厚生労働省が都道府県知事などに通知した「措置入院の運用に関するガイドライン」

 通報事案の対応を検証する場の設置、当番制の導入、精神保健福祉士の増員-。有識者を交え県が11月30日に非公開で開いた第3回関係者検討会議では、県内の警察官通報や精神保健行政の行方を大きく左右する新たな方向性が次々と示された。

 会議の内容についての報道各社への説明では、県健康福祉部の堀裕行部長が自ら各施策を詳述。その終盤、「それから」と前置きし、最も重要な今後の動きの一つを紹介した。

 「国のガイドラインの運用に都道府県で大きく差が生じないよう、きちんと基準を国に示してもらうよう要望していく」。2020年度の岐阜県の措置診察率は11・0%、全国平均は51・2%、トップの広島県は98・1%。各都道府県の運用を統一し、この差を是正するため、岐阜県が国に意見する-。その決意を静かに表した。

 ガイドラインは、警察官通報を巡り国が標準的な手続きなどを取りまとめたもので、「措置診察を行わない場合の判断基準」を4項目示している。一方、県が措置診察を行わなかった事例を検証したところ、13の理由に分類されたため、「県がガイドラインを拡大解釈し、措置診察を不要としているのではないか」との疑念が指摘されていた。

◆抽象的すぎる

 そもそも、ガイドラインは、どのようにしてつくられたのか。

 策定に携わった千葉県精神科医療センター(千葉市)の名誉病院長で、精神保健指定医の平田豊明氏は「妥協の産物だった」と明かす。策定の過程で、警察庁や保健所、医療関係者などそれぞれの意見が平行線をたどったためだという。中でも「4項目」については、「あまりに大ざっぱで抽象的すぎて、行政の主観的判断の余地が多すぎる表記」と認める。

 ただ、精神保健福祉法に基づくと、措置診察へ結びつけるのが原則。実際、ガイドラインでは「判断に迷う場合は、措置診察を行う決定をすることが適当」としている。平田氏は「適正な基準があれば、岐阜県の措置診察の件数はおのずと全国に近づくものと思われる」と指摘した。

 同じくガイドライン策定に携わった、千葉大社会精神保健教育研究センター(千葉市)の椎名明大特任教授は「通報は全て診察につなぐこと、とは書けなかった。精神保健行政がパンクしかねない」と4項目を定めた経緯を説明する。他方で、法に基づけば診察はすべきというジレンマがある。「法の原則にガイドラインで例外をつくるのも、法学的には正しくない。その点の書きぶりは、かなり難しかった」と打ち明ける。策定に携わった有識者でさえ、「4項目」の存在や、その文言に葛藤を抱えていた。

◆一定数で推移

 県保健医療課の担当者は「本来は国で詳細な部分まで指示する必要があるのではないか」と指摘する。だとすれば、岐阜県内の通報が診察につながらない事象は、国のガイドラインに問題があるからなのか-。しかし、厚生労働省の統計によると、岐阜県ではガイドラインができる18年より前から、通報数が多くても、少なくても、措置診察の数は年10~20件台の一定数で推移している。その要因は、どこにあるのか。

 椎名氏は明快に答えた。「理由は単純です。措置診察に対応できる精神保健指定医の数、そして収容可能な病床の数が、岐阜県では変わっていないからです」

 【措置入院の運用に関するガイドライン】 精神保健福祉法に基づく通報などの中で、特に多い警察官通報を契機とした措置入院について標準的な手続きを示したもの。厚生労働省が2018年3月、各都道府県知事などに通知した。警察などの関係機関と協力し、適切な運用に努めるよう求めている。