産婦人科医 今井篤志氏

 食物中のカルシウムの吸収を助けるビタミンDが不足している人が増えています。皮膚に日光が当たると体内でビタミンDが生成されますが、皮膚がんやシミを嫌うあまり日焼けを避ける習慣があったり、屋内で働く人が多い現代では十分な日光を浴びる機会が減ってたりしているため、ビタミンD不足になるのです。

 体内にビタミンDが生成されるためには、直射日光(つまり紫外線)が皮膚に当たることが必要です=図=。屋内でガラス越しに日光に当たってもビタミンDは産生されません。当然、曇りの日や日陰ではビタミンD生成量が低下します。紫外線の量は緯度、季節、時間帯によって差があります。夏の岐阜では一日に、顔と両手に10~20分、冬であれば20~40分直射日光を浴びれば十分なビタミンDが合成されます。顔と両手だけでなく、腕や脚にも直射日光を浴びれば、照射面積はほぼ2倍になるので、直射日光が必要な時間は半分です。このようにして体内で産生されるビタミンDは10マイクログラムです。紫外線が皮膚に有害となるのはその2~3倍量を浴びた場合です。

 1日に必要なビタミンDは15マイクログラム以上です。足りない5マイクログラムは食事から取る必要があります。ビタミンDを含む天然食品は非常に限られており、しらす干しや青魚(サケ、マグロ、サバ、サンマ、イワシなど)がビタミンDの最高の供給源です。キノコ類もビタミンDを含んでいます。和食にはよく登場する食材ですので、国民健康・栄養調査では日本人は必要量を摂取しています。一方、米国で市販されている牛乳にビタミンDが添加されていることを例に挙げるまでもなく、欧米人の食生活では、ビタミンD強化食品から摂取しています。

 ビタミンDが不足すると、食事で取ったカルシウムが腸から吸収されません。そのため、ビタミンDが不足すると、骨粗しょう症や筋肉の衰えが起こり日常の活動が制限されます。小児期のビタミンD欠乏は骨が軟化し変形する「くる病」の原因となります。現代ではまれな疾患となりましたが、耳にしたこともあると思います。ビタミンD不足といくつかのがんとの関連性も指摘されています。

 このように直射日光はビタミンDの生成、つまり骨の健康にとってはとても大切な働きをしています。ところが、紫外線を浴び過ぎると、皮膚の細胞の遺伝子を傷付けます。細胞には遺伝子の損傷を修復する機能がありますが、何度も損傷と修復を繰り返すと、遺伝子の突然変異が起きます。その損傷を受けた遺伝子ががんの発生にかかわる遺伝子であると、がん化する確率が高まります。このようにして紫外線が皮膚がんを引き起こします=図=。また、シワやシミの原因ともなります。

 かつては健康美の象徴であった日焼けですが、皮膚のダメージを避けるのみならず過度な美白信仰のため日光を避けるようになりました。これが現代のビタミンD不足につながっています。このビタミンD不足を解消するには食事の工夫と適度な日光浴が必要です。特に紫外線量の少ない冬は、ビタミンDが豊富な食材を積極的に取りましょう。繰り返しますが、紫外線が皮膚に有害となる紫外線量の3分の1から2分の1で十分量のビタミンDが体内で産生されます。

(松波総合病院腫瘍内分泌センター長・羽島郡笠松町田代)