咲いたカミツレの刈り取り作業=5月、大垣市友江(農事組合法人大垣南提供)
植え付けて間がないカミツレの苗を確認する名和正さん=大垣市入方
カミツレの花

 ハーブティーやのどあめの原料として使われ、ハーブの中でも身近な存在のカミツレ(カモミール)。入浴剤や化粧品などの原料としても使われる。岐阜県大垣市は花の観賞用以外の、原料として使われるカミツレの生産量で日本一を誇る。カミツレ生産が盛んな市南部では、春になるとカミツレの白い花が咲き誇る姿が見られ、春の風物詩の一つにもなっている。なぜ大垣市でカミツレ生産が盛んになったのか。その歴史に迫った。

 生産が始まった理由は、実ははっきりしている。日本でもカミツレを使った商品を開発しようと考えた長野県出身の北條晴久さん(故人)が、大垣市を通じて生産に取り組んでもらえる農家がないか1981年に打診。市が大垣南営農組合(現農事組合法人大垣南)を紹介したことがきっかけだ。

 北條さんは初め、北海道でカミツレ生産に挑戦していたが、当時は栽培方法が確立されておらず、失敗していたという。困っていたところ、大垣市に住む親戚から減反政策で市内の農家が困っていることを聞きつけ、米の代わりにカミツレを栽培してもらえるのではと考えた。減反で米の生産ができなくなった農地が1割あったこともあり、組合長を務めていた名和敏雄さん(故人)がまずは試験的に取り組むことを決断したという。

 3年間の試験栽培を踏まえ、84年から本格的な栽培に着手。同年、市薬草組合もつくり、ピーク時には20軒以上の農家が参加したという。今では農家の担い手不足で8軒にまで減少しているが、カミツレ生産日本一の座を維持している。

 名和さんの次男で大垣南代表理事、市薬草組合組合長の正さん(63)によると、実はカミツレの生産はそれほど難しくはないという。カミツレは冬の寒さにも耐えることができる強い植物で、管理が楽なため生産量を増やしやすかった。

 また北條さんが設立したSouGo(ソウゴ、長野県池田町)が、カミツレを使った入浴剤や化粧品を「カミツレ研究所」のブランドで展開している。ソウゴは最も多く国内産のカミツレを原料として使っている会社で、大垣で栽培したカミツレを全量購入していることも安定して生産できる理由だ。ソウゴの取り扱い量では大垣産が最大。今も薬草組合全体で3ヘクタール程度の農地で年間10~20トン程度を生産しているが、「もっと生産してほしいと言われている」という。

 栽培を始めた当時は化学肥料も使っていたが、肌に直接使うもののため、今は完全無農薬で栽培。11~12月ごろに苗を植え、翌年4~5月ごろに花が咲いたカミツレを収穫する。天日干しをしてからビニールハウスの中で乾燥させて水分含有量を10%程度にまで減らし、切断して出荷するのが生産の流れだ。

 また最近では民家が増えてきたこともあり、トラクターなどで騒音が発生したり道路を泥で汚したりしてクレームを受けやすい他の農産物よりも、カミツレのほうが楽に栽培できるという。このため大垣南では、民家近くの農地は徐々にカミツレ生産に切り替えていく方針だ。

 「今は大垣市の花はサツキだが、日本一の生産量のカミツレは市の看板でもある。将来はカミツレが市の花になるくらい浸透していけば」と正さんは話している。