休日に音楽室で練習する生徒たち。地域移行を巡って吹奏楽部は特有の問題を抱える=4日、各務原市那加東亜町、那加中学校

 休日の午前8時過ぎ。岐阜県各務原市立那加中学校の校舎前に吹奏楽部の生徒が続々と集まってきた。同20分ごろ、顧問の林みなこ教諭が校舎の鍵を開け、生徒はそろって中へ。全員が校内に入ったことを確認すると、林教諭は鍵を閉め、足早に生徒のいる音楽室へ向かった。「校舎内に音楽室がある以上、校舎の鍵の開け閉めは教員がやらないといけない。外部の人に任せるのは難しいと思う」と林教諭は語る。

 休日の部活を地域や民間の団体に委ねる「地域移行」は文化系部活動も例外ではない。中でも花形の吹奏楽部は特有の問題を抱える。吹奏楽部は学校の音楽室を使うことが多く、外部指導者が音楽室で指導する場合、校舎内への立ち入りが必要となる。教職員以外が鍵を管理すれば防犯上の問題をはらむ。県中学校長会長で同校の廣瀬良校長(59)は「高価な楽器も多く、紛失したら大変なこと。鍵の管理を教員以外に委ねることは簡単ではない」と危惧する。

 同校では、パートごとに部屋で行う練習でも、各クラスの教室はできるだけ使わないようにしている。林教諭は「生徒の私物を触ったり、何かなくなったりと問題になりかねない。それぐらい気にしている中、外部の人が自由に入れる状態は考えにくい」と説明。一方、鍵の開け閉めに教員が出勤すると、働き方改革にはつながらないため、学校にとって悩ましい問題だ。

 活動場所を校外に移す方法もあるが、公民館などの公共施設は利用料がかかり、費用負担の増加は避けられない。楽器はトラックで運搬するのに1回数万円かかるという。楽器の安全な保管場所がある施設は限られ、学校数の多い自治体では固定の練習場所を確保することも容易ではない。

 林教諭は地域移行後も、外部指導者として休日の指導を続けるつもりだ。「敷地内に校舎と別の専用施設があればいいが、それも難しい。教員が(兼業兼職で)指導を続けることが一番現実的だと思う」

 文化庁が全国1万人を対象にした2020年のウェブ調査では、中学生の所属部活動の内訳は、吹奏楽部が運動部を抑え最多の10・4%だった。県中学校体育連盟の本年度のデータでも県内の吹奏楽系の部員数は2925人で、軟式野球の2384人、サッカーの2001人より多い数字となっている。

 文化庁の有識者会議がまとめた提言では、吹奏楽部などを念頭に、音楽室といった学校施設の利用ルール改善の必要性を指摘。「地域の文化振興や教育委員会の担当部署、各団体が協議会を設立し、利用の割り当ての調整を行う仕組みを設けること」などと自治体に対応を求めている。

 注目度の高い運動部活動と比べると、文化系を巡る地域移行の議論は緒に就いたばかりだ。県教育委員会の担当者は「県としてもまだ手探りだが、各種団体や有識者に知恵をもらいながら、円滑に進められる方策を考えていきたい」と話す。過度に教員に頼らず、よりよい方向性が見いだせるのか、今後の議論の行方が注目される。=おわり=

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 公立中学校の部活動が、大きく変わろうとしている。国は、少子化や教員の働き方改革を背景に、2023年度から段階的に休日の指導を地域団体や民間事業者に委ねる「地域移行」を進める方針だ。「部活動改革」には運営主体となる受け皿や教員に代わる指導者の確保といった課題もある。教育現場を取材し、部活動の未来を考える。