初リーディング確実の渡辺竜也騎手。「笠松年間最多勝」にも挑む 

  デビュー6年目の渡辺竜也騎手(22)が新エースとして華々しい活躍を見せている。今年(12月8日現在)、笠松競馬で148勝を挙げ、2位以下に60勝以上の大差をつけており、初めてとなるリーディングの座を手中にした。笠松競馬「年間最多勝」である163勝超えにも燃えている。

 2位の松本剛志騎手が85勝、3位の岡部誠騎手が77勝で続いているが、年内の笠松開催は残りあと2開催(8日間)。松本騎手らが1日7レース騎乗して全部勝っても届かない。渡辺騎手のリーディング獲得は事実上決まったといえる。
 
 そんな渡辺騎手だが、新たな目標もできた。ヤングジョッキーズシリーズ(YJS)笠松ラウンドで、地元の東川慎騎手と長江慶悟騎手が勝利を飾った11月2日。後輩の活躍とともに渡辺騎手も絶好調で、3連勝に続いてJRA交流戦「美濃菊特別」も制した。帰り際「笠松の年間最多勝の記録、もうすぐだよ」と声を掛けてみると、目を輝かせた。この日も「5個勝ちました」と固め打ちで、130勝超えになった。

 この時点で既にリーディングは当確となっていたが、気を緩めないように「あと30ぐらい勝てば『笠松歴代最多勝』だよ」と新たなニンジンをぶら下げ、「モチベーションにして」と激励した。厩舎関係者からは「165勝」を願う声も聞かれたが、12月は大みそかまでレース開催日が多く、記録更新も夢ではない。

1996年に163勝を挙げ、「笠松年間最多勝」記録を持つ川原正一騎手

 ■歴代最多勝は川原正一騎手の163勝

 NAR(地方競馬全国協会)による1998年以降の記録では、東川公則元騎手の159勝(2007年)が笠松の最高だったが、それ以前の記録(1976年~97年「笠松競馬の概要」)では、96年に笠松時代の川原正一騎手(兵庫)が163勝を挙げていた。18年連続で笠松リーディングに輝いたアンカツさん(安藤勝己元騎手)からトップの座を奪取。それまではアンカツさんの151勝が最多だったが、半年先輩の川原騎手が初リーディングを獲得し、歴代最多勝記録も一気に更新した。97年も152勝でリーディングを獲得し、ワールドスーパージョッキーズシリーズでは2勝を挙げ、史上最高得点で総合優勝を飾った。

 埋もれかけていた笠松の最多勝記録。わが家で山積みになっていた専門紙「競馬エース」をひっくり返すと、96年のリーディング順が掲載されていた(97年の新春特別シリーズ)。紙面はワイドカラー版になり、「もっと近くで笠松競馬」のキャッチコピーが懐かしく感じられた。

 ■渡辺騎手も続くか「初リーディング&最多勝」

 確かにトップは川原騎手で163勝、2着101回で連対率は.443。2位はアンミツさん(安藤光彰元騎手)で139勝、2着96回。3位はアンカツさんで115勝、2着73回で、連対率は.479と川原騎手を上回り、トップだった。アンカツさんは、前年の95年にはライデンリーダーで桜花賞4着と悔しさを味わい、芝コースに慣れようとマカオにも遠征。気持ちは「2~3歳馬での中央G1取り」に傾きつつあった。レースや騎乗馬を絞り込んだようで、96年の笠松での騎乗数は川原騎手より200回ほど少なかった。

 デビューして20年。37歳になっていた川原騎手の勢いはすごかった。逃げ馬が得意で、白星量産とともにいい馬がどんどん回ってきて好循環。初リーディングで最多勝の快挙を達成した。今年の渡辺騎手も同じような状況にあり、川原騎手のように「初リーディング&最多勝」の可能性は十分にある。

ボルドーネセバルでジュニアクラウンⅤ。最多勝記録更新も目指し、新生・笠松競馬の「新しい景色」を切り開く渡辺騎手

 ■序盤のレースから強く「固め打ち」へ

 渡辺騎手は、笠松のレジェンドたちの最多勝記録の数字に刺激を受けたようで、11月の紅葉シリーズ後には「JRA2歳認定競走を勝つなど、8勝しました。歴代最多勝という高い目標を目指して突き進みたい」と自らのツイッター上でも闘志を燃やした。

 「最多勝の可能性がある」と伝えて以降は、笠松の10日間で17勝を挙げており、ハイペースをキープ。東海ゴールドカップがある大みそかまでに15勝を挙げれば、川原騎手の大記録に並ぶことができる。1日2勝程度が必要になるが、序盤のレースから強く、その日の流れをつかむと「固め打ち」へとスイッチオン。いまの渡辺騎手なら、ぎりぎり達成できそうな充実ぶりである。もしクリアできなくても、来年以降、何度もチャンスが訪れることだろう。

 ■切り開け、新生・笠松競馬の「新しい景色」

 名古屋では今年24勝の渡辺騎手。金沢・MRO金賞を勝ったイイネイイネイイネでは、霜月昇竜戦を制した。人気薄で勝利を飾るシーンも多く、名古屋の厩舎の信頼も厚い。全国リーディングでも173勝で11位につけており、ベストテン入りも十分に狙える。

 渡辺騎手の強みはスタートセンスが抜群で、3コーナーからの追いっぷりも迫力を増してきた。笠松競馬のレースは1コーナーへの先陣争い、向正面下り坂での加速、直線でのたたき合いと見どころ満タンだ。川原騎手は笠松時代、NARグランプリの「ベストフェアプレイ賞」(年間100勝以上で制裁なし)にも2度輝いており、笠松競馬の長い歴史でもただ一人の受賞者。そんなレジェンドの背中を追って、渡辺騎手は、26年ぶりとなる最多勝記録更新の「新しい景色」を新生・笠松競馬で切り開くことができるか。不祥事に揺れた笠松のレース浄化へ向けても、模範となる若きエースの騎乗ぶりに注目していきたい。

渡辺騎手とのコンビ復活。9連勝を飾ったラブアンバジョ

 ■ラブアンバジョ9連勝「化け物ですね」

 地元勢3頭が大差で完敗した笠松グランプリの翌日、遅咲きの生え抜き馬が豪快にゴールを駆け抜けた。渡辺騎手は「この馬、化け物ですね」と声を弾ませた。復帰初戦となったメイン「晩秋特別」(B1特別)を勝った牡4歳のラブアンバジョ(伊藤強一厩舎)だった。父はサンデーサイレンスの子・アッミラーレ、母はオペラハウスの子・ナトリフレンドという血統だ。  
 
 デビュー戦以来となる手綱を取った渡辺騎手。最後の直線であっさりと抜け出し、これで9連勝。4月のオグリキャップ記念にも登録していたが、右前脚のけがで出走を取り消した。伊藤強一調教師は「疲労感があったので、早めに夏休みにした。休み明けでフレッシュな状態で臨めるし、動きもいい。この条件なら、どんな競馬になっても負けられない」と送り出した。

 昨年末の岐阜新聞・岐阜放送杯(3歳オープン)を9馬身差で圧勝。騎乗した松本剛志騎手は「このまま負けなしで笠松のテッペンに立てたら」と躍進を期待。今年3月のスプリングアタックを勝って以来8カ月ぶりの実戦となった。2番人気のファントムルージュも、2戦連続で7馬身差勝ちの強い馬だったが、ラブアンバジョは5番手からきっちり差し切り、最後は3馬身突き放した。

ラブアンバジョと返し馬に向かう渡辺騎手

 ■底を見せていない「未完の大器」、重賞戦線で活躍か

 馬体重535キロの雄大な馬体。その成長ぶりは渡辺騎手を驚かせ、「化け物ですね」という言葉には実感がこもっていた。昨年9月の3歳800メートル戦に騎乗し、49秒2の好タイムだったが、差し届かずに1馬身差の3着。その後、松本騎手の手綱で8連勝を飾ったが、2着以下を1秒以上引き離す圧勝続き。休養中も松本騎手は「あれは走るよ」と注目していたが、笠松競馬の新たなスターホース候補に躍り出た。

 復帰初戦、久々の不安はあったが、たくましい走りっぷりに渡辺騎手も「本当に強いですね」と復活を喜んだ。この馬のいいところは「とにかく乗りやすいです。引っ掛かりもないし、手応えが良かった」と好感触。「負かした馬も強かったですが、こっちも強くていい馬です」と。まだB級馬だが、古馬オープンクラスでも通用する実力と存在感を示した。
    
 ファンからも「めちゃくちゃ強いな」と驚きの声が上がったが、ラブアンバジョはまだ底を見せていない「未完の大器」。重賞戦線で活躍が期待される素質馬である。強みは切れ味鋭く迫力ある末脚で、展開に左右されない自在性を備えている。次走で10連勝に挑むことになるが、どこまで連勝を伸ばすのか。デビューは遅れたが、女性ファンに「バジョ、バジョ」とも呼ばれ、声援に応えた。その正体と潜在能力を隠し持ったまま、さらに化け物ぶりを発揮し、ファンのハートを熱く焦がしてほしいものだ。

期間限定騎乗の歓迎セレモニーで、笑顔の若杉朝飛騎手(中央)

 ■20歳の若杉騎手「笠松競馬場に興味があった」

 笠松で期間限定騎乗中の騎手は、12月31日まで再延長した及川烈騎手(18)を含めて計6人になった。北海道からデビュー2年目の若杉朝飛騎手(20)=栗本陽一厩舎=、大井の高野誠毅騎手(38)=川嶋弘吉厩舎=の歓迎セレモニーが笠松GPシリーズ初日に行われた。

 若杉騎手はデビュー以来10勝。昨年の佐賀に続く期間限定騎乗で「笠松競馬場に興味があり、ぜひ来たかったです。コース取りなどしっかり学んで、できるだけ多くの厩舎の馬に乗せてもらいたい。まだ下手くそですが、1月末まで騎乗しますので、応援してください」とファンに呼び掛けた。

 笠松では2着が最高だが、勝利を目指して攻め馬から懸命に励んでいる。これまでの思い出の騎乗馬は「2勝させてもらったキタノプレッジです」と、道営の特別レースで後方から差し切った馬を挙げていた。YJSでは2着、3着もあったが、総合9位でファイナル進出は逃した。馬渕繁治騎手、黒沢愛斗騎手に続く道営勢。若手騎手として注目の的で、笠松初Vでのガッツポーズが期待されている。

歓迎セレモニーで、ファンに活躍を誓った高野誠毅騎手

 ■高野騎手、11年ぶりの笠松騎乗「乗りやすいコース」

 2003年にデビューした高野騎手は、これまで91勝。11年に「技術研さん騎手」として笠松で3カ月間騎乗。9勝を挙げて以来、11年ぶりのチャレンジで同じ川嶋厩舎に所属。「皆さん温かく迎えてくれて、変わらずいいと思います。乗りやすいコースです」。門別に続く期間限定騎乗で「騎乗数も減っていて、自分を変えたいなと。笠松でもファンの皆さんに喜んでいただけるような騎乗で精いっぱい頑張ります」と力を込めた。

 思い出の騎乗馬は「スマイルピースです。自分は乗れませんでしたが重賞(大井・黒潮盃)を勝ちました」。東京ダービー2着馬で、高野騎手自身も騎乗して3勝を挙げた。今回、笠松では2着4回と勝利まであと一歩。通算10勝目となるゴールを目指して張り切っている。 

勝負服が同じだった戸部尚実騎手(左)と平瀬城久騎手のツーショット=2020年9月、西日本ダービー 

 ■名古屋の戸部騎手引退、マルブツセカイオーで笠松重賞2勝

 金沢から期間限定騎乗中の平瀬城久騎手は、既に笠松で6勝を挙げており好調だ。勝負服は、名古屋の戸部尚実騎手(59)と全く一緒だったが、戸部騎手は11月末で引退した。地方通算3018勝の名手で、調教師に転身し、新たなスタートを切った。

 戸部騎手は、笠松ではマルブツセカイオーで全日本サラブレッドカップ(1994年)とオグリキャップ記念(95年)、マサアンビションで笠松グランプリ(2007年)を制覇した。平瀬騎手とは2年前に笠松で行われた西日本ダービーで枠順が8番、9番で隣同士になったこともあった。もう2人の勝負服がレースでかぶることはなくなったが、今後は「戸部調教師」としても笠松で重賞Vを飾っていただきたい。

YJS浦和ラウンドで勝利を飾り、ファイナルラウンドに挑む及川烈騎手(埼玉県浦和競馬組合提供)

 ■及川騎手は16、17日にファイナルラウンド参戦

 「ミスターオレンジ」の及川騎手は既に笠松で半年を過ごし、騎乗技術はどんどん向上。浦和在籍中は1勝どまりだったが、期間限定で笠松所属後は17勝を挙げており、もう「笠松がホーム」と呼んでもいいほどだ。上位人気馬への騎乗も増えており、結果を残している。このうちYJSでは2勝(盛岡、浦和)を挙げており、地方・東日本地区トップの成績でファイナルラウンドに進出。16日・名古屋、17日・中京での活躍が期待される。

 金曜日が初日で変則日程となる笠松競馬ウインターシリーズ(9日、13~15日)では、及川騎手の壮行セレモニーやオリジナルマスク(埼玉県浦和競馬組合提供)のプレゼントも行われる。

 7月から実習を続けてきた松本一心騎手候補生(加藤幸保厩舎)は、12月14日まで笠松で実地訓練。午前1時台からの攻め馬では、父親や若手騎手らからアドバイスを受けて、技術向上に努めてきた。レース開催中には、馬具の手入れなどで先輩たちをサポート。「卒業試験」の修了実技に備えて、栃木県の地方競馬教養センターに戻り、地方競馬騎手免許取得を目指す。笠松での実習は約5カ月間で「早かったなあ。来年4月デビューだね。頑張って」とエールを送った。笠松待望の生え抜き騎手として、再会できる日を楽しみに待ちたい。