太平洋戦争の犠牲者を慰める「平和之塔」。77年前の記憶を刻む=7月末、各務原市蘇原中央町、各務原市文化会館
岐阜基地に残る大正期の倉庫。戦火をくぐり抜け、今も現役で使われている。米軍基地時代の名残も見られる=各務原市、航空自衛隊岐阜基地

 各務原市文化会館の敷地にある「平和之塔」。柔らかな木漏れ日を受けて静かにたたずむこの碑(いしぶみ)は、太平洋戦争の犠牲者を慰め、恒久平和を祈念するために先人たちが建てたものだ。

 77年前、上空を米軍の爆撃機が飛び交い、空から焼夷(しょうい)弾や爆弾が降ってきた時代が確かにあった。

 「その日、川崎航空機の工場が空襲を受けて黒い煙を上げていました。見ていると、米軍の戦闘機が飛んできてバババッと機銃掃射。慌てて用水路に飛び込みました」

 小学4年の時、各務原空襲を経験した元教員の石田昭彦さん(86)=岐阜県各務原市那加北洞町=。あれから77年がたち、有事に備え、県内でも弾道ミサイルを想定した避難訓練が計画されようとしている。だが、石田さんは意外にも落ち着いた表情でこう語った。

 「何が起こるか分からないのが、この世の中。絶対に安全だ、安心だということはない。常に危機意識を持っておかなければなりません」。平和を望みながらも、非常時のことを想定する-。戦争という異常事態をくぐり抜けた人が備える感覚なのだろう。

 だが、弾道ミサイルを撃ち込まれるのは、最悪の事態だ。そうした状況にならず、どう平和を守るか。いま議論されているのが、憲法9条の扱いだ。

 元陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏は、現代は陸海空に限らず、インターネットを介したサイバー空間や、軍事衛星をはじめとする宇宙空間での攻防が活発化していると説明。「平時と有事の境目が曖昧になり、火力が飛び交わない平時でも、あらゆる領域で目に見えない戦いが行われている。それに対応できる安全保障体制を整えなければならない」と話す。

 その上で「専守防衛や必要最小限度の自衛力といった、自分たちの手足を縛るようなものは撤廃しなければならない。弱い国だと思われたら簡単に侵略されてしまう」と、9条改正の必要性を訴える。

 一方、慎重な姿勢を見せるのは認知科学者の苫米地(とまべち)英人氏だ。「9条を改正する前に(国際的に不利な条件に置かれている)国連憲章の敵国条項の完全削除が先」とした上で、特に自衛隊の保持を9条に明記することに違和感を持つ。

 「憲法に書くことで国の義務になる。自衛官が足りなくなったら、維持するための徴兵も可能になってしまう」と危惧する。

 さらに苫米地氏が強調するのは、時代の変化だ。戦争はこれから、AI(人工知能)を使った無人機の時代になるという。例えば、懸念される台湾有事に米国が介入して戦争になっても「米軍は台湾に派兵しない可能性がある。だが、事実上は来るだろう。無人のAI戦闘機や爆撃機、自爆ドローンが」と見通す。

 そうした中、仮にその時までに日本が9条を改正していると、米国の要請で自衛隊が台湾に派兵される可能性もある。「自衛隊だけ“人間”が戦うことになる」と苫米地氏。いまはロシアのウクライナ侵攻や台湾有事が懸念されているさなかであることを挙げ、「9条を改正するなら平時の時に冷静になって議論するべき」と主張する。

 平和の維持へ。いまを生きる一人一人が、未来を見据えて考えていかなければならない。

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 1945(昭和20)年8月15日の太平洋戦争の終戦から、今年で77年になる。時代を変えるほどの長い年月だが、この77年間、日本は再び戦火にさらされることなく、平和を維持してきた。だが、国際情勢は刻一刻と変化している。教訓として当時の記憶を継承する意義は大きいが、そのまま現代の仕組みに当てはまるわけではない。今は今なりにどう平和を守るか考えなければならない。緊迫する国際情勢。もし、日本が戦争に巻き込まれたら。その時、岐阜県は-。平和の行く末を考えた。

<おわり>