンカツさん騎乗)の様子も映像で配信。当時の笠松競馬場での沸騰ぶりが伝わった。アンカツさんはレース予想のほか、パドック解説、表彰式での花束贈呈などでもファンの注目を浴びた。

 ネットでの笠松競馬予想番組としては、4月から「金曜日ライブ」のユーチューブ動画配信もスタート。グリーンチャンネルでもおなじみのフリーアナウンサー・坂田博昭さんをはじめ、タレント・お笑い芸人、競馬エース・東海のトラックマンらが出演し、軽快なトーク。笠松ならでは、日本唯一の内馬場パドックに、マイクロバスで到着する騎手たち。その歩く姿に注目した「ナイスウオーキング予想」は、ユニークな視点で面白く、そこそこ当たるようでもある。笠松競馬を楽しく盛り上げてくれている。

昨年、攻め馬に励んでいた藤原幹生騎手。負傷療養から早期復帰を目指している

■藤原騎手、攻め馬で体を慣らしレース復帰へ

 笠松競馬の所属騎手は9人に半減した。昨年9月の再開後には、長江慶悟騎手がレース中の落馬事故で、渡辺竜也騎手は調教中の落馬事故で、それぞれ戦線を長期離脱。一時、レースに出られる所属騎手が7人になったこともあった。非常事態になって、岡部騎手ら多くの名古屋勢や期間限定騎手たちのサポートを受けないと、レースが回らない厳しい状況にもある。けが人が1人も出ないことを願うばかりだ。
 
 藤原幹生騎手は6月初めの落馬事故で肋骨を負傷。戦線を離脱し療養中だったが、攻め馬から体を慣らしてレース復帰を目指しているという。笠松所属騎手では昨年のリーディングであり、「地方競馬ジョッキーズチャンピオンシップ」では浦和で勝利を挙げて総合2位。ダービージョッキーであり、若手騎手からは「笠松の鉄人」と呼ばれる存在でもある。応援するファンも多く、頼もしい男の復活を待ちたい。