関係者検討会議終了後、記者の質問に答える堀裕行県健康福祉部長(左)。措置入院制度運用の今後の方向性を示した=県庁

 11月30日午後、県庁3階の記者会見場。県はこの日の午前、関係者を集めて措置入院制度の運用などを話し合う第3回検討会議を非公開で開いており、会議の内容や今後の方向性を報道各社に説明する、としていた。「岐阜県の措置診察率が全国比でかなり低い」「国のガイドラインに沿わずに診察の要否を県独自に判断しているのでは」。さまざまな疑問を抱くマスコミの前に座ったのは、県の健康福祉部門のトップ、堀裕行部長ら。トップ自らよどみなく説明し、次々と質問に答える様子からは、県もまた、明らかになった課題を深刻に捉えている姿勢が見てとれた。

 会議出席者によると、5月に第1回の会合が開かれた当初、県は「もし改善すべき点があれば、改善につなげていく」と受け身とも取れるスタンスだった。だが、出席者からは厳しい意見が相次ぐ。「県保健所は基準が厳しすぎるのではないか」「運用を検証できる体制が必要だ」。県保健所の判断基準について、曖昧さを指摘する声が次々と挙がっていた。そもそも県が設ける有識者会議などは年度いっぱいを使って結論を出すのが通例だが、この検討会議は短期間に、大きく動いた。

◆前進といえる

 「一事例一事例、さまざまな背景がある。通報についての対応の振り返りを関係者でやっていく」と堀部長。3回の会議を経て導き出したのは、通報対応に関する検証体制の導入だった。

 体制は三段構えになっている。まずは専門家を交えて県保健所や医療機関、県警などの関係機関による意見交換の場を定期的に設け、一つ一つの判断が適切だったかを抽出して振り返る。次に、県の保健医療課に置く検証の場に集約して話し合う。そして、それらの結果を、精神保健福祉に関する事項を議論する県精神保健福祉審議会に報告する。

 さらに、時間帯や曜日にかかわらず、いつでも円滑に精神保健指定医へつなげるよう「当番制」を導入するため、医療機関との協議を始める。また、精神保健福祉士の配置や保健師の増員など、人員の拡充に向けた今後の検討事項も示された。堀部長は記者の質問に「一定の方向性を示せたので、(検討会議は)一区切りする」と述べた。

 「前進といえる結論を見いだせたのでは」。県のこれまでの対応に疑問を持っていた検討会議の出席者の一人は「一つ一つの事例がより丁寧に検証されることで、本来は診察が必要な人を取りこぼす恐れを小さくしていける」と一歩踏み込んだ方向性を評価した。裏返せば、県ではこれまで十分な検証がされないまま、措置診察の要否判断などの制度運用がなされ、関係機関同士でそれぞれ不満を抱え込む中で、当事者が置き去りにされてきたということだ。この出席者は「なぜもっと前から取り組んでおかなかったのか、という疑問はあるが…」とさえ言った。

◆長年の不信感

 一方、方向性が示されてもなお、保健所への不信感が拭えない警察官もいる。「これで変わるのか疑問が残る」と語るのは、岐阜地域の署の警察官。長年、暴れる当事者を懸命になだめ、おびえる家族に寄り添いながら、保健所も力になってくれず、無力感と孤立感を抱いてきたためだ。苦悩の蓄積があるだけに、問題の根は深い。「素直には受け止められないが、『一緒に向き合いましょう』と言いたい。関係者それぞれの意識が変わるきっかけになってほしい」

 【関係者検討会議】 今年3月の県議会定例会で、岐阜の警察官通報に対する措置診察率が全国的に見て相対的に低いことについて、自民県議から指摘を受けたのを契機に、県が5月に設置。措置入院制度の運用に改善すべき点があるかを検討するため、有識者や医療関係者、弁護士、当事者らを交え、非公開で協議した。