第4高射群が装備する地対空誘導弾「パトリオット」(PAC3)。車載式で移動できる=7月、各務原市、航空自衛隊岐阜基地
パトリオットは車載式だ。「守るべき所の近くで展開する」と隊員は言う=各務原市、航空自衛隊岐阜基地
誘導弾の発射口が見える角度から撮影。撃ち終えたら、クレーンで補充する=各務原市、航空自衛隊岐阜基地

 航空自衛隊岐阜基地(岐阜県各務原市)の第4高射群が装備する地対空誘導弾「パトリオット」(PAC3)。その名は「愛国者」を意味し、他国から飛来する弾道ミサイルを地上から撃破する役目を担う。中京・関西圏が守備範囲で、沿海で迎え撃つ海上自衛隊のイージス艦が撃ち漏らしたミサイルをターゲットにする、最後の砦(とりで)だ。

 7月上旬、岐阜基地で機動展開の一連の動きを見せてもらった。パトリオットは車載式だ。開始の合図があると、誘導弾の発射機やレーダー、アンテナといった装置がそれぞれ搭載された大型車が現れ、縦に並んだ。電気を供給するための電源車もある。隊員たちは100キロはあるという太い電源ケーブルを抱え、声をかけ合いながら車両につないでいく。

 10分過ぎても作業が続いている。スタンバイ完了を告げられたのは15分後だった。失礼ながら「意外と遅いな」というのが第一印象だった。周辺国からの弾道ミサイルは、発射すると10分ほどで到達すると聞いていたからだ。岐阜基地にはこの発射機が10台あり、セットした誘導弾を撃ち終えたら、再びクレーンで補充するという。

 車載式にする必要があるのだろうか。案内役の隊員に問いかけると「守るべき所の近くで展開する必要があるため、移動可能な車載式になっています」と説明する。だが「いま発射したからすぐに展開しろと言われても間に合いません」とも。兆候を捉え、発射前にスタンバイすることを強調していた。

 しかし、元陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏はこう危惧する。「数発ぐらいなら大丈夫だが、数百発が同時に飛んでくると対処が非常に難しくなる」。つまり、最悪の場合、着弾する。基地のある各務原市はどう認識しているのか。訪ねると、まさに現在進行形で、弾道ミサイルに対する危機管理体制を整えようとしていた。

 実は4月、内閣官房と消防庁から弾道ミサイルを想定した初動対処マニュアル作成の手引きが都道府県に配布されていた。県の危機管理政策課によると、今月下旬にも市町村の担当職員を対象にした研修会と机上訓練を行い、来年2月までに県民を交えた避難訓練を実施するという。

 さらに、県は弾道ミサイルの爆風などから身を守る一時避難所として、地下道や地下駐車場といった地下施設の指定を始めた。これは、民間の地下施設も対象になるようだ。

 マニュアルの作成について各務原市の小鍋泰弘副市長は「他の市町村より積極的に進めていく必要がある。早い段階で作った方がいいと考えている」と前向きだ。各務原には、航空自衛隊向けの航空機を生産している川崎重工業の工場もある。川重を交えた避難訓練についても、小鍋副市長は「検討していきたい」と話す。

 ただ、その対応は地震や風水害といった自然災害とは異なるようで、「核兵器や化学兵器を積んでいる恐れもあり、安易に救助に行けない」と、小鍋副市長は難しさを語る。

     ◇

 ミサイルを撃たせず、平和を守るには-。空襲体験者の教訓から国防のあり方を考えた。

     ◇

 1945(昭和20)年8月15日の太平洋戦争の終戦から、今年で77年になる。時代を変えるほどの長い年月だが、この77年間、日本は再び戦火にさらされることなく、平和を維持してきた。だが、国際情勢は刻一刻と変化している。教訓として当時の記憶を継承する意義は大きいが、そのまま現代の仕組みに当てはまるわけではない。今は今なりにどう平和を守るか考えなければならない。緊迫する国際情勢。もし、日本が戦争に巻き込まれたら。その時、岐阜県は-。平和の行く末を考えた。

<第4回「憲法9条」に続く>