一連の不祥事から「笠松競馬・復興元年」となった2022年。「ウマ娘シンデレラグレイ賞」では、オグリキャップの聖地巡礼で若者らが殺到。新エース・渡辺竜也騎手が初めてのリーディングを獲得し、笠松競馬「年間最多勝」の歴代記録を塗り替えた。オグリキャップの孫娘・レディアイコは笠松の聖地で疾走するなど明るいニュースが多かった。

 一方でコロナ禍での1開催取りやめ、放馬事故で厩務員2人がけがを負うアクシデントがあった。騎手、競走馬不足による運営面では綱渡りの経営が続いているが、前年度に背負った巨額赤字は、好調な馬券販売による黒字化で解消へ。8カ月間もレース自粛となった2021年が暗黒期だっただけに、ようやく希望の光が差し込んできた。再生へと走り抜けた1年。「オグリの里2022十大ニュース」として振り返った。

 

①「ウマ娘シンデレラグレイ賞」で聖地巡礼ファン熱狂(4月28、29日)

 「鳴り響いた感動の拍手」 オグリキャップが育った笠松競馬場の原風景を体感しようと、聖地巡礼の10~20代のファンが押し寄せた。午前1時に来た男性が一番乗りで、開門前から長い行列ができ、雨の中、約5000人(コロナで上限規制)が来場。昭和レトロの場内を埋め、ご当地グルメも堪能。聖地のシンボルであるオグリキャップ像前には、オグリとタマモクロスのウマ娘パネルが設置され、スマホでの撮影スポットに。配布されたオリジナルうちわも人気を集めた。

 芦毛馬限定のコラボレース「ウマ娘シンデレラグレイ賞」では、記念馬券を手にしたファンが熱視線。深沢杏花騎手騎乗のヤマニンカホンが、先頭で4コーナーを回って逃げ切ると、感動したファンらの温かい拍手が長~く鳴り響いた。馬券を買えない世代も「いいレースをありがとう」。映画のラストシーンを見るような、胸の高鳴りを体感。有馬記念Vでのオグリコールを思い起こさせる感動の嵐が駆け抜けた。

 「オグリキャップの聖地で勝つことができ、光栄です」。前日には看板レースのオグリキャップ記念が2年ぶりに復活し、岡部誠騎手が騎乗した船橋のトーセンブルが1番人気に応え、差し切りVを決めた。通算5勝目で「ミスターオグリキャップ記念」とも呼べる活躍ぶり。笠松のレジェンドであるアンカツさんから花束が贈呈され、「名馬、名手の里」の再生を力強くアピールした。

 

②渡辺竜也騎手、初リーディングと歴代年間最多勝を達成(12月)

 「ハーイ、大記録に並んで抜いた」 笠松の若大将として新たなエースとして、華々しい活躍を見せた渡辺竜也騎手(22)。左腕骨折のけがから復帰した1月末の開催では、1日6勝を飾るなど完全復活をアピール。1開催2桁勝利も目立ち、快進撃。4月末~5月には45戦連続で勝てない「低空飛行」もあったが、6月の東海ダービー2着(イイネイイネイイネ)を機に「V字回復」。1開催16勝を挙げるなど白星を量産。デビューして6年目。笠松競馬歴代最多勝の164勝目(12月29日)を挙げ、2位以下に大差をつけて初めての騎手リーディングに輝いた。

 目標は大きく、連日の固め打ち。年末特別シリーズ初日に3勝を挙げ、1996年に笠松時代の川原正一騎手(兵庫)が記録した最多勝「163勝」に並んだ。自厩舎の5歳牝馬・ハーイ(笹野博司厩舎)に騎乗し、逃げ切りVで到達。本人も「ハーイですよ」とニヤリ。2日目にもやはり自厩舎の3歳牝馬・ホウオウカグヤに騎乗し、2番手から差し切り勝ち。王手をかけて2戦目、新記録をあっさり達成し「ホッとしています」と喜びをかみしめた。

 名古屋で24勝、金沢で1勝を挙げており、全国リーディングでも10位に躍進。9月には地方通算500勝も達成。重賞勝ちは金沢・MRO金賞(イイネイイネイイネ)で通算6勝目。セイジグラットで笠松準重賞・ジュニアキングも制しており、「重賞ハンター」としての活躍も期待されている。

 

③復興元年、巨額赤字から黒字化へ

 「再び右肩上がりの勢い」 2021年に8カ月間もレース開催が自粛され、3月までの21年度収支は実質3億6780万円の赤字となった(当初見込みの4億5千万円から縮小)。8年間続いた右肩上がりの黒字化はストップ。馬券販売などによる歳入は224億4930万円(前年度比24.3%減)となった。

 「新生・笠松競馬」として復興元年となった22年度は開催日を4日増やして99日に。好況な地方競馬界の波に乗って、笠松もインターネット投票による馬券販売が好調。応援するファンたちに支えられて「1日平均4億円」の目標をほぼ達成。再び右肩上がりの勢いで、「黒字5億7000万円」を見込んでおり、21年度分の赤字を返済していく。

 それでも騎手、調教師が馬券を購入していたという「黒い霧」のダーティーなイメージが、すぐに消えることはなく、一部には「笠松の馬券は買わない」という声もある。どん底からはい上がったが、今後も農水省やNAR(地方競馬全国協会)の厳しい監視の目が注がれ、全国の競馬ファンも笠松のレース内容に注目。不祥事の再発防止に努め、公正競馬による「クリーン度100%」を徹底。フェアプレーでエキサイティングなレースが求められている。

 

④イイネイイネイイネ東海ダービー2着(6月7日)、タニノタビトは3冠(8月25日)

 「追い比べ、アタマ差で届かなかった」 東海ダービーは弥富市に移転した名古屋競馬場で初開催。東海1冠目・駿蹄賞1、2着の岡部誠騎手・タニノタビト、渡辺竜也騎手・イイネイイネイイネが再戦。向正面でギアを上げたタニノタビトがアタマ差でイイネイイネイイネをかわして2冠目。名古屋、笠松のリーディングを走る2人によるマッチレース。ゴール手前の勢いは渡辺騎手だったが、最後の一追いで岡部騎手が上回り、東海公営の歴史に刻まれる名勝負となった。

 レース後、渡辺騎手は非常に悔しそうだったが、「自分の心の余裕や冷静さの大切さを学んだ」といい、大きな経験になった。一時は勝てない日々が続いていたが、ターニングポイントなった東海ダービー。その後はVを量産し、笠松での年間勝率は25%を超えた。
 
 イイネイイネイイネで金沢・MRO金賞を制覇。岐阜金賞では地の利を生かしリベンジを果たしたかったが3着。タニノタビトがコンビーノをアタマ差、鮮やかに差し切り、力強く「3冠ゴール」。岡部騎手は自らも3冠ジョッキーとなり、「僕、3月3日生まれですし」と3本の指を立てながら満面の笑みを見せた。

 

⑤オグリキャップ孫娘のレディアイコ、笠松で疾走(2、3月)

 「アイコちゃん、よく頑張った」 オグリキャップ孫娘で芦毛の4歳牝馬レディアイコ(父モーリス、母ミンナノアイドル)が、JRAから岩手を経て笠松に移籍。祖父も走った笠松競馬場で、待望のデビューを果たし、ダートコースを駆け抜けた。後藤佑耶厩舎に所属し、長江慶悟騎手らが攻め馬で気合を注入。初戦は青柳正義騎手の騎乗で3番人気。力走及ばず6着だったが、ファンの前で元気いっぱい晴れ姿を披露した。

 2戦目は岡部騎手の騎乗で積極策。3~4コーナーを先頭で回ったが、最後は4着だった。笠松で初勝利を期待されていたが、朝の調教を終えて厩舎に戻ると、左後ろ脚を骨折していたことが判明。そのまま現役引退となった。JRAデビューから10戦して3着が最高の成績だったが、馬体重400キロ前後の小さな体でよく頑張った。体力的に繁殖牝馬になることは難しく、故郷の北海道・佐藤牧場に戻って療養後、8月以降は別の牧場(ヴェルサイユリゾートファーム)へ。佐藤牧場生まれの名馬エンパイアペガサスが種牡馬生活を送っており、レディアイコも一緒に暮らし、訪れるファンらの心を癒やしている。

 

⑥YJS笠松で東川、長江騎手勝利(11月2日)及川騎手ファイナル進出(12月16、17日)

 「勝ったけど、しんがり負けも」 ヤングジョッキーズシリーズ(YJS)笠松ラウンドで、地元の東川慎騎手(21)と長江慶悟騎手(23)が勝利を飾った。長江騎手は第1戦、自厩舎のボルドーアドゥール(後藤佑耶厩舎)に騎乗し、差し切りV。「馬の力で勝たせてもらいました。次のレース7着以内でファイナルへ」と意欲を示したが、第2戦は騎乗馬に恵まれず、ズルズル後退し10着でファイナリストの座を逃した。

 東川騎手は第1戦、しんがり負けでファイナル進出ならず。第2戦は断トツ人気のシルバーサークル(伊藤強一厩舎)に騎乗。豪快に追い込んでVゴールを決めた。「YJSで勝ちたくて、うれしかった。いつか中央に行けるように頑張る」と意欲を示した。

 笠松で期間限定騎乗の及川烈騎手(18)=浦和=はYJS盛岡、浦和ラウンドで勝利を飾り、全体トップの好成績でファイナル進出。名古屋、中京の4戦では果敢な逃げで先頭に立つなど健闘したが、7着が最高で総合14位。笠松での武者修行でこつこつと勝利を積み重ね、大きく成長した。

 

⑦期間限定騎手9人「助っ人」に、コロナ禍で1開催取りやめ

 「十代若手も笠松デビューで2桁勝利」 不祥事の余波で所属騎手数は1桁に半減し、レギュラーはわずか9人。名古屋の騎手のほか、冬場を中心に期間限定騎乗で多くの「助っ人」が来場。北海道、岩手、金沢、南関東、高知から計9人。青柳正義騎手が短期間に20勝を挙げたほか、黒沢愛斗騎手、馬渕繁治騎手(北海道)らが活躍した。2月には新型コロナウイルスのクラスター(集団感染)が発生し、騎手らがダウン。1開催が取りやめになる厳しい事態に陥った。このため、高知から参戦した妹尾将充騎手は予定を早めて帰ったが、地元のレースでの落馬事故で大けがを負った。
 
 十代の若手騎手も参戦し2桁勝利を飾った。南関東からの田中洸多騎手(大井)は2度の期間延長で計13勝。6月から参戦した及川烈騎手(浦和)も再延長で17勝。若手にとっては、騎乗機会が多い笠松で腕を磨くことは飛躍への大きなステップにもなる。

 

⑧笹野博司調教師が通算1000勝超え、全国リーディング2位

 「ファンに『おいしい馬券』を提供」 笹野博司調教師が自身の笠松歴代最多勝記録を更新して170勝に到達。笠松最多タイとなる7年連続の調教師リーディングの快挙も達成した。ピザ屋の店長さんから笠松の厩務員に転職し、調教師になってまだ10年。応援するファンに「おいしい馬券」を提供してきた。2018年、ビップレイジングで東海ダービーを制覇。22年1月には地方通算1000勝の大台をクリア。「開業後、トウホクビジンでの姫路重賞勝ちやストーミーワンダーの活躍(重賞5勝)が思い出深い」。今後の目標として「全国調教師リーディングと、全国で活躍できる馬づくり」を挙げた。

 年間勝利数は高知の打越勇児調教師に続く全国2位に躍進した。東海公営でも2020年の全国リーディング・角田輝也調教師を上回り、自身初めての「東海リーディング」も奪取。9月には、渡辺竜也騎手・アリオンダンスで地方通算1100勝も達成。重賞は2月にスタンサンセイでウインター争覇を制した。現役管理馬は60頭以上に増えており、今後の全国リーディングトップも現実味を帯びてきた。

 

⑨藤原幹生騎手、全国ジョッキーズチャンピオン準V(5月8日、31日)

 「帰り支度をしていて、びっくり」 2022地方競馬ジョッキーズチャンピオンシップは愛知の岡部誠騎手が佐賀、浦和で勝利。総合Vを決め、地方騎手の王者に輝いた。笠松の藤原幹生騎手は佐賀で6着、9着で総合10位と出遅れ。浦和第1戦は12着に終わり、この時点では最下位だったが、最終戦で差し切り勝ち。 10人抜きで総合2位に突っ込んだ。藤原騎手は「全然駄目だと思って帰り支度をしていて、びっくり」、岡部騎手と共に表彰を受けた。

 名古屋、笠松競馬代表がワンツーフィニッシュ。東海公営のジョッキーのレベルの高さを全国にアピール。岡部騎手は8月・札幌競馬場での「ワールドオールスタージョッキーズ」に地方代表として参戦。武豊騎手が総合優勝を飾り、岡部騎手は初戦2着の後、12、4、11着で総合6位と健闘した。

 

⑩馬道で放馬、厩務員2人けが(11月15日)

 「人的被害、薬師寺厩舎への集約迅速に」 笠松競馬でまた放馬があり、厩務員2人が骨折などのけがを負った。笠松競馬場内での調教を終えた3歳牝馬が円城寺厩舎へ帰る途中、専用馬道内で暴れだし、前方の4歳牡馬に衝突。驚いた牡馬が一般道に侵入したがすぐ確保された。牝馬に引きずられた厩務員は右腕を骨折。牡馬に騎乗していた厩務員は、背中に打撲を負った。

 2013年10月の堤防道路での衝突・死亡事故以来、9年ぶりに人的被害が出た放馬事故。笠松競馬では22年度、競走馬が厩舎や馬道から一般道に侵入する放馬が相次いでおり、計5件も発生した。いずれも競馬場から1.5キロ離れた円城寺厩舎の馬が起こした。組合は競馬場と円城寺厩舎間の長距離移動が脱走の「根本原因」との認識を示した。競馬場に隣接している薬師寺厩舎への集約案が7年前に浮上していたが、整備は未着手。放馬再発防止には、抜本的な対策が急務。コンパクトな厩舎にリニューアル。薬師寺厩舎1カ所への集約を迅速に進めるべきである。

 

番外・笠松競馬秋まつり盛況(11月8日)

 「1番人気はオグリキャップのゼッケン」 笠松競馬場内を開放した「秋まつり」が4年ぶりに開かれ、若者グループや家族連れらで盛況となった。若手騎手や与田剛さんのトークショー、プリキュアショー、プロレス教室&観戦で場内は熱気ムンムン。2100人超が来場し、コース内を歩いたり、騎手バス乗車やスターター体験など盛りだくさんのイベントを楽しんだ。

 チャリティーオークションも開かれ、若手騎手たちはマイグッズを高く買ってもらおうとステージに登壇。騎手の勝負服やゴーグル、サイン入りゼッケンなどお宝グッズの数々が登場。熱いバトルとなり、1番人気はオグリキャップのゼッケン(レプリカ)。安藤勝己元騎手のサイン入りは11万円の高額で落札された。このほか、場内では競馬グッズを販売する「小栗孝一商店」、正門前では愛馬会の「軽トラ市」も随時出店されており、笠松競馬ファンの人気を集めている。