YJS笠松ラウンドで勝利を飾り、表彰式で祝福を受ける長江慶悟騎手(左)と東川慎騎手(地方競馬全国協会提供)

 騎手たちもサバイバルレースの最終ラウンド。笠松勢2人がともに1番人気馬で勝利を飾り、優勝をたたえるウイナーズサークルに笑顔で並んだ。熱い地元ファンらの祝福を受けたが、ともに「夢のファイナリスト」にはあと一歩届かなかった。

 「ヤングジョッキーズシリーズ(YJS)」西日本地区トライアルの最終ラウンド(2戦)が2日、笠松競馬場で開催された。7Rで長江慶悟騎手(22)、9Rで東川慎騎手(21)が鮮やかに1着ゴールを決めた。それでも、長江騎手は9Rで10着、東川騎手は7Rで10着しんがり負けがあり、ポイントを伸ばせず、歓喜と悔しさが交錯。くじ運にも左右されるジョッキー戦での勝負の厳しさを味わった。

 秋晴れに恵まれ、YJS第1戦の7R、馬場状態は「やや重」から「良」に回復。地方競馬、JRAから18~22歳の若手ジョッキー10人が笠松ラウンドに参戦。いつもは殺風景なパドック前のスタンドには佐々木世麗騎手(19、兵庫)、金山昇馬騎手(20、佐賀)、小沢大仁騎手(19、JRA)ら出場するジョッキーを応援する横断幕がにぎやかに飾られた。

YJS笠松ラウンドの騎手紹介式で闘志を燃やす若手ジョッキー10人

 ■東川騎手「勝ったら、焼き肉を食べたいんで」

 5レース後に行われた出場騎手紹介式では、マイクロバスで10人が東スタンド前のコースに登場。各騎手の紹介文が読み上げられ、ラストはやはりムードメーカーの東川騎手。「自分のアピールポイントは『ズバリ、顔です』。最近刈り上げてイケメン度が上がりました。マイブームは漫画とインドカレーです。勝ったら焼き肉を食べたいんで、先輩方おごってください」とユニークなコメントで盛り上げた。地方騎手6人、JRAの騎手4人が笑顔で闘志を燃やし、ラチ沿いに詰め掛けたファンを楽しませた。            
 
 レースではポイント上位4人(地方、JRAともに)が進出できるファイナルを目指して、磨いてきた騎乗技術と若いエネルギーを爆発させた。笠松勢では東川騎手が出場圏内に3ポイント及ばず6位(49ポイント)、長江騎手は7位(48ポイント)。深沢杏花騎手(20)は10番人気馬で5着に食い込むなど健闘したが、13位(29ポイント)に終わった。

 昨年は笠松競馬の不祥事の余波で、笠松ラウンドは開催されず、地元の3人はシリーズに一度も出場できなかった。今年は、東川騎手と深沢騎手が2年ぶり、長江騎手は初めてのYJS挑戦となった。耐えるしかなかったもやもやした思いと悔しさを胸に、「炎の2番勝負」に挑んだ3人の戦いぶりやレース後の表情などを追った。

7R、長江騎手騎乗のボルドーアドゥールで1着ゴール。深沢杏花騎手は5着

 ■第1戦、長江騎手がロングスパートで制覇

 2戦ともに、ここ3走3着以内がない馬たちによる「C級サバイバル」モードの混戦レース。第1戦の7R、「負けられないレースです。馬場が乾いてくれればいいですけど」と燃えていた長江騎手。自厩舎のボルドーアドゥール(牝3歳、後藤佑耶厩舎)に騎乗し、大外枠から好ダッシュ。逃げた佐々木世麗騎手を追って、作戦通り4番手をキープ。向正面から早めにロングスパートを開始。3コーナー手前で先頭を奪うと、最後の直線でもリードを保ち、金山昇馬騎手(20、佐賀)の追撃をかわして2馬身差でゴールイン。3着には永島まなみ騎手(20、JRA)が突っ込んだ。

 騎乗馬に恵まれなかったが「それはくじ運なんで。頑張ります」と深沢騎手。アイファーキャノンでよく粘り込み「掲示板確保」の5着。今年がラストチャンスの東川騎手は3番人気馬ベッロコルサに騎乗したが、後方追走で伸びを欠いて10着に終わった。

「大外から思い切った競馬を」と狙い通りに勝利を飾った長江騎手。佐々木朗希投手に似ており、サプライズのユニホーム姿もあった 

 ■長江騎手「ビジョンを見ましたが、余裕はなかったです」

 レース直後、笠松勢3人の表情や声はどうだったか。 
 
 1着・長江騎手「普段乗せてもらっている馬ですし、大外枠が当たったんで、思い切った競馬をしようと。メンバーを見て、前の方がいいかなと思って4番手からでしたが、早めに先頭に立って勝つことができた。残り100メートルぐらいでは後ろから来てたんで、ビジョンを見ましたが、余裕はなかったです。馬の力で勝たせてもらいました。次のレースで7着以内ならファイナルへ行けそうなんで頑張りたい」

 表彰式でも「地元だったんで、1個勝ててとてもうれしいです。人間の方が焦ってたので、早仕掛けになりましたが、いつも通り走ってくれた馬に感謝です」と喜んでいた。

 ★スタンドやラチ沿いではお母さんをはじめ、慶悟ファンが応援。1番人気馬で勝率が高い長江騎手が最高の結果を残した。         

10番人気だったが5着。頑張ってくれた馬に感謝し、飛躍を目指す深沢杏花騎手

 ■深沢騎手「5着に頑張ってくれて『ありがとう』」

 5着・深沢騎手「3番手から行って、どこまで粘れるかなあと。5着に頑張ってくれて『ありがとう』です。(向正面で)慶悟(長江騎手)が焦っていたのか、人気馬が早めに来ちゃって『エーッ』とびっくり。ボソッと『早いよー」と言っちゃいました。(しんがり人気で)厳しいと思っていましたが、5着に残ってくれたんで良かったです」

 ★杏花スマイル全開で、頑張ってくれた馬に感謝していた。                            

 10着・東川騎手「(先行タイプの馬で)出負けして遅れを取った。ステッキを入れても、砂をかぶって馬も行く気をなくしちゃった。できたら外へ出していきたかったけど、下がっていく一方でした。うまく乗れなかったです。次のレースで頑張ります」

 ★9Rで勝ってもファイナル進出の可能性がなくなり、残念そうだった。

9R、東川慎騎手騎乗のシルバーサークルが1着でゴールした

 ■第2戦、豪快に追い込んで東川騎手ガッツポーズ

 第2戦の9R、東川騎手は断トツ人気のシルバーサークル(牡5歳、伊藤強一厩舎)に騎乗。出遅れたが後方から徐々にポジションを上げ、逃げた永島騎手を豪快に追い込んで、3~4コーナーでは一気に先頭に。そのままリードを守って2馬身半差でVゴールし、右手でガッツポーズ。永島騎手が逃げ粘って2着。鷲頭虎太騎手(18、JRA)も踏ん張って3着。勝てばファイナル進出の可能性があった深沢騎手は、7番人気馬アンジェロッティで最後方から追い上げて7着。長江騎手は9歳馬で大差負けが続き10番人気だったサンライズサーカスに騎乗。ズルズル後退し10着でファイナル進出を逃した。

 東川騎手は装鞍所エリアに戻ると、騎乗馬の担当厩務員と握手を交わし「ありがとう」と満面の笑みだった。           

 ■「YJSで勝ちたくて、うれしかったです」

  1着・東川騎手「YJSで勝ちたくて、めちゃくちゃうれしかったです。(後方からの競馬で)焦りましたね。外からかぶせられて、いつ外に出そうかと。勝てて良かったし、ホッとしています。(ファイナルの)中央のレースには行けないですが、YJSだけじゃないんで、有名になって中央に行けるように頑張ります」

1戦目10着だったが、2戦目で勝利を飾った東川慎騎手

 表彰式では「ゲートを出るのが遅いのは分かってたんで、向正面から外に出して、スーッと上がっていく形で、うまく展開がはまりました。強い馬に乗せてもらい、勝つことができました。これからも精いっぱい頑張ります」とファンにさらなる活躍を誓った。

 ★YJS最終戦となってしまったが、好騎乗を見せて単勝1.9倍の人気に応えた。

 ■「私だけ寂しく最終レースの鞍をつけていました」

 7着・深沢騎手「勝てばファイナルに行けたんですけど駄目でした。外を回すとコースロスになるんで、内を通って一生懸命乗ったんですけど。金沢でも笠松でも人気のない馬に乗せてもらってたんですけど、着順を少しでも前にもってこられました。ファイナルに行けないのは悔しいです」

 さらに「笠松勢2人が勝って、慎先輩と慶悟があっち(優勝騎手の表彰式)だったのに、私だけこっちで、寂しく最終レースの鞍をつけていました。あ~あ、くじ運悪いですが、しょうがないですね。来年出たら頑張りたいですし、次はレディスジョッキーズでもね」と意欲を示していた。

 ★金沢から2桁人気馬(11、10 、10番人気)が3度続いて、最終戦でようやく7番人気。騎乗馬に恵まれず、かわいそうだった。「悔しいです」を連発していたが、表情は明るく、飛躍への大きなステップになりそうだ。

 ■花束は見守ったお母さんにプレゼント

7R優勝馬のボルドーアドゥールと長江騎手(左)

 10着・長江騎手「いやあ『悔しい』の一言ですね。前へ行ったら、あの馬止まるんですよね。でも出るのが速くて苦しい競馬になりました。(3番手から)次々と抜かされていくんで、こりゃ駄目だ。7着に入ればファイナルだと分かってたんですけどね。勝ったら、慎先輩か僕か、どっちかが行けると思っていたんですけど、どっちも『もう1戦はケツ』でした。くじ運なんで、どうしようもできないですけど。来年もあるんで、また頑張ります」

 また「初めてのYJSは、楽しかったです。いつもと違う競馬場(高知)で乗って、勉強になりました。技術向上に役立てて、来年こそはファイナルへ行きたいです」と前を向いていた。
                              
 ★ラストはしんがり負けに終わったが、応援したファンも大きな夢を見た。優勝騎手セレモニーで受け取った花束は、この日の活躍をスタンドから見守ったお母さんにプレゼントした。         

 ■愛知・浅野皓大騎手、最下位から逆転ゴール

 笠松勢は長江騎手と東川騎手が勝利を挙げたが、10着が響いてファイナリストの座はスルリ。地元コースだし、それぞれ7着、8着なら、ポイントは進出ラインに達していただけに惜しかった。「笠松から1人はファイナルへ」と願っていたが、3人ともやや力不足だった。

9R優勝馬のシルバーサークルと東川騎手(左)

 YJSトライアルラウンドの全日程が笠松で終了。12月16、17日に名古屋、中京で行われる西日本ファイナルラウンド進出者が決まった。西日本の地方騎手では兵庫の大山龍太郎騎手(18)がトップ通過。佐賀の金山昇馬騎手(20)が2位、羽島市出身の愛知・浅野皓大騎手=今津勝之厩舎=が3位、佐賀の加茂飛翔(つばさ)騎手(20)が4位でファイナル進出を決めた。浅野騎手は名古屋ラウンドでの1着、2着で最下位から逆転ゴールでの進出を決めた。

 JRA勢では永島まなみ騎手が71ポイントで1位。泉谷楓真騎手(20)、角田大河騎手(19)、川端海翼(かいと)騎手(19)の順でファイナル進出を決めた。

 ■笠松勢のファイナル進出者は渡辺騎手だけ

 笠松勢で過去にファイナルラウンドへ進出できたは渡辺竜也騎手だけ。2年連続で西日本・地方騎手のトップ通過を果たした。総合8位、9位で表彰台に立つことはできなかったが、中山の芝コースでは3着、2着に食い込んだ。渡辺騎手は1年目に笠松、金沢で勝利。2年目には名古屋で2連勝。地方騎手ではただ一人、2年連続の出場を果たした。
 
 若手騎手たちが参戦したこの日、5勝を挙げた渡辺騎手。8RのJRA交流戦「美濃菊特別」ではアウトレイジング(美浦)で好位から差し切り勝ちを決め、存在感を示した。YJSで3着、2着だった永島まなみ騎手もクリノビックリバコ(栗東)で参戦し4着だった。

 ■ファイナル進出には「勝つという気持ちと準備が大切」

  YJSファイナルラウンドを経験した地元の先輩たちが、勝ち抜くために実戦していたことや後輩へのアドバイスを語ってくれた。

YJSファイナル進出経験がある加藤聡一騎手から、アドバイスを受ける深沢騎手

 加藤聡一騎手は5年前、渡辺騎手とともにファイナル初参戦。大井で2着があり、総合では10位だった。インタビューを受けていた深沢騎手ら、来年もYJS参戦を目指す若手へのアドバイスでは「『勝つ』という気持ちが大事ですね。(獲得ポイントの)点数計算もちゃんとして、全部逆算しておかないとダメです。よく準備して臨むことが大切です」。これには深沢騎手も「のほほんと乗ってちゃダメですよね」と納得していた。

 渡辺騎手は「ファイナルに行けないなら、何の意味もないです。勝っても」と、後輩たちの成長を願って厳しい一言。長江騎手と深沢騎手は「悔しい」を連発していたが、先輩から見ると「悔しいというほど努力してないけどね。僕が地元で乗った時には、相手の馬も全部、乗っている人に癖を聞きましたよ。『どういう競馬だと負けますか』とか負け方をね。それまでの課程がなってないんです。笠松勢がファイナルに行ってくれたら応援するんですけどね」。笠松での騎乗経験者では、浅野皓大騎手と期間限定騎乗中の及川烈騎手=浦和=がファイナリストに決まった。渡辺騎手以来、笠松所属騎手のファイナル進出はなく、高い壁にもなっている。

 YJSファイナリスト2人のアドバイスには、ちょっと驚かされた。好結果を求めるなら、自分の騎乗馬はもちろん、他の騎手が乗る馬の調子や癖も探って、ポイント計算もしっかりやって、準備を整えてゲートインすることが大切ということだ。第1回YJSに挑んだ先輩2人の言葉だけに重みがある。

 2年ぶりに開催された笠松ラウンドは好天に恵まれて熱戦が繰り広げられた。一連の不祥事からの「復興元年」、地方と中央の垣根を超越した若手騎手のナイスファイトは、まぶしい光を放った。YJS初出場で地元Vを飾った長江騎手は、プロ野球ロッテの佐々木朗希投手に似ていることから、最終レース後、「背番号17」のユニホーム姿でのサプライズのイメージ撮影もあった(次回紹介)。